『徒然草』とは
仏教的無常観・老荘的虚無思想・儒教的倫理観が基盤にあるとされ、また、作者兼好法師は和歌四天王の一人に数えらたように、美的感受性にも優れている。
要約
この世には、願わしいことが多い。
天皇や貴族は畏れ多く尊い。摂政・関白と、上流貴族が貴いのは言うまでもない。
僧はまったくうらやましくないが、一途な世捨て人は別だ。
容貌・容姿は優れているほうがよい。話し方が魅力的で口数が少ない人は、向かい合っていて飽きることがない。
家柄や容貌は天性のものだが、心ばえや教養などは本人の努力次第で向上できる。
学問・漢詩・和歌・管弦などに通じ、有職(ユウソク、朝廷や公家の儀式・行事・官職などに関する知識)・儀礼に明るいことが望ましい。また、字がうまく、声がよく、酒も飲めるのが、男としてはよい。
現代とはかなり異なる価値観が語られています。でも、身分や男女や社会的地位の差を認めない現代の民主主義は何百年も続いていたわけではなく、ここ70年の歴史しかありません。特に、一千年以上の歴史を持つ古典を理解する際、現代を絶対化して読むと意味不明になることもあるので注意しましょう。
氏素性(うじすじょう。生まれや家柄の意。)の望んでもかなうことがない動かし難さ、僧侶は一番うらやましくないもの、そして、生まれついた身分や能力とか、ぶさいくな顔とか、現代では表立って語られないこと。
現代も、事実であっても言ってはいけない建前で、人は皆平等にチャンスが与えられているとか、願えばかなうとか、やればできるとか、話し合えば理解しあえないことはないとかの虚構を前提として成り立っているのも、変だといえば変。最近はルッキズムが唱えられる時代でもある。
でも、そんなことを差っ引けば、魅力的なものの言い方や教養・素養・趣味を磨いていくことが人を魅力的にするなど、現代でもというか、数値化とかデータとか、エビデンス(証拠・根拠)とか分かりやすい成果が過剰に求められる現代だからこそ身にしみてそうだなあと思わせることが、簡明に語られていると思います。
最後の段の、学問を修め、漢詩・和歌を作り、楽器を演奏し、有職故実(朝廷や公家の礼式・官職・法令・年中行事・軍陣などの先例・典故。)に通じることが並外れて優れ、達筆で歌がうまく酒をたしなむ豊かな趣味について述べているととらえました。
700年以上昔、兼好が貴族階級を観察し、兼好が望む理想の貴族・有閑教養人像が書かれていると考えていいでしょう。
いでや、この世に生まれては 問題解答(解説)
問1 a ウ b キ c ア d オ
問2 e おぼゆる(←「ぞ」の結びとなり連体形、「おぼゆ」はヤ行下ニ。)
f まほしけれ(←「こそ」の結びとなり已然形、「まほし」は形容詞シク活用型。)
問3 「多か」は形容詞(ク活用)「多し」の連体形「多かる」の撥音便化した「多かん」で、撥音の無表記。「めれ」は推量(婉曲)の助動詞「めり」の已然形、「こそ」の結びとなっている。
問4 ② 世間の人々が騒いで噂しているにつけても、(心ある人からは)立派だとは思われない
(←「ののしる」は、高い評判が立つ、自らが威張って騒ぎ立てる、ではないでしょう。)
③ 勧められると困ったようなようすをするものの、酒は飲めないわけではないのが。
(←「いたましうする」は、痛み入り困ったような様子をする意。「下戸」は酒がニガテなこと、また、その人。酒好きは「上戸(じょうご)」。本来は、中国で富家を上戸、貧家を下戸といい、婚礼の祭、酒を上戸は八瓶、下戸は二瓶用意することから、酒を多く飲む人を「上戸」と、少ない人を「下戸」と言うようになったという。酒を大飲み大騒ぎするのはいただけない、でも、控えめにたしなむのは男としてあるべし。典型や極端(中心)より周辺に価値をより見出そうとする…(「花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。」とアナロジーできます。)
advanced Q.
α 人は、容貌や風采・態度のすぐれているのが望ましい。 (25字)
β ともかく人は、心をみがき、学芸をみにつけるべきだ。 (25字)γ 学問才能などで人の手本となり、また趣味豊かな人が望ましい。 (29字)
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