岩井克人
マルジャーナの知恵
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差異と消費購入意欲
HP問題の問4Dの「差異そのものを意識的に創りだしていかなければならない」について。
差異は、次のようにして作り出されています。
①イノベーション(技術革新)によって機能や品質を高める。
②ブランド・イメージをを高める。
③情報商品では情報の質・信頼性・速報性・希少性などの価値を高める。
それぞれ具体的には次のような方法がとられています。
①では、より薄い、高機能、高品質のスマホを製造して販売する/他社製品と同じ機能を持つが、より低価格の機器を開発して販売することなど。
②では、社会貢献をしたり、オリンピックへ資金提供をしたりして、自社のブランド価値を高めること/比較広告によって自社の商品が他社のものより優れている点を視聴者に印象付けること/季節や期間限定を謳った商品/有名シェフ監修を謳った食品・飲料などがよく使われる方法…など。
③では、限定された人だけが知ることのできるプレミアム情報の提供を謳(うた)う有料メルマガ・ブログ/ニュースだけではなくブログ・SNSなど関連するコンテンツに相互リンクできるニュースサイト…など。
企業は、技術革新や商品のイメージ操作やブランド価値の向上によって類似する他の商品(モノ・サービス・情報)との「差異」を創り出し強調し購入消費に導こうとしていること、知っていますよね。
現代資本主義が直面している問題
現代資本主義は、需要(モノやサービスなど、何か望んでいる消費者の欲求)を上回る供給(モノやサービスを市場に出すことやその数量)過剰のしくみに直面していると言われています。今以上のモノやサービスは必要と感じないというマインドが支配的。さらに、我が国はここ30年以上賃金が漸減(ざんげん)しつつあり、先行きへの不安から消費することを抑制するということもあります。企業は「差異」を創りだし消費者の購入を促(うなが)そうとするが、効果が現れない…長年続く不景気・デフレ、そういうスパイラルに陥(おちい)っているといわれています。世界中で金利を下げたり・紙幣をたくさん印刷して供給したり(=お金の価値を下げ、人に物を買わせようとする政策)、企業活動を活発にするため規制を緩和したりしています(2015.2月現在)。もはや資本主義は資本を投下して増殖するという資本主義本来の運動が不可能になっている、新しい時代のビジョンとそれへの備えが必要となっている局面を迎えているという経済学者(例えば、水野和夫さんや斎藤幸平さんなど)もいます。そんな観点も知っていれば、今の生活、勉強、卒業後の進路を考えたりする時、また、小論文対策などに有益だと思います。
「マルジャーナの知恵」の論理の構成
〈Ⅰ商業資本主義は遠隔地と国内の価格の差異から、Ⅱ 産業資本主義は労働力の価値と労働生産物の価値の差異 から利潤を創りだしてきた。〉
↡ ↡ ↡
〈情報の本質は差異 だ。〉
↡ ↡ ↡
〈 Ⅲ 現代の資本主義は情報を商品化してその差異を利用して利潤を得るものである。〉
↡ ↡ ↡
〈 Ⅰ 商業資本主義もⅡ 産業資本主義もⅢ 現代の資本主義も差異から利潤を生み出すことが分かる。〉
〈情報の本質は差異 だ。〉
↡ ↡ ↡
〈 Ⅲ 現代の資本主義は情報を商品化してその差異を利用して利潤を得るものである。〉
↡ ↡ ↡
〈 Ⅰ 商業資本主義もⅡ 産業資本主義もⅢ 現代の資本主義も差異から利潤を生み出すことが分かる。〉
もっと短くすると、資本主義は結局差異から利潤を創りだすことを本質とするということになります。
高1の皆さんには、例話を除くと、中学の教科書レベルとの難易度が違いすぎてちょっと難しい評論だと思います。大人でも、ふだん文章を読む習慣がなければ難しいと思うレベルの評論です。語句の意味を正確に理解し、脳をフル回転して読み込んでみてください。
★ 「資本主義」の対極にあるのが「社会主義」。でも、上の図には要注意です。潔癖で正義心の強い若い人たちは、ついつい「社会主義」にひかれてしまいます。「社会主義」を看板にして、実は人類史に逆行する理不尽な国家(「赤い繭」)の現実も知っておく必要があります。19/09/2019
マルジャーナの知恵 問題解答(解説)
問1 解答例…「情報」そのものを商品化するという現象によって変貌しつつある資本主義の様相。
(38字。キー・ワード「資本主義」「変貌」『「情報」…を商品化』。「それ」は、一言で言えば、「資本主義」が「変貌」していること。その「変貌」を語るキー・フレーズが『「情報」…を商品化』。)
問2 解答例…差異こそが情報の本質だと気づいたこと。
(19字。「白いチョーク」で始まる段落に『ほかとの違い、すなわち「差異」こそ、賢く美しいマルジャーナが発見した情報の本質なのである。』を20字以内でまとめます。)
問3 解答例…農村の過剰人口を背景に、労働力の価値と労働力の生産物の価値との差異から利潤を生み出す構造。
(47字。この段落は「いままでの資本主義」は2種あると述べられて、ひとつは「外部的な関係として」、もうひとつは「隠された構造」として作用するものであったとされる。それは具体的にはどういう資本主義なのかが、「たとえば A また B 」と展開されている。よって、「隠された構造」が作用しているのは、B=「産業資本主義」ということとなり、解答は、「農村における過剰人口…労働力の価値…労働の生産物の価値…差異…利潤」のキーとなる語句で論理を組み立てることになる。「隠された構造」と「構造的に創りだされた」と対応していることにも気づく。)
問4 解答例…遠隔地の価格と国内市場の価格とのあいだに存在する差異。
(問3と同様。前段落に「商業資本主義」とはどういうものかが述べてある。)
問5 解答例
・ 著名で人気のあるスポーツ選手をコマーシャルに起用して、自社のスポーツ用品のブランド価値を高めようとすること。
・ 販売数限定にしてプレミアム感を持たせ、価格設定を高めにして販売数は少なくても利益率を高くすること。
(他に、有名シェフに監修してもらった食品・飲料を開発し販売する/季節限定や販売数限定にして商品のプレミアム性を売り物にする/社員の子育てを手厚く支援することで企業ブランドを高め、間接的にその企業の商品価値を高める。/文字ベースだけではなくほかの動画にもリンクできるニュース・サイトなど、さまざまな手法がとられています。)
問6 解答例…情報の商品化という現象は、差異を媒介することによって利潤を生み出すという資本主義の見えにくいしくみを解明することができる重要な鍵である。
(「それ」という指示語の指示内容は同文冒頭の「情報の商品化」。「開け、胡麻」は、秘密の扉を開くことのできる呪文、ここでは見えにくいものを可視化できる鍵となることの比喩表現ととらえる。)
問7 イ…4・ロ…3・ハ…5・ニ…1・ホ…2
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