エッセー「お豆の煮方 ~食べ物はオナカを満たすだけではない?」

 エッセー 
「お豆の煮方 
 ~食べ物はオナカを満たすだけではない?」


 スーパー・マーケットで買い物をしていた時、ふと乾物(かんぶつ)のたなに並べてある豆類に目がひかれました。黒・白・あずき色、また、大・中・小と豆にはこんなにたくさんの種類があるんだ気づかされました。その中から「金時豆 」を買いました。「金時豆」は、子供のころ学校から帰るとおやつとして用意されていたもののひとつで、なつかしさからつい手が伸びたのでしょう。母は、家で仕事を持っていましたので、仕事の合間に、夏はスイカやトマトを冷やしたり、秋はサツマイモをふかしたりしておやつを用意してくれていました。そのおやつの中でも「金時豆」は好物の一つでした。
 包装の「金時の煮方」を見ながら、生まれて初めてお豆を煮てみました。その包装には、水洗いは強くしないこと、あまり長時間つけもどすと煮えにくくなるなどと「アドバイス」も書いてありました。お豆は料理の中で主役にはなれないものであり、現代ではできあいをお店で買って食べることが普通だと思いますが、テマと時間が必要なんだとだ知りました。
 夜、ていねいに水洗いをして、大きな鍋に水を張ってつけ戻します。よく朝見ると23倍くらいにふくらんでいます。そのまま中火で煮て、沸騰したらお湯を半分すてます。それでアクを取り除くことになるそうです。豆がかぶるくらい水を足し弱火で煮続け、時々水を足して常に煮汁が豆にかかるようにします。やわらかくなったら、砂糖を3回くらいに分けて味付けをします。一度に加えると豆が硬く煮あがることになるそうです。
 お豆は、果物・穀物とともに霊力があるものと考えられていて、節分には福豆(大豆を炒ったもの)として鬼(心の中やあちこちにひそむ邪悪なもののシンボルと考えられています)を追い払うのに使う…その行事の由来は中国の宮廷行事にあるらしい…また、祝宴の料理の一品として供(きょう)されたりするのは邪気を払い福を呼びこむという意味があるのだろうか? …豆の原産地は南米と中近東のものが多いようで、はるかかなたから、長い長い時間をかけて、たくさんの地域を中継し、多くの人々の手をへてこの日本で食べることができるようになったんだな…などなどと脈絡なく、いろいろなことが思い浮かびます。昨夜仕込んで、食べられたのは今日のお昼ご飯のデザート用となりました。自分の手で作った食べ物、しみじみとした味わいがあります。



 お豆独特の甘味を楽しんでいると、母が子供たちが帰ってくる時間を考えながら、仕事の合間を探して、金時豆をつけもどしたり、水を足しながら煮ている姿が思い浮かんできました。そしてあのころの、我が家の台所が、鍋から立ち上る湯気(ゆげ)が、木枠(きわく)の窓から差し込む陽の光までもが蘇(よみがえ)ってきました。

 食べ物は、空腹を満たし、おいしいものを食べたいという欲求を満足させたり、栄養を摂取するだけではなく、その由来や歴史などを想像させる力を持つものでもあるようです。そしてまた、それを作ってくれた人に思いを馳せさせたり、感謝の気持ちを呼び起こさせるものでもあるようです。


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