雪のいと降りたるを(枕草子)~少納言よ、香炉峰の雪、いかならむ。


 雪のいと降りたるを 

 『枕草子』 

 ~少納言よ、香炉峰の雪、いかならむ 

【動画】『枕草子』第284段~香炉峰の雪


 雪のいと降りたるを(枕草子)を現代語で 


 雪がとても高く降り積もっているのに、こういう時は庭の雪景色でも眺めるのだが、いつもと違って御格子(みこうし)を下ろし申し上げて、炭櫃(すびつ)に火をおこして、おしゃべりなどして、集まって御前に控えていたときに、中宮様が「少納言よ、香炉峰(こうろほう)の雪は、どうであろうか。」と仰せになったので、私(=清少納言)は御格子を上げさせて、御簾(みす)を高く巻き上げたところ、中宮様はにっこりとほほえみなさる。

 他の女房たちも、「そんな詩句は知っているし、朗詠などまでするけれど、とっさには思いも寄らなかったわ。やはり中宮様にお仕えする人としては、あなた
(=清少納言)はうってつけの人であるようね。」と言う。

「雪のいと降りたるを」(枕草子/284段) 原文と現代語訳はこちら

 雪の日のエピソード 

 雪が高く積もった日、女房(にょうぼう⇒こちら達はいつもとは異なり炭櫃(すびつこちら)に火をおこし雑談をしていたら、中宮(定子)が「少納言よ、香炉峰(こうろほう)の雪、いかならむ(どんなかしら)。」とおっしゃる。女房達はその言葉の意図を解せず、怪訝(けげん)な顔。すると、清少納言は格子(こうしこちら)をあげさせ、御簾(みす)をあげると中宮は満足の笑みをおこぼしになった。白居易(はくきょい)の香炉峰の雪は簾(すだれ)を撥〈あ〉げて看る」(白氏文集=はくしもんじゅう)を念頭に、「雪景色を楽しみましょう」と促(うなが)す中宮の意を即座にさとって行動したのでした。


 雪が降り積もる日は雪景色を観るため母屋の御簾(みす)は巻き上げているのがふつうだったのでしょう。この時、誰も格子を下ろしたまま御簾を下げたままだったのは、女房達が寒さにかまけて炭櫃(すびつ)を囲んでいたのかもしれません。


 あるいはまた、中宮(定子)の計らいがあったのかもしれません。宮仕えしたばかりの清少納言は気後れして引込み思案になっていたようです(詳しい様子はこちらへ)。中宮がそんな清少納言に活躍の場を与えて自信を持たせようとして、事前に女房達に「今日は格子を下ろしたままにしておくように」とのご下命があったのかもしれません。


 自慢話なのか ? 

 元来、中宮(定子)は高い教養の持ち主で、洗練された機知にめぐまれ、後宮の独特の文化を創り出した方のようです。女房達に和歌の課題を出したり、教養を高める必要をそれとなく促したり、中宮(定子)の後宮(こうきゅう)の世間の評判を高めた方のようです。


 中宮の意図を即座に理解して行動した清少納言のことを、女房達は「やはり中宮様にお仕えする人としてうってつけの人ですわ」などと言ったと書かれています。崇敬する中宮から認められた喜びを伝えようとする記事になるのですが、結果、作者自身の自慢話となってしまっていて、自慢話を書くなどおくめんがないともみえますが、これに類するような話は他の段にもあります。

 清少納言の気持ちとしては、中宮高い教養、洗練された機知、思いやりのある人柄や、それに、中宮(定子)の後宮の雰囲気や出来事を書き記すことで、中宮のすばらしさを讃(たた)えようとするのが真意だったのではないでしょうか。

「雪のいと降りたるを」(枕草子/284段) 原文と現代語訳はこちら


 《参考》「香炉峰の…」とは 

 白居易の七言律詩の「香 炉 峰 下 新 卜 山 居 草 堂 初 成 偶 題 東 壁」という長い題のついた詩の一節を引用したものです。白居易とは唐代中期の詩人。字(あざな)は楽天白居易の詩文は日本でも人気があり、平安時代に成立した『和漢朗詠集』は朗詠用の漢詩句588首のアンソロジーですが、そのうちで136句が白居易の作品です。国文学にも多大な影響を与えた詩人でした。


 この漢詩は、白居易が江州という土地に左遷(降格として地方へとばされることです)され、司馬という閑職に任命されたときに詠んだものです。左遷されたとはいえ悲壮感はなく、当時の悠々自適(ゆうゆうじてき)な心境を読み取ることができます。


七言律詩 = 一句7字、全8句から成る、漢詩の詩形
香 炉 峰 下 新 卜 山 居 草 堂 初 成 偶 題 東 壁
         白居易
A 日 高 睡 足 猶 慵 起
B 小 閣 重 衾 不 怕 寒
C 遺 愛 寺 鐘 欹 枕 聴
D 香 炉 峰 雪 撥 簾 看(★「雪のいと降りたるを」で引用)
E 匡 廬 便 是 逃 名 地
F 司 馬 仍 為 送 老 官
G 心 泰 身 寧 是 帰 処
H 故 郷 何 独 在 長 安
(「
」「」「」「安」というように(脚)が踏まれ、CとD、EとFが対句となっています。
↓ ↓ ↓ 
書き下し
 香炉峰下、新たに山居を卜し、草堂初めて成り、偶東壁に題す

              白居易
                            
A 日高く睡〈ねむ〉り足りて猶〈な〉ほ起くるに慵〈ものう〉し
B 小閣〈しょうかく〉に衾〈きん〉を重ねて寒さを怕
〈おそ〉れず
C 遺愛寺の鐘は枕を欹〈そばだ〉てて聴き
D 香炉峰〈こうろほう〉の雪は簾〈すだれ〉を撥〈あ〉げて看〈み〉る(★「雪のいと降りたるを」で引用)
E 匡廬〈きょうろ〉は便〈すなは〉ち是〈こ〉れ名を逃るるの地
F 司馬は仍〈な〉ほ老を送る官たり
G 心泰〈やす〉く身寧〈やす〉きは是〈こ〉れ帰する処〈ところ〉
H 故郷何ぞ独り長安に在〈あ〉るのみならんや
↓ ↓ ↓
現代語訳
香炉峰のふもと、新しく山の中に住居を構えるのにどこがよいか占い、草庵が完成したので、思いつくままに東の壁に書き記した(歌)

            白居易
                            
A 日は高くのぼり睡眠は十分とったというのに、それでもなお起きるのがおっくうである
B 小さな家で布団を重ねているので、寒さは心配ない
C 遺愛寺の鐘の音は、枕を高くして(耳をすまして)聴き
D 香炉峰に降る雪は、すだれをはね上げて見るのである(★「雪のいと降りたるを」で引用)
F 廬山(「香炉峰」の別名)は(俗世間の)名利(名誉と利益)から離れるにはふさわしい地であり
F 司馬(という官職)は、やはり老後を送るのにふさわしい官職である
G 心が落ち着き、体も安らかでいられる所こそ、安住の地であろう
H 故郷というものは、どうして長安だけにあろうか、いや長安だけではない



【参考動画冲方丁 歴史小説!
『はなとゆめ』


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