羅生門(芥川龍之介)~情緒・感覚から合理・理性へ

芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)『羅生門(らしょうもん)』

~情緒・感覚から合理・理性へ


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■ 作者 芥川龍之介 

 芥川龍之介は1892(明治25)年に、現在の東京都中央区で生まれました。
 母親が病気がちであったため、龍之介は母方の実家・芥川家に預けられました。

 龍之介は子どものころからとても頭がよく、第一高等学校、東京帝国大学(現在の東京大学)へと入学し、エリートコースを歩みます。大学に入学した龍之介は文学活動を始め、仲間たちと同人誌『新思潮』を作ります。「羅生門」や「鼻」といった代表作品を発表したり、夏目漱石の弟子になったりしたのもこの頃でした。

 大学卒業後は教師として働く一方で文学活動にも打ち込みます。妻子にも恵まれますが、1921年ごろから心も体も病気がちになります。神経衰弱(神経衰弱)という病(やまい)が悪化し、心のバランスを崩してしまった龍之介は、1927(唱和2)年に自ら命を絶ちました。



■ 羅生門 あらすじ 

 平安末、平安京の正門にあたる羅生門(らしょうもん)は荒れ果てていました。その羅生門の下で一人の下人(げにん。住み込みなどで雑用を務める身分の低い男のこと)が職を失い、雨の一夜を過ごす場所を求め、このまま飢え死にするか、それとも盗人(ぬすびと)になるのか迷っていました。

 誰もいないと思っていた羅生門(らしょうもん)の楼上(ろうじょう)に揺れる灯が動き、捨てられた死骸の間で、老婆が死骸の髪の毛を抜いているのを下人は見ました。

 下人は楼上に飛び上がり、老婆をねじ伏せて髪の毛を抜いている理由を聞きました。老婆の返事は自分を正当化するものでした。すると、下人はそれを聞き、その主張を逆手(さかて)にとって、老婆の着物をはぎ取って去ってしまいました。

 あとに残された老婆は、はしごの口まではっていき下をのぞきこみました。外は黒洞たる夜があるばかりでした。下人の行方は誰も知りません。

「名作ってこんなに面白い」サンプル 羅生門 2010/02/25

yumanishobo 


■ 下人を追体験する 

 「追体験」とは、他人の体験を、作品などを通して自分の体験として生き生きと、とらえることです。

 私たちは1日3食、単純計算すると、1年間に1.095食の食事をしています。一生にいったい何食食べることになるのでしょうか…?その食料の60パーセント以上を外国から輸入している(カロリーベースで)そうです。そのうち食べられるのに生ごみとして40パーセントが、捨てられているともいわれます。そして、この地球上で8人に一人(8億7千万人)が飢餓に直面しているこちらを)といいます


 

 「羅生門」で語られている世界は、そんな現在の私たちの飽食の生活を当たり前じゃないのという感覚では意味不明に終わってしまうでしょう。物語で語られている現実に、いったん入り込んで生きてみるという作業が必要ですし、生業、生きていくための仕事も、現代の仕事や仕事観(自己実現としての職業とか)とは異質なものということも前提になります。このことについては平安末という時代こちらを)、その都のようすこちらを)、下人という仕事、下人のキャラクター、普遍的な青年期特有の心性こちらを)など、小説の中で生きている下人を追体験しながら読みすすめるといいでしょう。


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■ ガバナンス ゼロ 

 アフリカ東岸にある国や地域では、海賊を生業にしている人々が大勢いて、日本政府はその海賊対策に協力している(こちらを)そうです。

  国家のガバナンスがゼロ、路上で強盗に襲われ着ぐるみ盗まれる、仕事も収入もない国・地域の人々が自分が生きるために、あるいは、家族を養うためにできる数少ない仕事の一つが海賊だということを真っ向から否定できるでしょうか…?考えさせられます。

 この日本だってつい50・60年前、敗戦後の貧しい時代、法的に禁止されている物品を売り買い(闇屋 こちらを)したり、闇酒をひそかに造って(密造酒 こちらを)売ったりして生き延びていた人が大勢いました。中には、多くの女性が、親が作った借金返済のため、あるいは、家族(祖父母や両親や兄弟)を養うため米兵など相手に売春をしていたこと(今では考えにくいことだけど、特殊慰安施設協会(こちらを)という国営の占領軍対象の売春施設を日本政府が設けていた)ということなどについて、語られることは少ないけど、知っていたほうがいいのでは。過去を知ることは、今のわれわれを知るために欠かせないものですから。


 「羅生門」はガバナンス・ゼロ、多くの人がたべるものを手に入れることができず、市中に盗賊が跋扈(ばっこ)し、身内の者が亡くなっても埋葬できないで捨て置くしかできないような平安末期という設定です。


 ■ 光と影 

 また、物事には必ず光と影があり、ばかりを言いつのる政治家・有識者、逆にだけをかかげて美化する政党・評論家、どちらも鵜呑みにできないな、と思うのが健全な感覚でしょう。コインはがあるからこそがあり、その逆も同じ、50/100=100だと言い張る主張には気をつけた方がいい。

  

 お金が集まるところにはジャブジャブ集まり、流れてくるところには、ジャンジャン流れてくるのが現実というもの。この日本でも、毎日100万円や200万円使いつづけても、とても使いきれないような資産を持っている人が少なくない数いるといいます。

 

  その一方、まじめに働いても年収200万円に届かない人たちが1200万人を超えたといわれています(2007年国税庁のデーター)。給与所得者は4500万人足らずだから、100人のうち20人が200万円以下ということになります。

 

 年収200万円といわれても、高校生には実感が無いと思いますが、そこから所得税や社会保険料(医療・年金・介護)などが差し引かれる。その他、家賃は少なくとも3万円はする。水道光熱費も必要。すると、年収200万円の人の可処分所得こちらを)は額面の半額の100万円。一日300円となり、生きていくのも難しい。

 自由な競争、規制の撤廃、経済の拡大という資本主義の正義負の側面も知っておくべきでしょう。

 

■ ポリティカル・コレクトネス ? 

 日本はGDP世界三位で莫大な冨を所有しているのに、割り切れないこともある。やはり政治の無能としか考えられないのでは。一方、GDPでトップと二番手の国と比較すると、我が国の貧富の差(ジニ係数)ははるかに小さくて、まだ暮らしやすいとも言います。しかし、支配層が運転手つきメルセデスに乗り、超贅沢な暮らしをしているのに、何百万人という餓死者がでるこちらを)というどこかの国を笑うことができるのだろうか…?ともいえるのではないでしょうか。

 

 

 でも一方、再分配政策こちらを)を強化して平等を徹底した社会に、われわれ人間は本当に満足するのだろうかとも思います。このことについては、曽野綾子さんが『人間にとって成熟とは何か』という本で、相当な平等社会を実現しているといわれているニュージランドでの体験と微妙な違和感を含んだ感想を述べられています(こちらへ)が、いろんなことを考えさせられました。興味を持てたら読んでみてください。

  

 

 『羅生門』で語られている、情緒的で感覚的な正義感から現実的で合理的な判断へ、そして、現実という闇を生き抜くためにはなんだってやる!と思い決めた下人こちらを)。ここから話題があちこちと飛んでいきましたが、本を読むとこういうことありますよね。そういうこと、大事にしてほしいと思います。

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