失われた両腕/ミロのヴィーナス/手の変幻(清岡卓行) もっと、深くへ !

    清岡卓行 

 失われた両腕/ミロのヴィーナス/手の変幻 

 もっと、深くへ ! 

 

  この評論は、両腕が失われているのを不完全・欠落とする常識的観点をひっくり返して、両腕が失われているゆえに、その不完全・欠落によって魅力を持つことになっているという観点に特徴があります逆説的な観点と言えます。簡単に図式化すると、

 

(存在しないこと) = ∞(存在の無限性) = 「こんなにも魅惑的」  
 

ということになる。そんな観点もあることをインプットして。

 

  あと、「」を人間の身体の中で例外的に特別な意味を持つものととらえているのも特徴。でも、「目は口ほどにものを言い」などといわれるし、役者は足の運びだけで強烈な表現をすることもあるなど、「手」に過剰に意味づけをして結論に持っていく展開だなと感じました。また、そのことが結末部分を読み取りにくくしている原因かなとも思います。


 読み取りにくいと言いましたが、そもそもこの清岡さんの文章、何かの根拠に基づいて、論理を組み立てて、ある結論を読者を説得しようとする性格の文章ではないように思います。

 ルーブル美術館の両腕を失っているヴィーナス像への清岡さんの限りない愛着を吐露した散文詩という性格が強いと思います。

   

 

  私自身は、同じルーブルの不完全・欠落した像では、サモトラケのニケ(スポーツ用品のブランド名《ナイキ NIKE》の語源となっている女神の名)の頭部の失われた像の方にイマジネーションがかき立てられました。

   

 ミロのヴィーナスの像については、前方から見るのと、後方から見るのとではかなり違って見えたことが印象深い。後方から見ると前方からのと違って、腰のくびれが小さく、そして、腰からお尻にかけてかなり太く逞しい。農耕や出産する女性の肉体-ヘレニズム期の女性の身体像が反映されいるのかなと思って興味深く見ました。そして、布のかかり具合やお尻の割れ目の見せ方など、やはりヘレニズム期特有のエロティシズムなのかな…とか、西洋中世美術とは異質なものだな…などと思ったりもしました。

 


 清岡卓行「失われた両腕(ミロのヴィーナス/手の変幻)」は、『評論 💪筋トレ国語式💪勉強法』でも扱っていますので、よかったらこちらを。



失われた両腕 問題解答(解説)

問1 現存のミロのヴィーナスが両腕を欠く不完全な美術作品でありながら、なぜか、その不完全さゆえに魅惑的であったから。
(美術作品がその一部を失っていたら、制作意図や全体像不明な不完全なものとなる、ということが前提になっている。つまり、「不完全」=「欠陥」という常識を逆転、「不完全」=「魅惑的」という逆説的な論理。「急がば回れ」と同じ理屈。)


問2 高雅と豊満の驚くべき一致を示している美
(19字。同文に「高雅と豊満の驚くべき合致を示しているところの、いわば美というものの一つの典型であり」とある。特に条件がない時は、できる限り本文中の語・語句を使って答えるようにします。そうしないと本文の真意とは限りなく離れていくことが多いのです。


問3 特殊
(両腕が失われていない本来のヴィーナス像と両腕が失われている現存のヴィーナス像について二項対立で論じられている。蛍光ペンなどでマーク。
 
   「特殊」⇔「普遍
   「部分的な具象」⇔「ある全体性
   「二本の美しい腕」⇔「存在すべき無数の美しい腕への暗示微妙な全体性」。
   「限定されてあるところのなんらかの有」⇔「おびただしい夢をはらんでいる無
 
漢字2字という指定に合致するもの。)


問4(例解1)水平を指さす手〈実態〉が、向かうべき未来の象徴となっている。

  (例解2) 唇の前に立てられた人差し指〈実態〉が、何も言うなという命令の象徴となっている。

(もちろん、「象徴」するものはコンテクスト〈文脈〉によるんだけど。)


a.Q

(1)腕が失われた

(2)美術作品は制作者の手を離れると、制作者の意図とは無関係に解釈され鑑賞されること。


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