インターネットは何を変えたのか/ネットが崩す公私の境(黒崎政男)もっと深くへ !

 黒崎政男 

 インターネットは何を変えたのか

/ネットが崩す公私の境 

 もっと深くへ ! 


 本文は、情報伝達の手段(メディア)を歴史的に三段階に発展してきたととらえ、それぞれの段階で〈著者というもののの性格〉がどのように変質していったのか、そして、それが〈何をもたらしたのか、もたらすのか〉を論じていると理解すればわかりやすいと思います。


  著者性の推移

第一段階 = 書物が手書きで書かれていた時代(=印刷技術が成立する以前)

 本文では述べられていないが、文字を読み書きできるのは貴族や僧侶や学者などごくごく例外的な人々であり、しかも、紙は貴重かつ高価なものであったのです。

 著者(僧侶や学者など)はごくごく限定した読者(僧侶や学者など)に向けて、『「血をもって」全身全霊で』書いたのであり、一方、読者(僧侶や学者など)は「全身全霊で」読むことによってその「精神」を読む解くことができた。ニーチェはこれが真に書くことであり読むことであるとしたようです。

  ↓ ↓ ↓  

第二段階 = 印刷技術の成立後の時代

 少数の著者(作家・評論家・学者・ジャーナリストなど)が多数の読者を啓蒙し教化する活字書物が情報を発信し、多数の読者がそれを享受する文化が発展する。ニーチェはこれを「書くことばかりか、考えることまで腐敗させる」ことになったと揶揄(ヤユ。からかうこと)した。

 なぜそういうことが言えるのか?

 多数の読者を啓蒙し教化するためには、真実をできる限り簡略化したり興味本位で低俗に書かれがちになり、そしてそれが読まれる、イクオール、「精神そのものが悪臭を放つ」ということをいっているようです。以上はニーチェの論を筆者黒崎流にまとめたものといえます。

    ↓ ↓

第三段階 = インターネットの時代

 ここが、筆者黒崎さんの論となる。インターネットの時代誰もが著者となりうる。そのことで〈書く〉ことと〈読む〉ことの本質的な変化が起こった。ここで主張されていることを三点にまとめます。

   「情報発信と受信者」の問題は、プラス面とマイナス面双方で圧倒的なを発揮している。

   インターネットとメディアでは情報総量が制限されたり、内容や質によって淘汰されるというが働かない。

   プライベートとパブリックの境が解け落ち、何億ものとりとめもない思いや理解や誤解がネット上にあふれ、ひとたび検索の網にかかると強大なを発揮することとなる。

 

 この文章の結論は、ブログなどのウェブサイトをアップしたりして、誰もが著者となることができるインターネットのこの時代、そのによって今度は何を腐敗させることになるのかと危惧しているということになります。

 幼稚な語彙・表現で受けそうなことを言いつのるサイトがバズっていたり、SNSなどでタレントや有名人についての根拠のない噂話や悪口に膨大なアクセスが集まったり、詐欺行為がより巧妙に広範にできるなどの例を考えていいでしょう。


 ♣  ♣  ♣  ♣ 

  

  「評論~筋トレ国語式勉強法」こちらにあります)による読解=本文にマーキングして確認してみてください

繰り返される語・語句、キー・ワードに着目

  「著者」(誰もが著者になりうる時代)


二項対立(二分法)に着目

  【思い一面的な思念発想プライベート=とりとめもない理解や誤解

  と

  【思考十分吟味された意見・発表パブリック

  の対立。


結論は結末または冒頭に着目

 結末にある「腐敗」に着目できる。「腐敗」とは、具体的には前段の結末にある、とりとめもない思いや理解や誤解が…強大な力を発揮することであり、それを危惧するというのが結論ということになります。

 

 

 時代の転換期にはペシミスティックと逆にオポティミィスティックに思考する人に分かれるようです。評論になるのは前者が多いようです。教科書で取り上げてないなら分かりませんが、『世界中がハンバーガー』(こちらを)もそうでしたね。



 ♣  ♣  ♣  ♣ 

  

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ネットが崩す公私の境/インターネットは何を変えたのか 問題解答(解説)

問1 解答例…「血をもって」全身全霊で「書かれたもの」を読み解くこと

  (3・2)の「ニーチェが評価するのは、「血をもって」全身全霊で「書かれたもの」だけであり、暇つぶしの気楽な読書態度では、その「書かれたもの」の精神を読み解くことはできないのである。」に着目してまとめられる。「血をもって」全身全霊で「書かれたもの」は、それに相応する読み方が求められると理解される。)

問2解答例
  ① 書物・雑誌・新聞(教科書・宣伝用ビラなども)
  ② 少数の著者が多数の読者を啓蒙し教化する(という関係になってる)こと /  権威者の一方的な情報発信と、受動的に享受する多数の読者と上下構造(になっていること)(筆者の言う「著者性」を異なるニュアンスで述べている箇所。)


問3
  ① 解答例…著者の権威性の崩壊(9字)

  ② 解答例…電子メディアの登場によって、権威者の一方的な情報発信と、受動的に享受する多数の読者という上下構造が消失したから。


問4 ① 掲載  ② 

問5 解答例…簡単な操作で、一度に多数の人々に対して、自分の意見を発信できるから。


問6 解答例…インターネットの普及に伴い、「発想」と「発表」の違いは、キー操作の差に過ぎなくなり、簡単に自分の意見が発表できるようになったから。

a.Q

1① 解答例…少数の著者が多数の読者を啓蒙し教化すること ② ひやかし


2 解答例…活版印刷の確立によって、書物はたくさんの人に読まれるようになり、その結果、社会的な「権威」が発生することになった。書物という形態によって発生した著者性に「権威」が付与されるためには、書物という印刷メディアが一般に広まっていくための出版流通システムが必要不可欠であった。そのため、グーテンベルグの活版印刷術の成立と著者性という権威の成立とは密接に関わっていたといえる。手書きの書物が限られた人々の間で読まれている間は、社会的な権威は発生のしようがなかったのである。


3 解答例…一億人分の日記を紙メディアで集積した場合


4 ①解答例… インターネットの世界では、個人的に書き連ねた文章を保存することと、その文章を公の場に発表することの差が、二、三のキー操作の違いに過ぎないため、公私の境がきわめてあいまいになるということ。


  ②解答例… さまざまな情報とともに、何億もの個人のとりとめもない思いや理解が、ネット上にあふれるという事態。

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