現代日本の開化(夏目漱石) もっと深くへ !

 現代日本の開化 

(夏目漱石)

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 次のような段落でとらえます。(教科書やコピーの本文に書き入れましょう。)

第一段落=現代日本の開化は…
  2つの形式段落からなる。
第二段落=そういう外発的の開化が…
  4つの形式段落からなる。
第三段落=これだけ説明しておいて…
  5つの形式段落からなる。

 (a.b.c)→ aは大段落目、bは段落内の形式段落目、cは形式段落内の何文目

 開化とは、思想や風俗が進歩するという意味です。ここでは、我が国が明治時代に入り、生活様式をはじめ産業・教育・法律などが近代化・西洋化した、明治44(1911)年当時の「近代日本」が急速に開化しつつあることについて論じられたものです。

  〈内発〉と〈外発〉の二項対立から

 ここで、夏目漱石は当時の日本の開化が西洋文明の圧迫を受けて、無理矢理に進められた「外発的」なものであると批判しています。このような「外発的」な開化が日本人の心理に深刻な影響を及ぼしていると論じていきます。

 「内発的」とは、内部から自然に発展するもの。例えば、個人が自らの興味や欲求に基づいて勉強することです。本当の学力が身につき、知的な達成感と成長が得られる本来の在り方。

 「外発的」とは、外部からの圧力や影響によって無理やり進められるもの。例えば、親や先生にうるさく言われてしかたなく勉強させられることが考えられますね。それが極端だとどういう結果をもたらすでしょうか。 

 

 次の二項対立(こちらを)で論じられています。また、説明的な言い換え・別表現としても着目。

内発的
(本文中多数) 

 内から自然に出て発展(1.1.3)

 自然の推移(2.4.9)

  二項対立(二分法) 

外発的(本文中多数)

 他の力でやむを得ず一種の形式をとる(1.1.3)

 外から無理に押しに押されて否応なしに(1.1.10)

 自然に逆らった (2.4.6)               


次に、「内発的」=自然の推移(2.4.9)はどういうものかを「意識」の問題として語っています。



  意識の湧出

 「開化の推移はどうしても内発的でなければうそだ」と言うのは、次のように論じられています。


 人間の意識の内容は、心の絶え間ない動きと一緒になって、「明らかな点と暗い点」(2.1.10)とが「弓形の曲線」(2.1.11)のように推移してゆく。

  ↓ ↓  

 「集合意識(2.3.10)も、長時間にわたる意識も、弧線のような一つのまとまりをなしていて、それ自身の要求の度に従って自然な消長を繰り返している。

  ↓ ↓  

 開化というものは、そうした弧線が無数につなぎあわさって進んでゆく大きな波のようなものだから、新しい波への推移は、内部欲求の要求によって自然に展開してゆくものでなければならない。


  外発的な近代化と神経衰弱

 「外発的」な開化によって我々日本人は「神経衰弱 (3.3.7 他4か所) にかかっているとしています。「神経衰弱」にかかるとはどうなることなのでしょうか。漱石は、「空虚」(3.1.11)、「不満と不安」(3.1.12)、「悲酸な国民」(3.1.18)とか、「子供が背に負われて大人と一緒に歩くような」(3.3.1)、「借り着をして世間体を繕っている」(3.1.7)、「食客をして気兼ねしている」(3.1.8)、などの比喩的な言い方はしていますが、具体的明示的には言及していません。
 現代的な言い方で解釈すると、次のようなことが考えられます。


急速な変化への適応ストレス:西洋の文化や技術を急速に取り入れることで、日本人は新しい価値観や生活様式に急速に適応しなければならなくなりました。この急激な変化が精神的なストレスを引き起こしている。


内面的な成長の欠如:外部からの圧力で無理やり進められた近代化は、内面的な成長や自己理解を伴わないため、精神的な充実感が得られません。この結果、空虚感や不安感が増大している。


文化的アイデンティティの喪失:西洋の価値観や文化を無批判に受け入れることで、日本人は自らの伝統や文化を見失いがちになります。この文化的アイデンティティの喪失が、自己肯定感が低下や精神的な不安定さを引き起こしている。


 漱石は、このような状況が続き、日本人が「神経衰弱」に陥っており、精神的に疲弊してしまうと警告しました。彼は、「内発的」な成長を重視し、精神的な健康を保ちながら進むべきだと提案しているわけです。
 同じようなことが、1945年の大戦敗北後、米国占領軍によって(=外発的に)、我が国の歴史伝統を否定し無視したアメリカ化が行われたことがあります。その結果、現在、教育問題をはじめ解決しなければならないことが山積しているとされています。もっと深くは、こちらを。


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現代日本の開化 1/2 問題解答(解説)

問1 行雲

問2 かぶれた

問3 解答例…西洋文化の圧力に屈する他に、日本が国家として存立する方法がなかったから。
(「外から無理押しに押されて否応なしにその云う通りにしなければ立ち行かないという有様になった」にさかのぼって着目できましたか。「分かりやすく」という問。欧米列強諸国は、アジアの他の地域と同じように日本を植民地化しようとしていた。そういう中、独立国家を保持するためには、急速に西洋の文明文化を学び、近代的インフラを整え、資本を蓄積するなどが迫られていた。こうして植民地を獲得し経済規模を拡大していくという帝国主義の時代、つまり、植民地とされるのか宗主国となるのかという時代に巻き込まれていくのです。)


問4 外発的の開化が心理的にどんな影響を吾人に与うるかと云う問題(27字+問題)

問5 本を読むに ~ に過ぎない

問6 解答例…講演を聴いている大多数の団体の意識が、それからそれへと順次消長すること。
(この段落冒頭「例えて見れば」から直前「ありません。」までの内容を受ける。それを要約することになります。この段落冒頭「多人数の団体が今ここで私の講演を聴いておいでになる」、この段落最後から3文目にある「それからそれへと順次に消長している」・次段落2文目「順次に推移」に着目してまとめたのが、上の解答例です。イマイチでしたら本文にマークしながら理解してください。〈集団の意識と時間〉についての話題。)

問7 内発



現代日本の開化 2/2 問題解答(解説)

問1 借り着をして世間体を繕っているという感

本来の内発的な開化ではないのでなんとも落ち着かないし違和感を持たざるを得ない、ということです。)


問2 解答例…日本の開化が内発的でないために国民は古い開化に未練を残し、新しい開化にはそれが西洋の真似であるがゆえに違和感を持っているから。


問3 解答例…現代日本の開化は外発的なものなのに、内発的であるかのごとき顔をすること。 (36字)


問4 解答例…西洋人が我々より強いので、己を捨てて西洋の習慣に従わなければならなくなるから。


問5 西洋で百年かかってようやく今日に発展した開化を日本人が十年に年期をつづめて、しかも空虚の譏りを免れるように、誰が見ても内発的であると認めるような推移をやろうとすれば


問6 彼ら西洋人~と仮定する

(現代日本の開化が、内発的(全文のキーワード。何度も繰り返して使われています。チェック!)なものでなく、外発的・「皮相上滑り」なものだという主張が一貫してなされています。ここでは、「学問を例に」して論じられています。解答個所は直前の文にあります。「…たら」と「…と仮定すると対応してととらえられます。)


問7 自然(冒頭の最初の文。間違った人は「ヒント」へ。)


問8 解答例…単なる地理的な偶然を持ち出して自慢し誇示するおろかさに気づかないこと。


a.Q 解答例…開化がいかに進歩しても人々の受ける安心は少なく、そのうえ神経衰弱にかかるとすれば、日本人は気の毒とも憐れとも言い難い悲惨な窮状に陥っている。これが悲観的な結論だが、ただできるだけ神経衰弱にかからない程度に、内発的に変化してゆくのがよかろうというより外はないこと。 (129字)


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