「大和物語」とは
十世紀中頃(平安時代前期)に成立した歌物語(うたものがたり)、作者は未詳(みしょう)。百七十三段からなり、和歌二百九十五首。『後撰集』の時代、後宮(こうきゅう)などで交わされていた歌語り(歌が詠まれた背景や事情について語ること)や生田川伝説や姨捨山伝説など、古伝承に取材した小話が雑然と収められています。
「大和物語」の少し前に成立した「伊勢物語」は在原業平(ありわらのなりひら)の一代記に近い性格を持ち、「大和物語」の構成は無秩序に見えますが、配列には連想や歌題(詩歌を作成する際の題)意識を生かしているように見えます。
天皇をはじめ貴族、僧、女性など実在人物に関する話も多く、当時の貴族社会の話題や人間関係を知る資料としても貴重。
「姥捨(をばすて)」あらすじ
姥捨て=老人遺棄とは
自立的生産能力を失った老人を扶養するのは人類にのみみられる現象で、ときにはそれが社会の負担となる。とりわけ、キャンプからキャンプへ移動を繰り返しながら食糧を求めていく採集狩猟民にとっては、食糧事情や移動の条件が悪いときには、老衰した老人を抱えることは全体社会の生存にとって脅威となりかねない。そうした状況の下で、老人はしばしばキャンプ跡に置き去りにされたり、自らだれにも告げずに集団を離れたり、あるいは集団によって自殺幇助(ほうじょ)の手段がとられたりした。
しかし、そうした社会でも、すべての老人が遺棄されるのではなく、肉体的には衰弱しても社会の安定と福祉に貢献しうる者は高く評価された。たとえば、病気治療のための呪術(じゅじゅつ)に詳しい老人、皮なめしの技術に秀でた老女などは社会の有用な一員として機能した。
日本にもこれに似た習俗は、信州の姥捨山伝説(うばすてやまでんせつ)など、広く全国的に伝えられている。伝説の内容は二つに大別され、一つは、遺棄された老人の知恵で数々の難問を解くことができた話、もう一つは、棄(す)てに行くルートを老人が覚えていて立ち戻ったり、あるいは棄てようとする人に帰り道を教えてやる話である。いずれにも共通していえることは、老人のもつ長い経験からくる深い知識はかならず社会の役にたつという教えであり、民話、伝説の形で老人の存在価値を諭しているといえる。[片多 順]
心を照らしだす月の光
冒頭に、男とその育ての親である「をば」の愛情が描かれています。ついで、突然「この妻の心…」という妻の性格設定がなされ、いきなり本題に入る。男が「をば」を捨てようという気持ちになったのかということを性格の悪い妻の言動を通して描いています。性格が悪いだけではなく、「をば」とのつきあいの浅い妻の中傷を何度も聞かされてそれを信じてしまうのが悲しい人の性(さが)なのでしょうか。男は「をば」をだましてまでして捨てに行ってしまったのです。しかしその時点で男が無意識のうちに後ろめたさを感じていたことは「逃げて来ぬ」という表現から明らかです。
冷静になった男の心に「をば」に対する本来の愛情がよみがえってきます。「この山より、月もいと限りなく明かく出でたる」光景がそれを促し、男は一晩中自分の心を澄み切った月の光で照射し続けたことになります。このように「をば」を捨てるという代償を払うということによって、初めて男は「をば」に対する動かしがたい愛情を深く認識したということになります。
そういうコンテクストで「わが心慰めかねつ更級や姥捨山に照る月を見て」と詠まれたのだとしているのです。
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大和物語「姥捨て」 問題解答(解説)
問1(1)あるに(接続助詞「に」に続いていなければ、「ありける。」と考えられる。 (2)老い 連用形(ヤ行上二は、「老ゆ 悔ゆ 報ゆ」の三語と覚えます。) (3)すなる(「す」=終止形に続く「なる」は伝聞推定。)
問2aさらしな fおうな
問3b情けない c意地が悪い(性+無し) dおろそかにする g返事 h長年
問4強意の助動詞「つ」の命令形(「つ」は下二型に活用、完了強意)
問5かがまりてゐたる(=腰が曲がっている)
問6おばを山に捨ててしまうこと(直前の妻が男に言った言葉)
問7妻がおばの悪口を言って、腹を立てさせた(19字。下二の「腹立つ」は腹が立つようにするの意。ここでは「妻」が主語。)
問8オ(「慰めがたし」というときに姥捨山が引き合いに出されるのは。)
問9平安時代前期 歌物語
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