源氏物語「忘れ形見」
(第二十二帖 玉鬘)
~光源氏が理想とする女性像
玉鬘とは
玉鬘(たまかずら)は光源氏の若いころの愛人夕顔が急死して(こちらの記事を)遺された女児、忘れ形見。光源氏の親友頭の中将の落胤(らくいん)。光源氏は晩年に出会うこととなり、その理想の女性像が投影された存在として描かれていると考えられています。作者紫式部が、理想の主人公光源氏がイメージするであろう理想の女性像として描き出した女性といえます。
夕顔の急死後、その遺児玉鬘は混乱の中、母親の死も知らず、乳母に伴われ筑紫(福岡県)に下りました。それから十七年、玉鬘は美しく成人しました。筑紫では辛酸をなめるような生活を送りましたが、上京して初瀬詣で(こちらへ)の折、今は源氏の元に仕える夕顔の侍女右近と出会うことができ、玉鬘は源氏の元に引き取られることになりました。
次は、源氏が初めて玉鬘と対面する場面です。
源氏物語「忘れ形見」(玉鬘)を現代語で
その夜すぐに、大臣の源氏の君が、玉鬘(たまかずら)のいる西の対(たい)の屋(や)にいらっしゃった。
玉鬘の侍女(じじょ)たちは、昔は、光源氏などという御名は、ずっとお聞き申し上げていたが、長年上流社会などから縁遠い状態であったので、それほどのお方とは思ってもいなかったが、ほのかな大殿油(おおとなぶら)の光で、几帳(きちょう)のすき間からわずかに見て、その美しさにそら恐ろしさをおぼえた。
こちらに来る方の妻戸を、右近(うこん=玉鬘のお世話をする侍女)が押し開けると、
「この戸口に入る人(=私)は、特別な人だね」
とお笑いになって、廂(ひさし)の間(ま)に用意してあるお席におすわりになって、
「灯火はなんともつやっぽい感じがするね。親の顔は見てみたいものだと聞いている。あなたもそうお思いになりませんか。」
とおっしゃって、几帳を少し押しのけなさる。
玉鬘はどうしようもないほど恥ずかしいので、顔をそむけていらっしゃる姿などが、とても好ましく思えるので、源氏の君はうれしくなって、
「もう少し光を明るくしてくれないか。奥ゆかしいにもほどがあるよ。」
とおっしゃるので、右近が火を明るくし少し近寄せなさる。
「これで、私は無遠慮な人になるなあ。」
と言って少しお笑いなさる。
明るくなった灯でご覧になると、なるほど右近の言った通り、夕顔の子らしく美しいと思わずにはいられない御目元の美しさである。
少しも他人あつかいをせず、心隔てなくお言葉をおかけになり、とても親らしく、
「長年御ゆくえが分からず思い出さない時はないほど嘆いていたのですが、こうしてお目にかかるにつけても、夢でも見ているような気がして、その上ずっと昔のさまざまのこともつけ加わって、涙をこらえきれなくなりまして、ものもろくに申し上げられません。」
と言って、御目をぬぐいなさる。
ほんとうに悲しく、亡き夕顔の君のことがどうしても思い出さずにはおいでになれない。玉鬘のご年齢をお数えになって、
「親子の中で、このように離れ離れで過ごした例はなかったであろうに、何とも恨めしい前世の宿縁だったのです。今は不慣れらしく、子供っぽくいらっしゃるようなご年齢ではありますまい。この年月のつもるお話なども申し上げたいというのに、どうして打ち解けてくださらないのですか。」
と恨みがましくおっしゃるが、お答えのしようがなく恥ずかしいので、
「★蛭(ひる)の児よろしく、幼い頃に放浪しはじめましてのちは、何につけてもみじめなことばかりで…」
とかすかにおっしゃる声は、あの亡き人(夕顔)にとてもよく似ていて若々しかった。源氏の君はほほえんで、
「放浪なさっていたあなたを、今は私以外にだれがあわれと思いましょうか。」
とお答えになって、心くばりがまんざらでもないご返事だとお思いになる。
右近に、世話して申し上げるべきことをお命じになって、お帰りになった。
★「かずいろはあはれと見ずや蛭の子は三年になりぬ足立たずして」(「日本紀竟宴和歌」。父や母は憐れとお思いになりますでしょうか、蛭の子が三年経っても足が立たなかったのを、の意。)を踏まえたことば。父や母は憐れとお思いになりますでしょうか、蛭の子が三年経っても足が立たなかったではありませんが、この私が不遇な身でさすらっていましたことを、の意。光源氏に対して初めて発したことばになる。
源氏物語「忘れ形見」(玉鬘)原文+現代語訳はこちらへ
源氏の圧倒的な魅力、玉鬘の新しい人生の出発
この文章は、光源氏が玉鬘に初めて会いに行くシーンを描いています。
まず、この場面は光源氏の並外れた美しさと魅力が強調されています。玉鬘の侍女たちが、光源氏の美しさに感服している様子から、その存在がいかに圧倒的であるかが伝わってきます。光源氏が几帳(きちょう)の隙間から見えた瞬間に、その美しさが「そら恐ろしさ」を感じさせるほどであったことから、源氏の持つカリスマ性が強調されています。
また、光源氏と玉鬘のやり取りには、光源氏の親心と優しさが感じられます。光源氏が玉鬘に対し、親身になって接する姿勢は、彼がただの美しい貴公子ではなく、人間味あふれる人物であることを示しています。彼の涙を流す場面では、玉鬘の母である夕顔への思い出が強調され、源氏の深い感情が描かれています。
さらに、光源氏と玉鬘との距離感が微妙であることも興味深い。光源氏は親密に接しようとしますが、玉鬘はまだ戸惑いと恥ずかしさを感じており、それが二人の関係性の初々しさを強調しています。これは、光源氏が「恨みがましく」言うシーンに特によく現れており、玉鬘の返答が母親夕顔に似ていると感じることで、源氏の心が少しずつ融けていく様子が描かれています。
最後に、光源氏が右近に玉鬘の世話を命じて帰るシーンでは、源氏の責任感と配慮が感じられます。玉鬘に対して深い関心を持ちつつも、強引に迫るのではなく、彼女の立場や気持ちを尊重している姿勢が好感が持てます。
全体として、この文章は光源氏の複雑な感情と人間性がよく描かれており、源氏の魅力が溢れるシーンです。また、玉鬘の戸惑いや恥ずかしさから、新たな人生の始まりに対する期待と不安が伝わってきます。
源氏物語「忘れ形見」(玉鬘)原文+現代語訳はこちらへ
玉鬘(たまかずら): 光源氏が理想とする女性像を体現・輝きを放つ
『源氏物語』の第一部(桐壺から藤裏葉までの33帖)において、玉鬘系とは内計16帖の巻の総称である。残りの17帖を紫上系と呼ぶ。武田宗俊氏によって唱えられ、その後広く使用されるようになった概念。玉鬘系では玉鬘が物語の中心として語られていきます。
玉鬘は光源氏の若いころの愛人夕顔が急死して(こちらの記事を)遺された女児、忘れ形見。光源氏の晩年に出会うこととなり、その理想の女性像が投影された存在として描かれていると考えられます。作者紫式部が、理想の主人公光源氏がイメージするであろう理想の女性像として描き出した女性といえます。
気品と華やかさ: 最上流の落胤(らくいん)という血筋と育ちからくる気品と華やかさを持ち合わせています。
純粋さと無垢さ: 世間知らずで純粋なため、男心を翻弄してしまうことも。
才能豊かさ: 歌や楽器、舞などに優れ、教養の高さも伺えます。
玉鬘の気持ちよりも、自分の所有欲を優先してしまう場面も見られます。
このように、玉鬘は 美しさ、才能、苦悩、そして光源氏との複雑な関係 を通じて、「源氏物語」における重要な女性の一人として描かれているのです。
玉鬘は光源氏の若いころの愛人夕顔が急死して(こちらの記事を)遺された女児、忘れ形見。光源氏の晩年に出会うこととなり、その理想の女性像が投影された存在として描かれていると考えられます。作者紫式部が、理想の主人公光源氏がイメージするであろう理想の女性像として描き出した女性といえます。
🌸 玉鬘の魅力並外れた美貌
物語の中でも随一の美女として描かれ、光源氏を一目惚れさせるほど。
気品と華やかさ: 最上流の落胤(らくいん)という血筋と育ちからくる気品と華やかさを持ち合わせています。
純粋さと無垢さ: 世間知らずで純粋なため、男心を翻弄してしまうことも。
才能豊かさ: 歌や楽器、舞などに優れ、教養の高さも伺えます。
💔 玉鬘の苦悩
一方で、玉鬘は複雑な生い立ちゆえに、様々な苦悩を抱えています。出生の秘密: 最上流の落胤という出生を隠し、波乱万丈な人生を送ることになります。
求婚者の多さ: その美貌ゆえに多くの男性から求婚され、心を悩ませます。
光源氏への恋心: 光源氏に惹かれながらも、年の差や彼の立場に思い悩みます。
自分の意志で生きられない不自由さ: 周囲の思惑に翻弄され、自分の意志で自由に生きることができません。
光源氏への恋心: 光源氏に惹かれながらも、年の差や彼の立場に思い悩みます。
自分の意志で生きられない不自由さ: 周囲の思惑に翻弄され、自分の意志で自由に生きることができません。
玉鬘に心を寄せる源氏の異母弟蛍兵部卿宮(ほたるきょうひょうぶのみや)が玉鬘と対座したとき、源氏はいたずら心から、袋に入れて隠していたホタルを解き放つ。暗闇に一斉に飛び交うホタルが光を放ち、その一瞬、蛍兵部卿宮は玉鬘の横顔を見てしまい、その美しさにますます夢中になってしまうシーンは有名。
✨ 光源氏の光と影
玉鬘は光源氏にとって、理想の女性であると同時に、 彼のエゴや所有欲を体現する存在 でもあります。光源氏は手元に引き取った後、玉鬘を自分の理想の女性に育てようとします。玉鬘の気持ちよりも、自分の所有欲を優先してしまう場面も見られます。
このように、玉鬘は 美しさ、才能、苦悩、そして光源氏との複雑な関係 を通じて、「源氏物語」における重要な女性の一人として描かれているのです。
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