桃花源記(陶淵明作)~もっと、深くへ !




  「桃花源記」(陶淵明作)を口語縮約で


 晋(しん)の太元(たいげん)年間に、武陵(ぶりょう)の人で、魚を捕らえるのを生業とする人がいた。ある日、谷川にそって行くうちに、自分のいる位置がわからなくなった。するとふと桃花の林に出会った。川の両岸には桃の木ばかりで、中に他の木はなかった。草は色鮮やかに茂り、落花がひらひらと散っていた。漁師は不思議に思い、林の終わりまで進んでみることにした。林は水源で尽き、すぐそこに一つの山があった。山には小さな入り口があり、ぼんやりと光が見えた。

 船を降りて入り口から中に入ると、最初は狭く、やっと人が通れるくらいだった。数十歩進むと、土地は平らで広く、整った家々があった。立派な田や池、美しい桑や竹が広がっていて、人々はみな幸福そうに暮らしていた。

 彼らは外の世界と隔たって暮らしており、漁師を驚いて迎えた。漁師は自分の経験を話し、村人たちは喜んで彼をもてなした。漁師が魏や晋の王朝の移り変わりなど外の世界の出来事を語ると、村人たちは驚き嘆息した。

 やがて、漁師は町に帰って、太守(郡の長官)にそのことを話し、もう一度あの村を訪ねたが、二度と行きつくことができなかった。

 後に南陽の好尚の人劉子驥(りゅうしき)がその村を訪れようと計画したが、病没して果たせなかった。そのあとはその村を訪ねようとする者はいない。

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【動画】桃花源記 


  作者の陶潜とは
 東晋末から宋初(326~427年)の人。字(あざな)は淵明(よって淵明とも呼ぶ)、子供のころも若いころも困窮を極める生活を送りました。仕官したり農耕をしたりしましたが、現実の混乱と複雑さに嫌気がさし、隠棲して自然の中にあって、酒と詩を楽しみとして、悠々自適の生活を送ったということです。

  桃花源記とは

 陶潜は、超俗的ではあるが仙人が住むような空想的な仙境ではなく、普通の人々が住む村を描いています。その村は、その気になれば実現可能であり、老子の言う「小国寡民(しょうこくかみん)」のような村でした。中華的理想の社会の典型の一つと考えてもよいでしょう。陶潜は腐敗し混乱の極みにある現実の中で、自分があこがれるそんな世界を描いているわけです。
※小さな国であるということ。 老子が、国家や社会形態の理想として説いた。


 しかし、この理想の世界である桃花村も、その姿をほんの少し見せただけで、漁師や太守たちの名利を求める俗人の動きに、元のように山中深く姿を隠してしまいます。「小国寡民」の世界は人間のこざかしい知恵と欲望によって破壊されることを知っている桃花村の人々は、漁師のつけた目印を消し、外界との関係を絶ったと考えられます。

 後世、高尚の人劉子驥(りゅうしき)は桃花村にあこがれて何とかしてそこにたどり着こうとしたが、願いを果たすことができないままに病没したという。それ以来、桃花村を探し尋ねる者はいないと結んでいます。このお話、桃花村、すなわち、平和で楽しく暮らせる世界を求め、そんな社会の実現を願う人が現在いなくなったという慨嘆を語っていることとなります。「桃花源記」は桃源郷ということばの元となる。

 桃花村は、中華社会の理想像のひとつで、現在の「共同富裕こちらを)」の原型と考えていいとも思います。共産主義も原始共産制こちらを)として同じような理想像を持つもの。もっとも、80年も続いている中華を称するこの国家は、現在は領土も人口もとてつもなく巨大ですが…いつももっともらしく、且つ、矛盾を来すのが常ですが…巨大な利権集団の利益が何より優先…?




桃花源記 問題 解答(解説)

問1 a溪に縁りて行き 中に雜樹無し 其の林を窮めんと欲す 光有るがごとし   f口より入る 従りて來たる所を問ふ


問2 dほうふつとして gことごとく iつぶさに
   

問3 未だ果たさず尋いで病みて終はる。(「未」は、「いまダ~ず」と訓む再読文字(こちらを)。「未来」とは、「未だ来たらず」の2字熟語。)

問4 ① どれくらい来たかわからなくなった。道に迷った。
   ② すべて桃の木だけの幻想的な風景だったから。(「異」は、不思議に思う、怪しむの意。)
   ③ この村の人々はみな顔見知りで、村人以外の人には会ったことがないから。

   ⑤ 世の盛衰興亡の激しさ、めまぐるしい世の移り変わりに感じたから。
   ⑥ 外部の俗人がやってくると、村の平和な暮らしが破壊されてしまうので、この村のことを言いふらしてもらっては困るという気持ち。(外部の人に言うほどのことではありません、「不足」は婉曲な禁止の言い方。)
   ⑦ 漁師が再び村を訪れようと思っていたから。後の展開から、太守に話して、褒美をもらおうとしていたとようだ。)
   ⑧ 村人の願いを無視して、欲を出したから。
問5 部分否定。二度と道を見つけることはできなかった。(「復不~」=全部否定と区別できるように。)

問6 俗人である漁師・太守に対して、純粋に桃源郷を求める人物をあげ、その人がなくなって以来、理想の世界を求める人は世にいなくなったことを言う。



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