折節の移り変はるこそ(徒然草 第19段) もっと深くへ !




『徒然草』とは


 枕草子』(清少納言)・『方丈記』(鴨長明と併せて日本大随筆言われている

 自然、社会、人間のありように対する思いを忘れた随筆で、様々な角度から斬新(ざんしん)な感覚で切り捨てられた作品。王朝文化へのあこがれ、有職故実(ユウソクコジツ。礼式・官職・制度など)由来など)に関する心得、処世訓、自然美新しい見方など、素材・対象は多様を極めている。作者兼好法師和歌四天王の一人に数えられたように、美的感受性にも優れている。


兼好の矜持(きょうじ)

 季節を主題にして書かれたものといえば、『枕草子』の「春はあけぼの」の章段が思い浮かぶ人が多いでしょう。その他季節の章段の話題も木の花は、濃きも薄きも、紅梅。」など、季節と密接に関連したもの多い

 一方、古典文学の中心となる和歌の主題の一つが四季であり、無数の四季の歌が詠まれてきた。読者としては、兼好が何をとりあげ、どういう観点でどういう事を言うのか興味深いが、兼好自身はそれまでの多くの古典がプレッシャーとなろう。

 「いい続けて、みな源氏物語枕草子などで使い古されているのが、同じことを、もう、今更らしく言うまいとは思ってない。心に思い込んでいる、もやもやしたことを言わないのは、お腹(なか)がふくれていやなことであるから、筆(の進むまま)にまかせては(書き付けていくが、当然それは)、相当慰み書きであって、書いていくそばからすぐに破り捨ててしまうはずのものであるから、人が見る価値があるものはない。(←おぼしき事言はぬは腹ふくるわざなら、筆にまかせつつ、あぢききすさびにて、かつ破り捨てるべきものなれば、人の見るべきにもならぬ。) 」という言い訳めいた準備をしている。

 『徒然草』でも、雪の日の手紙に雪を話題にしなかった手紙をとがめられたことや、秋の未明の恋人を送り出した後、すぐに戸を閉じず月を眺めている女性の優雅さについてなど、季節と密接に注目した話題が多い

日本と古典

 科学技術の進歩によって、私たちは飢えや寒さ暑さに苦しめられることも少なくなり、便利で快適な生活を手に入れたし、健康で長生きできるようになった。離れた場所に快適に楽しく移動できるようにもなった。でも、得るものがあれば失うものもできるのも真実秋の訪れを実感したり、月を見て遠く離れて暮らしているいとしい人を思いやったり、風や虫の音・葉色の微妙な変化に感嘆するような感覚と感性が衰弱・退化したのは事実。しかし、時々は、小説や映画アニメに日本独特の感性を感じる瞬間もある。 やはり、文化伝統の生命力の強さを感じさせられる。


 また、この国が異質な勢力に急に支配されたり凌辱(りょうじょく)されずにすんだ。そして、近代はヨーロッパの文物を、第二次世界大戦後はアメリカン・カルチャーを受け入れ、さらに独特な文化として紡ぎ上げられてきました。


 地球上で人々が今暮らしているそれぞれの土地は、これまでどんな勢力が暮らしていたのか、あるいは、どんな地域に移動したり侵入したりしてきたのか。移動・膨張・極限・滅びたりの興亡が、急襲・虐殺・収奪・陵辱を伴って続いてきた。この日本は、四方を海で囲まれた地理的条件が幸いして、身を守られる僥倖(ぎょうこう)に恵まれた。


 現在、少子化・高齢化・労働力不足の解決法として、移民を積極的に受け入れようとする動きがある。異なる民族を多数受け入れることは異なる価値観・思考法・宗教・歴史観が入ってくることでもある。労働力不足が解決できるとか、異文化との共生によってより豊かな文化になると単純素朴に考えていいものだろうか。また、狭量なナショナリズムで解決できるとも思えない。この国はどういう国か、どういう方向へ向かえばよいのか、そのために必要なのか、何がよいのかが問われている。歴史や古典の素養、地政学的な現実の知識が必要です。【2019.1.16記】
 


【三大随筆】徒然草|兼好法師 今すぐ心を整えたいあなたへ 
~未来への不安、過去への後悔を消す最強古典 ~ 2021/04/01



折節の移り変はるこそ 問題解答(解説)

問1①桜の花も次第に咲きだそうとする、その大事なよい時なのに
(「」とあったら桜、「やうやう」はやっとではなく、だんだん・次第に、「けしきだつ」は「様子が表れてくる、ここでは、咲きそうになってくるの意。「こそ~已然」の逆接用法にも注意。)

  ⑦うってかわって清新な気持ちがする
(「めづらし」は珍しいではなく、新鮮な・清新なの意。)

問2 解答例…橘の花は、昔から懐旧の情を誘うものとして有名であるが、
(「花橘」は柑子のことで、特にその花を賞美するので花橘と言う。「名に負ふ」は「名を持つ・有名である」の意。「こそ~已然」の逆接用法にも注意。「さ月待つ花たちばなの香をかげば昔の人のそでの香ぞする」は、橘の花の香りをかぐと、昔親しくしていた人が袖にたきしめていた香の香りがして懐かしいことだの意。)

問3③ハ 


問4 「おけ(カ行四段動詞「おく」の已然)+る(完了助動詞「り」の連体形)」
(他に「急ぎあへる」・「澄める」)

問5 ついな(「おにやらひ」も可。)・疫病を払うとして大晦日に宮中で行われた儀式(現在の節分の豆まきの元となるもの。)

a.Q

1 解答例…夢中で走っている様子。
(「足を空に惑ふ」は、足が空を向いているような状態を言い、非常に慌てふためくさまの意の慣用表現。)


2 解答例…前日までのあわただしいようすがぴったりと止んで、ひっそりと静まりかえっているから。
(「ひきかへ」は、今日、すなわち、元旦の空の様子が、昨日の空の様子にひきかえの意。「ひきかへ」は、すっかり変えるの意で、「昨日とすっかり様子を変えて、うって変わって」の意。「めづらしき」は「新鮮な、清新な」の意で、単に「珍しい、まれだ」の意ではない。)

3 解答例…春の景色を良いとしている。その理由は、秋の景色が静的・内省的なのに対して、春の景色は人の心を浮き立たせ、生き生きとした生の喜びを人間的に肯定する兼好の態度にかなうからである。
(67字。内容を把握して、設問の趣旨に沿って七十字以内の制限で答える、記述式の難しい問いとなる。『徒然草』のなかには、『枕草子』とは違って、純粋な叙景文はまれ。そのわずかな叙景文に近いのが「折節の移り変はる」気色を描いたところである。春と秋の比較は、いうまでもなく「『もののあはれは秋こそまされ』と人ごとに言ふめれど、それもさるものにて、今一きは心も浮き立つものは、春のけしきにこそあんめれ。」というところである。ここで兼好は、春の気色の美しさを「心の浮き立つもの」として、秋の「もののあはれ(しみじみとした、静的で内省的な美しさ)」と対照的に強調し、生き生きとした生の喜びを人間的に肯定しているのである。)


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