門出/馬のはなむけ(土佐日記)もっと深くへ !  

朗読 紀貫之『土佐日記』「門出」


1:20 から原文と現代語訳が同時に表示されています※

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『土佐日記』への道

 かなで書かれた最初の日記文学平安時代前期に成立。作者は紀貫之(きのつらゆき)。
 紀貫之土佐国(とさのくに、こちらへ)国司(こくし、こちらへ)として赴任していました。その任期を終えて土佐から京へ帰る貫之ら一行の55日間の旅路と思われる話を、書き手が女性であるかのようによそおって、書かれていますかなで書かれたわが国初めての日記文学です。その後のかなによる表現、特に女流文学の発達に先鞭をつけたとされています(「平安女流、世界の文学史上輝く綺羅星たち」はこちらへ)。


 57首の和歌を含む内容は様々ですが、中心となるのは土佐国で亡くなった愛娘(まなむすめ)を思う心情、そして行程の遅れによる帰京をはやる思いです。
 諧謔表現(ジョーク、駄洒落などといったユーモア)を多く用いていることも特筆されます。

 日次(ひつぎ)に書かれたわけではなく、旅の途上で漢文か、かなで書かれたメモをもとに、帰京後、入念に書かれたと考えられています。

紀貫之とは

 905年、醍醐天皇の命によって初めての勅撰和歌集『古今和歌集』を紀友則・壬生忠岑(みぶのただみね)・凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)と共に撰上。また、仮名による序文である仮名序こちらを)を執筆。日本文学史上において、歌人として最大の敬意を払われてきた人物です。


「男もすなる日記といふものを」(土佐日記)原文+現代語訳はこちらへ。

「うまのはなむけ」~1000年前の船旅

 土佐日記」は、ただ旅程での出来事を記録しているのではなく、例えば、次の諧謔(カイギャク。しゃれ・ユーモアの意)表現のように、高度な表現として書かれている箇所も多い。

船路なれど、むま(馬)のはなむけす」
海のほとりにて、あざれ合へり」 (あざるは、現代語では「戯れる」と「腐れる」の両意があり、「潮」をしているのに「腐る」としゃれている。)
一文字をだに知らぬ者、しが(ソノ)足は十文字に踏みてぞ遊ぶ」

 今から1100年も前の日本人、現代人に勝るとも劣らないジョーク、駄洒落などといったユーモアの精神を持っていたのですね。

人間観察

 「八木のやすのり」という人について、任期の終わった国司などにはもう用はないと冷淡なのが普通なのに、丁重に餞別(せんべつ)を持ってきたことが書かれています。実直で誠心の持ち主として、1000年以上も人々に知られることとなっているのがおもしろいですね。
 このような人の心理の深い考察に基づいた高度な表現も注目されます。

 しかも、ここで、門出直前の21日から24日までの出来事が、簡潔であるが、リアルにイメージできるように書かれています。歌の巨匠紀貫之は秀逸な散文も書き表したことになります。


 かなで文字表現ができるようになった初期に、これほど高度で緻密で完成度の高い作品が書かれていることに驚かされます。

「男もすなる日記といふものを」(土佐日記)原文+現代語訳はこちらへ。


紀貫之「土佐日記」(ラジオドラマ)


門出/馬のはなむけ 問題解答(解説)

問1 c げゆ d 大騒ぎする e 国司の長官の人柄


問2  aの「なる」はサ行変格活用動詞「す」の終止形に接続しているので、伝聞の助動詞「なり」の連体形である。「書くと聞いている(という)」と口語訳できる。  bの「なり」はサ行変格活用動詞「す」の連体形に接続しているので、断定の助動詞「なり」の終止形である。「書くのである(書いてみようと思うのである)」と口語訳できる。

問3 国司の任を退いた今となっては、その人に餞別などしてお愛想を示しても利益を得ることなど無い、と思ってやって来ない

問4
(1)思ふ(「年ごろ、よく比べつる人々なむ、別れがたく思ひて」のフレーズ。「なむ」の結びは連体形「思ふ」となるが、ここでは、「て」という接続助詞に続くため連用形「思ひ」となっていることを、「結びが流れる」という。)

(2)ざる・ず・打消(2段落の1文目にある)

(3)恥ぢ(「恥づ」はダ行上ニ段活用。ダ行上ニ段活用動詞は現代語ではザ行上一段活用になることを理解。)

(4)守柄にや(「に(+助詞)+あらむ」のパターンの「」は断定の助動詞「なり」の連用形「あらむ」が省略されることもあるという知識もインプット。)

(5)出でます・尊敬・作者から「講師」へ

(「出でます」は、「出づ・来・あり」の尊敬語、現代語の「お出になる・いらっしゃる」。インプット。)

問5 平安時代前期・紀貫之・古今和歌集 

a.Q

1.解答例…和泉の国までは外海で波風が高く、難所も多く難破する危険性があったので。

  解答例…海賊がいて、襲われる危険も高かったので。

(和泉の国とは、現在の大阪府南西部の地域を言う。ここまで来ると、海も穏やかで都も近い。1000年前の造船技術のレベルや、海賊行為を生業にしている者達がいて国司〈地方行政や司法に携わるトップ〉の乗っている船でも襲われる程度の治安状態であったこと、船旅は現在からは想像できないくらいリスキーで不安なものであったことを理解。)


2.②解答例… 船旅だから馬には乗らないのに、馬のはなむけ(=餞別)をするという洒落 (諧謔表現)を意図している。
(「船路」と「むま(馬)」とは言葉の辻褄が合わないのを洒落ている。)

  ④解答例… 海のほとりで塩がきいているのに腐っているので。
(これも2②にと同じく、「あざる」には、「ふざける」という意味の語と「(魚肉などが)腐る」という意味の同音異義語があるのを使って、辻褄が合わないとする。海辺で羽目をはずして楽しんでいる事実を洒落て言ったもの。)


3.解答例…卑しい身分の者まで酔っ払って足元がおぼつかない状態で戯れていることを、一という文字さえ知らない者が、その足を十の文字のように踏み足して遊ぶという数字を使った洒落。
(文字は手で書くものであるが、そのいちばんやさしい「一」という字も知らぬ者が、「足」で「十」という文字を書くという洒落。)


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【参考動画 「土佐日記」結末となる『帰京』    
岡山県立岡山芳泉高等学校の美術部と放送文化部の共同制作の作品。





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