刎頸の交わり(十八史略)~中華式究極の謝罪法、肉袒負荊もっと深くへ!

 刎頸(ふんけい)の交わりとは、真に深い交友の意。それをその友人のためならたとえ首を切られても後悔しないと思うという言い方をしているわけです。「頸を刎ねられる(刎頸)」とはなまなましく、誇大表現でいかにも中華らしい。本文は『十八史略』にあります。肉袒負荊(にくたんふけい)とはこの「刎頸の交わり」のお話にある、「肉袒」=衣服を脱いで上半身をあらわすことで、「負荊」=イバラの鞭を背負って、これで打って罰してくれと願うことで、「肉袒負荊」=深く謝罪することの意となります。

 刎頸の交わりと同じような意味で、水魚(すいぎょ)の交わり莫逆(ばくぎゃく)の友管鮑(かんぽう)の交わりなどの熟語もあります。わが国に比べると数が多い気がします。わが国よりそういう関係を重んじたとも思われるし、逆に、裏切り・背信・不実が当たり前にはびこっていて、そうした関係をあえて強調しなければならないのが現実だったとも考えられます。


『十八史略』とは

 元の初頭(今から740年ほど前)、曾先之(そうせんし)の著。『史記』以下の十八の史書のダイジェストで、初学者向けに編まれた編年体(事件の起こった年月に従って記す形式)による通史。わが国には室町時代に伝わり、江戸自体を通じて幼年就学者のための読本として扱われ、戦前は小学校の教科書教材としても人気のあった史伝です。


「刎頸之交」の本文・書き下し・現代語訳はこちらへ。

刎頸の交わり~あらすじ

 趙(ちょう)王は、功を上げた藺相如(りんしょうじょ)を上卿としたが、戦功ある武将廉頗(れんぱ)は、卑しい身分の出で実戦の功のない相如(しょうじょ)の下位にいることを不快に思い、相如(しょうじょ)をうらんだ。そこで相如(しょうじょ)はつねに廉頗(れんぱ)を避け隠れ、それを近臣は不満としたが、相如(しょうじょ)は国家の安泰を考えるからこその行動であると説明した。そのことを耳にした廉頗相如(しょうじょ)の態度に敬服し、自分の非を詫び、ついに刎頸(ふんけい)の交わりを結んだ。



二つの人間の典型

 廉頗(れんぱ)は斉(せい)を打ち破るなどの功績を持つ優れた武将、その功によって上卿(じょうけい。上席の家老)に任じられていました。その廉頗(れんぱ)藺相如(りんしょうじょ)の功績を評価しておらず、宦官(かんがん こちらを)が口先によって出世したに過ぎないと考えていました。文官の口舌(こうぜつ)の徒が、実戦で功績を上げてきた自分の上に立つのを不当と考え、堪えられなかったのです。

 藺相如(りんしょうじょ)は、和氏(かし)の璧を持って秦に行き、秦に屈せず無事に璧(へき)を持ちかえった(「完璧」の故事)功績で上大夫(じょうたいふ)にに取り立てられました。また、メ(ベ)ンチの会で秦の野望を砕き、趙の名誉を保つなどの大功ををあげ、上卿(じょえうけい)に任ぜられました。

 実戦で数々の戦功をあげ趙を支えている廉頗(れんぱ)は、藺相如(りんしょうじょ)の栄達を不快に思っていました。しかし、趙を思う藺相如(りんしょうじょ)の至誠を知るや、深く自分の非を詫びたのです。藺相如(りんしょうじょ)の深謀遠慮、冷静で理性的に対して、廉頗(れんぱ)の態度は率直・淡泊であり武人的性格をよく表しています。
 不世出の文官と武将の典型として二人が造形されているわけです。


「頗聞之、肉袒負荊、詣門謝罪。」について

 「肉袒(にくたん)」とは肩脱ぎして肉体の一部を現すこと。昔、中華では、降伏や謝罪の意を示すことを意味する行為だったようです。また、「負荊(ふけい)」とは罪人を打ついばらの枝を背負っての意で、これで自分を打って罰してくれと願うことになります。肉袒負荊(にくたんふけい)心から謝罪することの比喩的表現として使われることになります。罪人をいばらのムチで打つ刑罰があったわけです。
 ちなみに、わが国では、他人に力を貸すことを「かた肌を脱ぐ」、全力をつくすことを「もろ肌を脱ぐ」と言ったりします。

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刎頸の交わり 問題 解答(解説)

問1 a[ みば ]b[ ともに ]e[ いへども ]f[たたかはば ]

(a・fは文意から仮定条件、未然形+ば。bの「」は、と・ともニ・あたフ・あづかル、文意から判断する。)

問2 c…  d…

問3 居我上

(「右」には上位の意あり。「左遷」とは位を下位にするの意、「左降」という言い方もある。)

問4②恥だと思った。

以 A 為 B ⇒ Aを以つてBと為す = AをBとするAをBと思う。一文目の「以相如為上卿」は、相如を上席の 卿とした。ここは、「以 為 B」 = Bと思う。)

  ④両方とも生き残るわけにはいかない。

(「不倶~」 = ともには~ず = 一部否定 = どちらも~するわけにはいかない。「倶不~」 = ともに~ず = 全部否定 = どちらとも~できない。ここでは一部否定、二人とも生き残るわけにはいかない。)

問5 秦の威を以てすら

 (以 之 B ⇒ AのBを以てすら = AほどのBにもかかわらず〈それでも〉

問6 われこれをなすゆゑんは

 (所以 = ゆゑん、 = は)

問7 ひとつは、相如は卑賎な出身であり、口先だけで廉頗より上位に出世したのだと

馬鹿にしていたこと。さらに、相如に会ったら恥をかかせてやると公言していたこと。

問8 

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