💥解読💥梶井基次郎『檸檬』

💥解読💥

梶井基次郎『檸檬』

★本格的に取り組もうと思う人向けです。

★プリントアウトするか、解答のみを紙に書くなどして取り組んでみてください。


全体を三つの大段落でとらえます。教科書やコピー本文に書き入れてください。

第1段落… えたいの知れない…

第2段落… ある朝、…

第3段落… どこをどう歩いたのだろう…


💥設問💥

( a.b.c )→ aは第何段落、b は段落内の形式段落、c は各形式段落内の何文目。


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第1段落

①「えたいの知れない不吉な塊」(1.1.1)のために、「わたし」はどんなであったとされていますか。形式段落の第一段落(えたいの知れない…続けていた。)と第二段落(なぜだか…咲いていたりする。)で語られていることを150字をこえない程度でまとめなさい。






② 「私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられた」(1.2.1)とあるが、「見すぼらしくて美しいもの」とは、具体的にはどんなものを言っているのか。




③ 「私はその中に現実の私自身を見失う」(1.3.10)とは、どういうことになるというのか、この場面に即して具体的に説明しなさい。




④ 「無気力な私の触角にむしろ媚びて来るもの」(1.6.4)と対立するものは、現在ではどのようなものと語られているか。




⑤ 「書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように私には見えるのだった。」(1.7.7)の「借金取りの亡霊のように」とは、わかりやすく言うとどういうものの比喩になっているのか説明しなさい。




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第二段落

① 「果物屋固有の美しさ」(2.1.5)について。

(1〕端的に言うとどのような「美しさ」だと言えるのか。60字を越えない程度の一文で書きなさい。


(2)(1)の具体的なイメージが描写されている一文はどこか、その最初の6字を抜き出しなさい。


(3)(2)で答えた一文の表現としての特徴を簡潔にまとめなさい。



②「そこの家の美しいのは夜だった」(2.2.1)とは、どんな点に美しさがあるというのか。90字を越えない字数を目安に記述しなさい。



③「逆説的な本当であった」とは何についての表現か。



④「つまりはこの重さなんだな。」(2.8.1)の「重さ」とはどういうことを意味するのか、文意に沿って説明しなさい。



⑤「思いあがった諧謔心」(2.9.1)という言い方に込められた気持ちを説明しなさい。



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第三段落

①「平常あんなに避けていた丸善がその時の私にはやすやすと入れるように思えた。」(3.1.1)のはなぜか。



②「呪われたことにはまた次の一冊を引き出して来る。」(3.2.7)とあるが、なぜ「呪われたことに」なるのか。




③「aそれも同じことだ。bそれでいて一度バラバラとやってみなくては気が済まないのだ。cそれ以上は堪らなくなってそこへ置いてしまう。」(3.2.8)

 「それ」の指示内容は何か。


 a…


 b …


 c  … 


④「一枚一枚に眼を晒し終わって後、さてあまりに尋常な周囲を見廻すときのあの変にそぐわない気持を、私は以前には好んで味わっていたものであった。」(3.3.2)の「あまりに尋常な周囲を見廻すときのあの変にそぐわない気持」とはどういうものか、わかりやすく説明しなさい。





⑤「ガチャガチャした色の階調」(3.7.1)とは、何のことか。




⑥「私をぎょっとさせた」(3.8. 1)とあるが、それはなぜか。






⑦この小説の中で、檸檬はどういう意味を持つものとして語られいるか。








⑧「私」の丸善に対する感じ方の推移を説明しなさい。









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💥解読💥

第1段落

①解答例…焦躁や嫌悪感に苛(さいな)まれていて、以前感動できた音楽や詩にも辛抱できなくなっている。それで何かに追い立てられる気持ちで、街を浮浪している。「わたし」は「みすぼらしくて美しいもの」に心ひかれて崩れかけた街並みや汚れた洗濯物、がらくたが転ったりする部屋が見えたりする裏通りが好きだった。(138字)


  ↑  ↑  ↑  ↑
 「酒」(1.1.2)「肺尖カタル」(1.1.3)「神経衰弱」(1.1.3)「借金」(1.1.4)と、心身ともに病み荒廃した生活ぶりを思わせる書きぶり。放蕩(ほうとう)、退廃、不健全なあり方が語られています。そんな「わたし」がひきつけられたのは「みずぼらしくて美しいもの」(1.2.1)であり、それはそうなる以前のわたしが好んだ「美しい音楽」(1.1.7)「美しい詩」(1.1.7)とは対照となるものだったとされます。まず、解答例にあるような私の心境、明確にとらえられていましたか?


 大正時代末期、急速に変化する社会の中で新しい価値観や思想を模索していた、そんな時代の都会の知的で先鋭な青年層の気分を反映したような作品。モボ・モガの時代と重なります(⇨こちら)。ライフスタイルや価値観の西洋化と資本主義の進展とともに都会では消費文明が花開いた時代です。先鋭な学生や文化人はデカダンス(⇨こちら)に傾斜した時代でもありました。そんな文化的風潮に梶井も強く影響されていました。『檸檬』はそんな時代を背景に書かれた作品。


②解答例…みすぼらしい裏通りで、傾きかかった家並に威勢のいい向日葵やカンナなどが咲いている風景。安っぽい花火の模様。おはじき。寺町の近くの果物屋の店と果物、野菜、特にレモン。京都を離れた仙台とか長崎のような見知らぬ人ばかりの市の旅館の清浄な布団。


③解答例…現実の私自身は京都の街を歩いているのだが、その私を、私の錯覚と壊れかかった街との二重写しになった、幻想の世界にいるように想像すること。


④解答例…以前私を喜ばせた美しい音楽や詩。丸善に売られている小物や画本などすべて。


⑤解答例…「わたし」を追い立て続け、焦燥をつのらせ重苦しい気分にさせるもの。

  ↑  ↑  ↑  ↑

 直喩というレトリック(表現技法)です。「借金取り」とは、貸した金を返せと取り立てに来る人のことです。えげつないことまで行われていました。現在は借金を「ローン」などとソフトな言い方をしています。借金(=ローン)地獄のスパイラルに陥ったら、現在でも追いつめられ感、焦燥感、重圧感に苦しみます。ここでは「亡霊」と、実体が分からず不吉な印象を醸し出しています。


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第二段落

①(1〕解答例…果物の持つ「色」と「形」が、果物全体の集積で作りだす、複雑ではあるが、ある統一感を持った華やかな美しさ。(52字)

 (2)何か華やかな (2.1.7)

    ↑  ↑  ↑  ↑ 

   (1)に説明的に述べられています。「流動」と「凝固」という相反するイメージが不思議に調和統一したような美しさ?と言っていい?


 (3)解答例…感覚的な印象を知的な想像を通して表現している。比喩を用いた鮮やかな描写となっている。

     ↑  ↑  ↑  ↑ 

 勾配のある黒い漆塗りの板に陳列されたさまざまな形で、色とりどりに、豊かな配列で陳列されている果物と青物の美しさ。初めて目にするようなインパクトを与える表現だと思います。


②解答例…夜の暗さの中で電灯の光をあびると絢爛となり、廂が特異な姿を作り出す変化の美しさ。周囲が暗いために、電灯の明かりがいっそう明るく見え、店先が美しく見えるのである。(79字)

   ↑  ↑  ↑  ↑

   光と闇の対比。

③解答例…レモン一個で私から不吉な塊が弱まり、幸福な気分になったこと。

     ↑  ↑  ↑  ↑

   直前「不審なこと」の内容と同じ。

④解答例…私を抑えつけている「不吉な塊」と対極で釣り合っている「重さ」であり、「すべての善いもの」「すべての美しいもの」を重量に換算した重さを意味している。


⑤解答例… たった一顆のレモンに寄せた自己の過大な関心に対する照れ(を、このように表現した。)

  ↑  ↑  ↑  ↑

 その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さである」(2.8.1)などと、大したこともないのに何か気の利いたことを言っていると思っている自身を揶揄(からかい)するような言い方。おどけた言い方とも言えます。

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第三段落

①解答例…レモンのおかげで、「不吉な塊」が弛み、私は幸福な気分になっているから。

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  直前に書かれている私の精神状態。

②解答例…画集を見るのをやめればいいのに、そう決意することすら物憂く、何となく次の一冊を引き抜くことを繰り返している。その状態が自分の意志や感情によるものではなく、何となく何かに操られているような感じを「呪われた」と表現している。


③a…次の一冊

 b …克明にはぐってゆく気持ちは更にわいてこないこと

 c  … 次の一冊を引き出してきても克明にはぐってゆく気持ちは更にわいてこないこと

  ↑  ↑  ↑  ↑

 指示語のその指示内容は、直前、その直前…とさかのぼり、「こと」などを補うなどして指示語に代入、文意が通るか確認。ただし、要約しなければならなかったり、指示内容が指示語の後にあることもあり、そのケースが出題されることも知っておいてください。
 ここでは直前に着目、要約する必要なものもあります。

④解答例…芸術作品の生み出す陶酔の世界・空想の世界から、現実世界にもどる時の違和感。
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 映画館でファンタジックな物語の世界に入り込んでカタルシス状態にあるまま、映画館を出た直後なんか !

⑤解答例…開いて積み上げた画集の、その入り乱れた色彩のこと。


⑥解答例…あれほど圧迫を感じていた丸善の権威を征服し、その証拠を残しておくことの大胆なたくらみに自ら驚いたので。
    ↑  ↑  ↑  ↑
 開いて積み上げた画集の上にレモンを置いたままに外に出るという、とっさに浮かんだ「アイディア」を「たくらみ」と良くない計画としているのです。現実には、丸善の店員さんが見つけて首をかしげて元に戻すのでしょうが、「私」はレモン爆弾で「丸善があの美術棚を中心として大爆発をする」という夢想をたのしむことになるのです。




⑦解答例…レモンはあらゆる点の好ましさから、「私」の象徴的存在となっており、「不吉な塊」からの圧迫感を緩和し、新鮮な生の意識をもたらす存在としての意味を持っている。つまり、丸善に象徴される「えたいの知れない不吉な塊」を追放する役割を果たしている。


⑧解答例…以前は、輸入雑貨を見るのに小一時間を費やしても飽きないほど好きであった。(1.4.1)それが「不吉な塊」の圧迫を受けて、重苦しい場所に変わってしまった。レモンを手にして、ようやく丸善に入れるような軽やかな気分になるが(2.3.10~)、入ってみるとやはり重苦しい気分がよみがえる(3.2.3)。開いて積み上げた画集の上にレモンを置いたまま外に出て、レモンが爆弾となって丸善を吹き飛ばす夢想を楽しむ(3.10)という、感じ方の推移がある。




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