「枕草子」への道
平安時代の初期(今から1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文字表現ができるようになっていったのです(万葉仮名時代は除きます)。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした〈作り物語〉(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した〈歌物語〉(伊勢物語)の二つが成立したとされています。
さらに、見聞きしたことや、自然・人事についての感想・考え・評価などを自在に記す〈随筆〉として、千余年ほど前清少納言によって『枕草子』が書かれました。中宮定子(ちゅうぐうていし)に仕えた宮中生活の体験や、感性光る「ものづくし」を自在に著わした「をかし」の文学と言われている。『枕草子』も、日本人独自の感受性、ものの見方、ふるまい方の原型の一つとなっているといえます。
「中納言まゐり給ひて」要旨
中納言(隆家)がやってきて、中宮のもとに扇を献上しようとするときに、今まで見たこともないほどのすばらしい骨だと自慢したので、わたくしが「では、くらげの骨でしょう」と言うと、中納言は笑って「このしゃれはわたくしのものとしよう」と言う。
清少納言のしゃれ
中納言が中宮に扇を献上するのに、その扇の骨を自慢して「まだ見ぬ骨のさまなり」と言ったのをとらえて、「人が見たことがない骨なら、あの(骨を持たない)くらげの骨なんでしょう」と奇想天外なしゃれを言った。中納言は一本取られたと清少納言の頭の回転のよさに感心した。
清少納言の言いわけ
中納言を感心させたことを、一女房ごときが中納言(上流貴族)をやり込めるようなこと言うなんて、自身では出過ぎたことをして「苦々しいこと」と思われると思うが、あったことは一つも漏らすことなく書き記(しる)せと人々から言われているので書いたのですと謙遜めいた弁明をしています。
しかしこの弁明の裏にある、中納言が舌を巻くような極上のしゃれを思いついて感心されたことを自慢し、その晴れがましさを書き残したい気持ちからこの記事を書いたことは隠しようがないのではないでしょうか。
「中納言まゐり給ひて」(枕草子)本文+現代語訳はこちらへ
【参考動画】
枕草子/春はあけぼの(第一段)
中納言まゐり給ひて(枕草子)問題はこちらへ
中納言まゐり給ひて(枕草子)解答解説
問1 (1)う(中納言の最初のせりふ「隆家こそいみじき骨は得て侍れ。…」。語幹のない下二動詞は、「得〈う〉」「寝〈ぬ〉」「経〈ふ〉」の三語のみとinput ! この三つ、実際に活用を言ってみましょう😄)
(2)なる 断定(作者のせりふ「…海月のななり」にある。『ラ変型+ラ変型=る⇨ん⇨無表記と理解 ! ざる+なり⇨ざんにり⇨ざなり たる+なり⇨たんなり⇨たなり なる+めり⇨なんめり⇨なめり べんる+めり⇨べかんめり⇨べかめり』はinput ! )
問2 こそ (文末の「侍れ〈已然形〉」に着目。「こそ~已然形」の係り結びとなっている。)
問3 b平凡 並一通り
c張ることもできそうもないので (え~打消⇨不可能。「まじけれ」は打推・まじ・已然形、これも不可能、「え~まじ」で「とても~ことができそうにない」の意。まじけれ〈已然形〉+ば⇨確定条件の訳にも注意。)
dどんなようす(の骨)なのか
e書きもらすな (な〈副詞〉~そ=禁止 ~スルナ。)
問4①「いみじき骨」にふさわしい、すぐれた紙。(「隆家こそいみじき骨は得て侍れ。……え張るまじければ」に着目して考える。)
②「聞え」は作者がイに敬意を表す謙譲語、「させ給へ」は作者がロに敬意を表す最高敬語である。(下の【敬語法】、まだの人は input ! )
敬語の用法【①敬語の種類と②敬意の方向(誰から誰に)】を理解しましょう。
①敬語の種類…尊敬・謙譲・丁寧。教科書などででてきたものから憶えていきましょう。
② 敬意の方向(誰から誰に)
誰から 地の文→作者から
会話文・手紙文→話し手から・書き手から
誰へ 尊敬語→動作主へ
謙譲語→行為の受け手へ
丁寧語→読み手・聞き手へ
③中納言が扇の骨を自慢して「これほどの骨は見たことがない」と言った言葉を即座にとらえて、「人が見たこともない骨ならくらげの骨なんでしょう」とやりこめる(こちらを)ようなしゃれ。(相手がまじめに自慢する言葉を奪って、にやっと笑ってやりこめる頓智。)
④一女房の身ででしゃばって中納言をやりこめるなんて、他から見たら苦々しく思うだろうと自省する気持ち。
問5 清少納言・随筆・平安時代中期・定子
中納言まゐり給ひて(枕草子)問題はこちらへ
【参考動画】はなとゆめ
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