「大鏡」とは
摂関政治(こちらを)の絶頂期を過ぎたころ、過去を振り返る動きが起こり、〈歴史物語〉(こちらを)という新しい文学ジャンルが産まれました。
それまで歴史は「日本書紀(こちらを)」のように漢文で書かれましたが、十一世紀中頃かなで「栄華物語(こちらを)」が書かれ、続いて、十二世紀に「大鏡」がかなで書かれました。
「栄花物語』は藤原道長賛美に終始していますが、「大鏡」は批判精神を交えながら、歴史の裏面まで迫る視点をも持ち、歴史物語の最高の傑作といえます。
中華の正史の形式紀伝体に倣って書かれています。二人の二百歳近くの老人とその妻、それに若侍という登場人物との、雲林院(うりんいん、うんりんいん。こちらを)の菩提講(ぼだいこう。こちらを)での会話を筆者が筆録しているというスタイルで書かれています。これも独創的な記述の仕方で、登場人物の言葉がその性格や場面に応じており、簡潔で躍動的、男性的な筆致と相まって、戯曲的効果を高めているものです。
「大鏡」は、約百九十年(語り手の世継の年齢とほぼ一致)の摂関政治の裏面史を批判的に描きだしていて、「枕草子」が正の世界を描いたのに対し、「大鏡」は負の世界を描いたともいえます。
鶯の悲しみ…
天皇の御殿の梅が枯れてしまったので、目利きの繁樹(しげき。この件の語り手)が主人の命で、都中を捜してある家の庭にある見事な梅を見出し移し植えた。その時、その家の女主人が「この手紙を木に結び付けてお持ちください」と言う。天皇がいぶかしく思ってその手紙を見てみると、梅の木を移し植えられることを戸惑い、悲しむ気持ちが詠まれた歌が記されていた。その女主人とは、あの和歌の巨匠紀貫之(きのつらゆき)のお嬢様であることが分かった。天皇はそれを見て照れくさそうになさっていた。繁樹はよくぞ見事な梅を捜しだして来たなと誉められたが、この一件は一生の恥と思っているーーーというお話。
この「大鏡」の作者は未詳でいろいろと推測されているようです。権力中枢やその周辺の人であることは間違いないのでは。藤原氏を中心とした権力闘争の実相を冷静に、しかも、いきいきと描きだしています。秀逸なストリー・テーラーだったようです。
鶯の宿(大鏡) 原文/現代語訳 こちらへ。
鶯の宿 問題解答(解説)
問1① え (一字の陳述の副詞は「な」と「え」の二語。文意が通る語。)
② 見分けがつくまい。 (「え」は後に打消・否定の語を伴って、~マイ・デキナイダロウの意。「じ」が打消推量の助動詞。「見分けることができないだろう」でも勿論可。)
問2 筆跡 (「文字」でも可。)
問3 解答例…平安前期の歌人。最初の勅撰和歌集「古今集」編纂の中心的役割りを果たした。晩年の著「土佐日記」は日記文学の先駆をなすもの。「大鏡」が書かれた当時、尊崇の対象となる人であった。 (85字。まだの人、この際イン・プット。)
問4 解答例…かの有名な大歌人貫之の娘の家の梅の木とも知らずに掘り取ってしまい、風雅の心をもって愛玩珍重していた彼女を悲しませてしまったことを気の毒に思ったから。
(73字。梅の木を掘り取ったのが、最初の勅撰集「古今集」撰集の中心人物紀貫之の娘の家であった。どういう人物だと推察できるのか。また、「貫之の御娘」らしく、梅の木を召し上げられた気持ちを「勅なれば…」と歌に託していることにも着目。制限字数でどの程度の内容が求められているのか考えます。)
問5 解答例…理想的な梅の木を見つけて持ってきたことへのご褒美の意味を持つ。
(「かづけ物」といって、臣下への褒美として女の衣服を掛けてくれていた。ここでは直前「『思ふやうなる木持て参りたり』とて」に着目。)
問6(1)栄華物語
(2)今鏡 水鏡 増鏡
a.Q 解答(解説)
1. 解答例…お気に入りの梅の木を召し上げられて戸惑い悲しむ気持ち。
2. ①解答例…村上天皇が清涼殿の前庭の紅梅を探させたこと。
(どんな梅でもよいのではない。「色濃く咲きたる木の様体うつくしき」木を、若い者では見分けられないと考え、蔵人はとくに繁樹に命じて探させたのです。)
②解答例…家主(いえあるじ)の梅に結び付けさせた歌がすぐれていたこと。
(家の主である貫之の御娘は勅命(帝のおおせ)を尊んでいるものの、鶯の宿がなくなってかわいそうだと、いかにもこの場にふさわしい優雅な情緒でやんわりと抗議を申し上げているこの歌は、ほんとうにおもしろく優れている。)
③解答例…歌の主が紀貫之の娘だったこと。
(歌を見てただ者ではあるまいと尋ねさせなさった天皇のお心も優雅であるし、その主があの有名な歌人紀貫之の娘だったことで、「さすがに」と種明かしされた観があり、興趣深い。)
④解答例…天皇が後悔なさったこと。
(貫之の娘の庭の梅を掘り取り、歌で一本取られた天皇が、悪かったなときまり悪がっておられるところは親しみ深く、優雅で、風雅を解する帝として描かれています。)
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