A 本文を読解
本文に記号や数字など書き入れたりマークしながらすすめてみましょう
筆者自身が段落に分けています。
a(わたしたちにとって…)
b(身体は皮膚に…)
c(物質の塊としての…)
と、「筋トレ国語サイト」と同じように、各段落をa、b、cとして各段落の形式段落・第何文目にあたるのかを算用数字で示すことにします。教科書などの本文にも同じように、記号を書き入れたりマークして、読みすすめて下さいね。
鷲田さんの文章、読み取りがむずかしいといわれるのですが、以下の記事をしっかり読めば、腹に落ちるようになりますよ😄
◎ a わたしは身体を持つのか ? ◎
まず、「身体」についての常識が解体されます。
⇨ 「身体」と対照となるのは「こころ(魂・精神)」(a.1.3)ではなく、「物体(物質体)」(a.1.3)である。「深く感じること」を「身(=身体)に沁む」(a.1.3)(→「身(=身体)」が「こころ」と同義語のような言い方)などと言うように、「身体」と「こころ(魂・精神)」は二項対立的なものではないとして、「物体(物質体)」こそ「身体」とは対照となるものと考えられるとしているわけです(でも、ここで深入りしないで)。
「身体」と対照になるのは、「精神」ではなく「物体」だ。🤔
「たとえば」(a.3.1)以降に、「物体(物質体)」とは対照的な「身体というものの固有なあり方」(a.1.3)の具体例が挙げられていきます。
●1/3「身体」の、正常なときとそうでないときのあり方の違い
類似する表現や言い換えに着目する。
二項対立的観点に着目する。
〈正常に機能しているばあい〉(a.1.1) ⇨ ほとんど現れない(a.3.1) =意識されることはなく(a.3.2) =存在しないにひとしい(a.3.4) =素通りされる透明なもの(a.3.5) =消えている(a.3.5)
⇳ 二項対立 ⇳
〈疲れきっているとき、あるいは病の床にふしているとき〉(a.3.6) ⇨ 不透明なもの(a.3.6) =はれぼったい厚みをもったもの(a.3.6) =壁のように立ちはだかる( a.3.9) =よそよそしい異物として迫ってきさえする( a.3.10)
⇒身体は透明なもの(a.3.5=意識されないもの)であったり不透明なもの(a.3.6=意識せざるを得ないもの)であったりと奇妙な現れ方(a.3.1)をする。😶
●2/3わたしは「身体」を持つのか、わたしは「身体」なのか
類似する表現や言い換えに着目する。
二項対立的観点に着目する。
身体は、わたしたちが随意に使用しうる「器官」である(a.4.5) =「わたしは身体をもつ」(a.5.6)
⇳ 二項対立 ⇳
痛みの中にいるとき、それに抗(あらが)えない、(a.5.3)つまり、痛いのは身体(たとえば、おなかやすね)であるともいえるし、痛いのはわたしであるともいえ、身体とわたしは截然(せつぜん)としない=わたしは身体である(a.5.6)
⇒「わたしは身体を持つ」(a.5.6)といえる局面と「わたしは身体である」(a.5.6)という局面がある。😲
●3/3わたしと身体は乖離状態にあるか密着埋没にある
二項対立的観点に着目する。
「わたしは身体をもつ」(a.5.6)とは「(わたしと身体の関係は)対立や齟齬といった乖離状態にある」(a.5.7)と言える。たとえば、「わたし」がおでこ(身体)を両ひざ(身体)につけようとするができないようなこと。
⇳ 二項対立 ⇳
「わたしは身体である」(a.5.6)とは、例えば痛いのは身体なのかわたしなのか、疲れているのは身体なのかわたしなのか截然(せつぜん)とできないなど、つまり、「一方が他方に密着したり埋没したりする」(a.5.7)といえる。
⇒「わたしは身体をもつ」(a.5.6)と言うのかぴったりする局面と、「わたしは身体である」(a.5.6)と言うのがふさわしい局面が截然としているように、身体は極端に可塑的ものである(a.5.7)らしい(a.5.7)(→「可塑的なもの」とは、状況によって形を変えることを比ゆ的に表現)。😆
◎ b 身体は皮膚に包まれた肉の塊(かたまり)ではないのか ? ◎
身体観の常識が解体されます。
身体は皮膚に包まれた肉の塊ではない。
身体を空間的にも時間的にも限定するのは錯誤。
それでは、どういうものか ?
① 身体は皮膚を超えて伸びたり縮んだりするもの【空間】(b.1.13)🤔
・皮膚が接触するものの先端(杖の先、靴底)まで拡張する。(b.1.3)
・わたしのテリトリー(私的な領域だとみている空間)まで拡張する。(b.1.8)
・わたしが実際には見ていない空間(テレビ中継の映像内)まで拡張する。(b.1.11)
② 身体は時間的な現象(b.2.1)
・身体は絶えず変化している。(b.2.2)
・身体は記憶する。(b.2.5)
⇒ ①②より、身体を現在や物質の占める空間に限定するのは、身体の実態をとらえていない抽象的な考え方だ。(b.2.9)😠
◎ c 身体はどこにあるのか ? ◎
「身体」の実体は幻影のようにとらえがたい ?!
① 物質体としての身体は不完全にしか知覚できない(c.1.1)
・身体の表面は一部のみ見ることができる(c.1.1)。
・身体の内部はじかに知覚できない。(c.1.3)
・顔は「わたし」を代表してくれるものだが、自分自身ではじかに見ることができない。(c.1.5)(→鏡や写真で見られるじゃないか ! but 鏡像や無数のドットで印刷されたインクは「じかに」では全くない。)
⇒誰よりわかっているはずの自分の身体を、実はじかに知覚したり制御できないのだ。(c.1.7)(怖いと言えば怖い !)😖
② 身体は不完全にしか知覚できないことへの対応策
・鏡で見て視覚的に修正を試みたり確認したりする。(c.2.2)
・風呂やシャワーや日光浴で見えない部分を触覚的に確認しようとする。(c.2.3)
・衣服によって触覚的に補強しようとする。(c.2.6)
③ わたしにとって身体とは(知覚される物質体ではなく)想像される像である。
⇒じぶんの身体はじぶんから遠く隔てられている。(c.4.1)つまり、じぶんの身体は「像」としてしか把握できない、不確かでとりとめもなく、とらえがたいものである。😅
B 独特な論理の展開のしかたを理解しよう
身体と対照になるのは精神ではなく物体である
↓
身体はほとんど意識されない透明なものであったり、前に立ちはだかったりと奇妙な現れ方(a.3.1)をする。
↓
「わたしは身体を持つ」といえる局面と「わたしは身体である」という局面があるというように、身体は極端に可塑的ものであるらしい。
↓
身体は伸びたり縮んだりするし、記憶したり変化するものだ。
↓
身体は像やイメージとしてしか捉えられない不確かなものだ
鷲田清一さんは、「序論・本論・結論」とか「起・承・展・結」のようにして「結論」に導いていくタイプの文章ではなく、いったん結論づけたことを敷衍(ふえん)しながら、さらに次の結論へ、さらに次の結論へ…と動的・階層的に論を組み立てていく独特な論理の展開のしかたをする哲学者と言えます。とりあえずの結論、それから言える結論、さらに次の結論と組み立てていかれます。上述Bが、各結論が階層的に組み立てられているととらえていいもの。
この文章では、上述Bの各結論が十分インパクトのある結論と言えます。ここでは、最後にまとめた『じぶんの身体はじぶんから遠く隔てられている。じぶんの身体は「像」としてしか把握できない、不確かでとりとめもなく、とらえがたいものである。』がとりあえずの最終結論ととらえておいていいでしょう。
「脱構築」(仏: deconstruction 英:deconstruction)のパラダイムから強い影響を受けているようです。このようなタイプの文章の読み取り方をインプットしておきましょう。😄
「評論~💪筋トレ国語式💪勉強法」はこちらを
C【参考】脱構築とは(こちらを)
※本文は、鷲田清一「普通を誰も教えてくれない」に収められているもの。1999年の東京大学入試(前期)で出題されているんだけど、「現代文最新蛍光LABO 斎藤隆」というブログで解説してありますので、リンクしてみてください。
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身体、この遠きもの 問題解答(解説)
問1 自由にすることができない
(次文に、同義となる「随意に使用しうる」が、対義となる「自由にすることができない」とある。)
問2 解答例…ある局面では自分の意のままに使用できるが、ある局面ではじぶんの自由にならないという不思議なあり方。
問3 解答例…身体は変化したり記憶したりする時間的な現象であり、かつ、その皮膚を超えて伸びたり縮んだりするものである。(43字)
問4 解答例…他人がわたしと認めてくれるそのじぶんの顔をじぶんでじかに見ることはできず、他人の反応を介して想像ないしは解釈するしかないものだから。
(直前の2文をまとめることになります。)
問5 解答例…じぶんの身体のプロポーションが基準にかなっているか、顔がおかしくないか、色はどうか、髪は薄くないかなどと、わたしたちは容貌に悩むことがよくあること。
(あるいは、「身体の外見を過剰なくらいに飾ることもあること」。あるいは、「ある固定観念に金縛りになって、なかなか抜けだせないこともあること」でも可、字数による。「ぎくしゃくと」とは、スムーズにいかないさま。ここでは、直前の段落に「わたしと身体との関係が、わたしが抱く身体のイメージや観念を通して、「もつれたりかたよったり、硬直したりする」ともあり、この段落に着目して、具体例を見るのが適当。)
a.Q
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