児のそら寝(『宇治拾遺物語』第十二話) もっと深くへ !

    「児のそら寝」、こんな読み方も…

  ぼたもちが食べられる、でも、いやしいと思われたくなくて出来上がる前に寝入ったふりをしていた。出来上がったので僧が稚児を起こすが返事をしたら狸(たぬき)寝入りしていたのがばれてしまう。結局、我慢ができず間の抜けたようなタイミングで返事をした。僧たちはそのあどけないおかしさにみな笑った。

 

  「児(=稚児)」とは寺院などに召し使われていた少年のこと。実は、僧たちの男色(男性の同性愛。古来、「少年愛」(こちらを)という言葉があるように世界中に存在した文化)の対象でもあり、美少年が好まれ、また、「児(=稚児)」たちは、僧たちの好みにそうよう、優雅に魅力的に振舞うことが期待されていた。

 「お稚児趣味」こちらを)という言い方もあります。現在の先進国ではノーマルなことではないとされています。

 

  

 「かいもちひ」=ぼたもち。ぼたもちなんか何がいいの…?という感覚ではこのお話の世界に入っていけません。乏しい食糧事情の時代、めったに口にできない、しかも嗜好的な食べ物

 「棚からぼたもち」て慣用表現があるくらいで、「ぼたもち」が「幸運」の比喩としても使われてもいます。

 この稚児たちは食べ盛りなのに、質素な食事のため常にひもじがってたという。「ひもじがる」なんて言葉、現在の日本ではほんとの意味では実感できなくて死語に等しいけど。
 でも、ほんとは「かいもちひ」て何か分からいないのです。でも日常的には口にできない嗜好的な食べ物であると理解していてよいと思います。

  


 上品・優雅に振舞い、僧たちにとって魅力的な稚児だけど、かいもちひが食べたいけど、いやしいとと思われたくなくてやせ我慢をしていたことに僧たちは気づいておかしく思った。つまり、稚児の地金が露見したのを見て、僧たちが失笑したお話になります。

 笑いの質は、ほほえましい、かわいい、いじらしいとはちょっと違ってくる。同種のお話、ほかにも書き残されています。

 

 古典を読み理解する際、作品が物語ろうとしていることに謙虚に耳を澄まして聞き取ろうとすることが大切。そのためには、21世紀のこの日本に生きている自分を絶対視しない、言いかえると、現代の常識や価値観から一旦離れ、過去の人々の生活・行事・制度・文化・嗜好・感覚・思考法などを知り、受け入れ、その世界を追体験することが大切なんです。古典を解説して、昔の人も現代のわれわれと変わらないなどと解釈する人もいるけど、異質な人間・社会・価値観を知り認めることが、むしろ心や感覚や思考を豊かにすることであり、古典を読む意味じゃないかなと思ったりします。

ちごのそらね
現代語訳付き!

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児のそら寝 問題解答(解説)

問1 a…手持ち無沙汰退屈。することがなく時間をもてあますさま。)  b…わいわい騒ぐ  c…返答する返事する)  d…我慢する  e…情けない。がっかりだ

問2①…作りあげるのを待って寝ないでいるのも、「かいもちひ」食べたさに寝るべき時間に寝ないいやしい子だと思われたら、はしたないにちがいない(←子供は早い時間は寝ることになっているよね。「わろし」は”よくない”が辞書上の意味で、美醜・善悪・作法・価値などに関して好ましくない場合に用いられる語だよ。イマイチかなー、とか。好ましい順番は、【よしよろしわろしあし】ということも余裕があったら覚えてね。)

  ②…きっと起こそうとするだろう(←さだめて=きっと、おどろかす=起こす、むず=~〈し〉よう、らむ=だろう)

  ④…お起こし申しあげるな(←「」はおだやかな禁止の言い方。…スルナ、シテクレルナ。「な起こしそ」は「起こすな」よりも、起こさないでおこうよ、て感じ。テストで口語訳問題として必ず出題される。たてまつる=〈謙譲の補助動詞〉。現代語の「~(し)申し上げる」、「お~いたす」にあたる。)


問3 (い)(←「申し」のオウはオーと読む、現代語と同じ。「さぶらは」の「は」について、「は・ひ・ふ・へ・ほ」は文頭以外は「ワ・イ・ウ・エ・オ」と読む。例外もあるけど、歴史的仮名遣いについては教科書や文法テキストでもう一度確認ね。)


a.Q 例解

 児が間の抜けた時分に返事をしたから。(18字。児が体裁をつくろってやせがまんしていたことが露見して、僧たちにはおかしかったわけです。)

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