須磨の秋(源氏物語 須磨の巻)もっと深くへ!

 『源氏物語』とは

 源氏物語は、今から1000年余前(平安時代中期)、藤原道長の娘である中宮彰子(しょうし)に仕える紫式部によって書かれた。先行する伝記物語(「竹取物語」など)・歌物語(「伊勢物語」など)・日記文学(「蜻蛉日記」など)の表現史的蓄積の上に、このような高度な表現を達成することができたといわれる物語文学。

 四代の帝(みかど)の七十四年間にわたって、五百名にものぼる登場人物を見事に描き分けて壮麗な虚構の世界を展開。


 須磨における源氏 

 《父桐壺帝がおかくれになったあと、政界は右大臣方が権勢をふるうこととなりました。源氏の君は、何かと圧迫を受け、宮廷には出仕しない身となったのです。しかも、流罪の罪をきせられるうわさも流れたので、先手を打って、自発的に以前荘園のあった須磨に退去したのでした。そこは、人里離れ、海士(あま)の家さえほとんど目にしないような辺鄙な海辺近くの地でした。》

 

 左遷されたり配流されたりした悲劇の人、菅原道真、在原行平、源高明、白居易などを念頭に置きながら書かれており、読者もそれらの人と源氏の君の境遇と心持を重ねながら読んでいたと思われます。以下のようなプロットでとらえられます。

1.わびしい須磨の秋の夜、源氏の君は、眠れぬままに気分を紛らわそうと琴(きん)をお弾きになるが、その音(ね)はいっそうものさびしく聞こえきて、都に残してきた方々を思う歌を口ずさみになりました。そういうご様子は、ここまでついてきた家来たちを悲しませるのでした。

 2. 家来たちの悲しむのをお悟りになって、それからは、冗談をおっしゃったり絵を描いたりして、気をお紛らわしになる。そのお描きになった絵の見事さに、家来たちは辛い気持ちを忘れてしまう。このように君臣一体となって苦難に耐えていたのでした。

 3. ある夕暮れ、海を眺めていらっしゃる源氏の君の美しさは、この世の人とは思えない。遠くから聞こえてくる舟歌や雁の声にいっそう悲しみがそそられるのでした。

 4.源氏の君と家来たちは〈雁〉を題材にして歌を詠み交わし、心を一体にして苦難に耐えたのでした。

 5.今夜は十五夜、源氏の君は、京にいらっしゃる紫の上や藤壺の君のことが思われなさっ、がまんできずしゃくりあげてお泣きになった。兄君(朱雀院)のことは、この須磨に退去した境遇を思うとなつかしくもあり恨めしくもお思いになるのでありました。

 

 このように概略を書いても、本文の味わい・魅力は99パーセント伝えられません。やはり、注を見ながらでも本文を味読するのが一番。何度か繰り返して読めば、そんなに難しい個所ではありません。

 


表現上の注目点

  次のような点にも着目していいでしょう。

・ 古人の歌や漢詩などの引用(本説取り)によって、複雑でしみじみとして深い味わいを感じさせている。

・ 〈未明の時→昼間→夕暮れ→月夜〉という時間構成を意識し、各時間帯にふさわしい話題としている。

・ 夕暮れの場面、複数で詠み交わす歌(唱和歌)は、思いつくままに詠まれているのではなく、〈雁〉=〈旅をする鳥/列(つら)をなして飛ぶ鳥/常世を故郷とする鳥〉という歌の約束事を前提にして詠まれていますそして、それぞれの歌が端的には何をいわんとしているのかというと、

 

 源氏の君…都に残してきた人も泣いていることだろう。

       ↑

   初雁は恋しき人のつらなれや旅の空飛ぶ声の悲しき


 良清…都にいたころがなつかしい

       ↑

   かきつらね昔のことぞ思ほゆる雁はその世の友ならねども


 民部大輔…自分の意志で都を離れるなんて思いもしなかった。

       ↑

   心から常世を捨てて鳴く雁を雲のよそにも思ひけるかな


 前の右近の丞…仲間のおかげで心強くいられる。

       ↑

   常世出でて旅の空なるかりがねもつらにおくれぬほどぞ慰む


ということになると思います。詠歌の作法に従って詠み交わすことによって、気持ちを共有し強く結ばれ、辛苦に耐える姿が描かれています

  

  平安時代は大きくは古代。でも、「源氏物語」のこの個所だけを読んでみても、同じく古代に書かれた「万葉集」や「竹取物語」とは質を異にするとが実感されるでしょう。平安時代が特に中古と呼ばれる理由の一つが分かるような気がします。

 

 本文をゆっくりと、しかも、音読してみてはいかがですか。

  

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 須磨の秋 1/2  問題 解答(解説) 

問1 (1)奉る(「奉る」は、与える・贈るの謙譲語で差シ上ゲルの意だが、飲む・食う・着るの尊敬語としても使われ、召シ上ガル・オ召シニナルの意。)          (2)忍ばれで(2段の終わり。)

問2 aいろいろと物思いをすること 庭の植え込み 草木を植えた庭園

問3 i都 おまえ のうし(hは「なおし」も○。)

問4 【    】  d【   】  e【    】  f【    】
(「うつくうし」はかわいく、「めでとう」はすばらしく、「あいなう」はわけもなく、「またなく」はまたとなく、「すごう」はものさびしくの意。前後の文意から考える。)

問5 解答例…源氏の君が)須磨の磯の風景などを他に比べるものがないほどすばらしくお書きになっているので
(光源氏が墨で描いた絵が見事なので、名絵師に彩色させたいと思う。光源氏は落胆している臣下たちの心を慰めようとし臣下はそんな光源氏を讃える、君臣一体となって苦難に耐えようとしている場面の一節。)

問6 平安 紫式部 彰子 藤原道長

 須磨の秋 1/2  a.Q 

 1 解答例…自分のために家族から離れ漂泊している従者たちを思いやり、冗談を言ったり、絵を描いて慰めようとする光源氏のようすを目にして、従者たちは感謝と親しみを抱いていたから。

(この場面は、君臣が心を一つにして困難に耐えようとしている場面として描かれています。)

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須磨の秋 2/2  問題 解答(解説)

問1a……せんざい・庭の植え込み草木を植えた庭園
  b……たてまつ・お召しになる

問2c……のうしなおし
  d……かじ

問3e……)(「ふるさと」は、旧都/生まれ故郷/以前住んでいた土地・古いなじみの土地の意。ここでは、源氏たちが住んでいた都。)
  f……ところどころあの方やこの方の意。)

問4 (「次から次へと」という意味の「かきつらね」と、その)「つらね」が「雁」の縁語となっている。

問5 つれなきさまにしあるく(辛い気持ちを見せないように平気なようすに振舞っている、の意。)

問6 心の底ではいろいろと思い悩んでいるに違いないようだが (「」は心の中、「思いひくだく」はさまざまに思い乱れるの意。)

問7④……
  ⑤……

問8 平安 紫式部 彰子 藤原道長

須磨の秋 2/2 問題 a.Q

 1 「つらね」(または、「つら=列」)と「雁」が縁語となっている。

 2    解答例…自分がまさか自分からすすんで都を捨てて漂泊することになるなんて思いもしなかったということ。      

 3    「めぐりあふ」は、月が一定の周期で回る意と、再会するの意の掛詞。「月の都」は京の都の比喩。

「めぐりあふ」と「月」が縁語、「はるかなれ」は遥か遠いの(空間的)意と、遥か先の(時間的)意の掛詞ともとらえられる。)

  4  解答例1…須磨に来なければならないようにしてしまった主上は恨めしいけれど、主上からいただいたお召し物に昔を思うと、かたじけなくて恋しいことだという心情。

  解答例2…須磨で心細く暮らさなければならなくなった境遇を辛く思いながら、一方、「上」の温情を忘れることなくなつかしく思う心情。)   

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