小野の雪(伊勢物語)もっと深くへ !


伊勢物語「小野の雪」朗読|原文・現代語訳
(「小野の雪」は0:57から)

「伊勢物語」への道

 現在、私たちが小説や評論とよんでいるものが、昔から存在していたわけではない事情は、『かぐや姫のおいたち(竹取物語)~わが国で最も古い物語の誕生』で少し詳しく書きました(こちらを)。


 平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情表現や情景描写の文字表現ができるようになっていったのです。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。

 文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした作り物語(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した歌物語伊勢物語)の二つが成立したとされています。


「伊勢物語」の主人公は業平

 「伊勢物語」は現在残っている最古の歌物語です。初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々しく抒情的な文章で書かれています。

 初め在原業平の家集を母体として原型ができ、その後増補を重ねて、今日の形になったようです。

 在原業平になぞえられる主人公「昔男(むかしおとこ)」の生涯が、一代記風にまとめられています。高貴な出自で、容貌美しく、色好みの評判高く、歌の才能に恵まれた人物の元服から死までのエピソード集です。ただし、業平とは考えられない男性が主人公の段もあります。



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惟喬親王の境遇

 父・文徳天皇は皇太子として第四皇子・惟仁親王(これひとしんのう。後の清和天皇)を立てた後、第一皇子の惟喬親王(これたかしんのう)にも惟仁親王が成人に達するまで皇位を継承させようとしたが、藤原良房(よしふさ)の反対を危惧した源信(げんしん=こちらを)の諫言により実現できなかったといわれている。

 これは、惟喬親王の母が紀氏の出身で後ろ盾が弱く、一方惟仁親王の母が良房の娘・明子であったことによるものとされる。また、惟仁の成人後に惟喬が皇位を譲ったとしても、双方の子孫による両統迭立の可能性が生じ、奇しくも文徳天皇が立太子する契機となった承和の変の再来を危惧したとも考えられる。


 つまり、藤原氏による栄華の独占母方紀氏(きし)の勢力衰退によって即位がかなわなかったということになります。惟喬親王(これたかのみこ)の父は文徳天皇でやんごとなき方であり、本文で「馬頭(うまのかみ)のおきな」と書かれている在原業平(ありはらのなりひら)も祖父は平城天皇であり高貴な出自です。



主従関係を越えた心のつながり

 前半では、惟喬親王とみられる親王(みこ)は、「狩り」から京の本邸まで送った在原業平とみられる馬の頭(かみ)をなかなか帰してくださらず、「大御酒(おおみき)たまひ、禄(ろく)たまはむ」として、少しでもそばにいさせようとなさる。親王(みこ)の馬の頭(かみ)に対する愛着の深さが語られている。

 後半、親王(みこ)は思いがけなく出家なさってしまった。藤原氏の威力によって在俗の身でいられなかったことがほのめかされている。時は正月、都では優雅な儀式や行事に華やいだ気分があふれている。親王(みこ)は第一皇子であり、本来ならばそのはなやぎの中心にいらっしゃるはずの方である。それが、こんな山里の深い雪の中に孤独な境遇で暮らしていらっしゃる。変転極まりない人生の悲哀や、藤原氏に栄華を独占される世の矛盾への慨嘆(がいたん)が、「忘れては夢かとぞ思ふ」歌にこめられている。

 親王(みこ)馬の頭(かみ)を大切に思い頼りにもし、馬の頭に忠節で大切に思い申し上げるという主従関係以上の心の深いところでつながっている

 他の段とは違った味わいの段と言える。

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【参考動画】超訳マンガ百人一首物語

第十七首 在原業平朝臣



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小野の雪 問題解答(解説)

問1 おおみき

(元は、神や天皇に差し上げる酒のこと。)

問2 とくいなむ

   早く帰ろう

(「往ぬ」は、行ってしまう・去るの意のナ変動詞。ここでは、惟喬の親王のもとから退出しようということになります。)

問3① 惟喬の親王が帝位につくこと。

(親王とは天皇の子で、天皇の位につく資格を持っている。惟喬の親王は第一皇子であった。この段は、よんどころない事情〈=藤原氏の圧迫により〉で帝位につくどころか、〈身の安全のため〉出家したという事情を思い浮かべつつ読まれてきたといえます。華やかな春の宴から一転して、寒々とした雪深い小野の里への場面転換が巧み。)

  ② 出家

問4a( 聞こゆ )  b( 言ふ )  c( 謙譲 )  d( 申し上げる )  e( 作者 )  f( 惟喬の親王 )

敬意の方向については、地の文なので『作者から』、謙譲語は行為の受け手に敬意を表すので『惟喬の親王に』と考えます。)

問5 そのままおそばにお仕え申しあげたいものだなあ

(「さても」は副詞、そのままでもの意。「候ふ」は、「仕ふ」の謙譲語。「てしがな」は、自己の願望を表す終助詞、…タイモノダ。ここでは、このまま惟喬の親王のおそばにいて、み心を慰めてさしあげたいことよと思ったということ。)

問6 ニ ホ ハ イ ロ(3句と4・5句は倒置されている。)

a.Q

1 秋の夜長と違い、春の夜は短いので寝るのを惜しんで春の一夜を過ごすと理解した。

(馬の頭が早く帰りたいという意で春の短夜を詠んだ歌であるが、短か夜を惜しむものと解して夜明けまで付き合わせた。)

2 時は弥生

  前半は華やかな春の宴の場面、歌の背景ともなっている。後半は一転して、寒々とした雪深い小野の里。巧みな対照となっている。

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