明石の君とのめぐりあい(『源氏物語』明石の巻②)もっと深くへ !

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「明石の君とのめぐりあい 1/2(源氏物語 明石の巻)」の原文/現代語訳こちら

明石の君とのめぐりあい 1/2(源氏物語 明石の巻)

【あらまし】 初夏の一夜、明石の入道は源氏に問わず語りに語る。自分はこんな地方に暮らしているが、娘を都の高貴な方に差し上げたいと長年住吉の神にお祈りしてきた、と。源氏は、須磨に流離してきたのは明石の君と結ばせようとする神のおぼしめしではないかと言う。源氏は、無実の罪でこんな地方に流謫されたのには訳があるのだと言ってうれしく思う。入道は、娘は結婚を望んでいることを、源氏も結婚を望むという内容の贈答歌を交わした。

【與謝野晶子訳】「明石の君とのめぐりあい 1/2」 (青空文庫より)

 夜がふけて浜の風が涼しくなった。落ちようとする月が明るくなって、また静かな時に、入道は過去から現在までの身の上話をしだした。明石へ来たころに苦労のあったこと、出家を遂げた経路などを語る。娘のことも問わず語りにする。源氏はおかしくもあるが、さすがに身にしむ節《ふし》もあるのであった。

「申し上げにくいことではございますが、あなた様が思いがけなくこの土地へ、仮にもせよ移っておいでになることになりましたのは、もしかいたしますと、長年の間老いた法師がお祈りいたしております神や仏が憐《あわれ》みを一家におかけくださいまして、それでしばらくこの僻地《へきち》へあなた様がおいでになったのではないかと思われます。その理由は住吉の神をお頼み申すことになりまして十八年になるのでございます。女の子の小さい時から私は特別なお願いを起こしまして、毎年の春秋に子供を住吉へ参詣《さんけい》させることにいたしております。また昼夜に六回の仏前のお勤めをいたしますのにも自分の極楽往生はさしおいて私はただこの子によい配偶者を与えたまえと祈っております。私自身は前生の因縁が悪くて、こんな地方人に成り下がっておりましても、親は大臣にもなった人でございます。自分はこの地位に甘んじていましても子はまたこれに準じたほどの者にしかなれませんでは、孫、曾孫《そうそん》の末は何になることであろうと悲しんでおりましたが、この娘は小さい時から親に希望を持たせてくれました。どうかして京の貴人に娶《めと》っていただきたいと思います心から、私どもと同じ階級の者の間に反感を買い、敵を作りましたし、つらい目にもあわされましたが、私はそんなことを何とも思っておりません。命のある限りは微力でも親が保護をしよう、結婚をさせないままで親が死ねば海へでも身を投げてしまえと私は遺言がしてございます」

 などと書き尽くせないほどのことを泣く泣く言うのであった。源氏も涙ぐみながら聞いていた。

 「冤罪《えんざい》のために、思いも寄らぬ国へ漂泊《さまよ》って来ていますことを、前生に犯したどんな罪によってであるかとわからなく思っておりましたが、今晩のお話で考え合わせますと、深い因縁によってのことだったとはじめて気がつかれます。なぜ明瞭にわかっておいでになったあなたが早く言ってくださらなかったのでしょう。京を出ました時から私はもう無常の世が悲しくて、信仰のこと以外には何も思わずに時を送っていましたが、いつかそれが習慣になって、若い男らしい望みも何もなくなっておりました。今お話のようなお嬢さんのいられるということだけは聞いていましたが、罪人にされている私を不吉にお思いになるだろうと思いまして希望もかけなかったのですが、それではお許しくださるのですね、心細い独《ひと》り住みの心が慰められることでしょう」

 などと源氏の言ってくれるのを入道は非常に喜んでいた。

ひとり寝は君も知りぬやつれづれと思ひあかしのうら寂しさを

 私はまた長い間口へ出してお願いすることができませんで悶々《もんもん》としておりました」

 こう言うのに身は慄《ふる》わせているが、さすがに上品なところはあった。

「寂しいと言ってもあなたはもう法師生活に慣れていらっしゃるのですから」

 それから、

  旅衣うら悲しさにあかしかね草の枕は夢も結ばず

  戯談《じょうだん》まじりに言う、源氏にはまた平生入道の知らない愛嬌《あいきょう》が見えた。入道はなおいろいろと娘について言っていたが、読者はうるさいであろうから省いておく。まちがって書けばいっそう非常識な入道に見えるであろうから。

 「明石の君とのめぐりあい 1/2(源氏物語 明石の巻)」の原文/現代語訳こちら


「かおり&やすらぎ」


「明石の君とのめぐりあい 2/2(源氏物語 明石の巻)」の原文/現代語訳こちら

明石の君とのめぐりあい 2/2(源氏物語 明石の巻)

【あらまし】 源氏は、明石の君の住む岡辺に、そちらを訪問したいという文を贈った。そこに居合わせた父入道はとても喜んだが、明石の君は返事を書こうとしないので、代わりに入道が娘もあなたを思っていると返事を書いた。翌日また、源氏は早く会いたいという文を贈ると、明石の君は、あなたの心は疑わしいという返事を書いた。以前家来の良清が明石の君を自分の女のように言っていたのは腹立たしいが、源氏が自分のものにしてしまったら良清が気の毒だが、明石の君の方から近づいたのだと言い訳しようと思った。都の紫の上のことが気がかりだが、こちらへ呼び寄せるなどはできない。

2/2【與謝野晶子訳】(青空文庫より)

 やっと思いがかなった気がして、涼しい心に入道はなっていた。その翌日の昼ごろに源氏は山手の家へ手紙を持たせてやることにした。ある見識をもつ娘らしい、かえってこんなところに意外なすぐれた女がいるのかもしれないからと思って、心づかいをしながら手紙を書いた。朝鮮紙の胡桃《くるみ》色のものへきれいな字で書いた。

遠近《をちこち》もしらぬ雲井に眺《なが》めわびかすめし宿の梢《こずゑ》をぞとふ

思うには。(思ふには忍ぶることぞ負けにける色に出《い》でじと思ひしものを)

  こんなものであったようである。人知れずこの音信を待つために山手の家へ来ていた入道は、予期どおりに送られた手紙の使いを大騒ぎしてもてなした。娘は返事を容易に書かなかった。娘の居間へはいって行って勧めても娘は父の言葉を聞き入れない。返事を書くのを恥ずかしくきまり悪く思われるのといっしょに、源氏の身分、自己の身分の比較される悲しみを心に持って、気分が悪いと言って横になってしまった。これ以上勧められなくなって入道は自身で返事を書いた。

もったいないお手紙を得ましたことで、過分な幸福をどう処置してよいかわからぬふうでございます。

それをこんなふうに私は見るのでございます。

 眺むらん同じ雲井を眺むるは思ひも同じ思ひなるらん

だろうと私には思われます。柄にもない風流気を私の出しましたことをお許しください。

  とあった。檀紙に古風ではあるが書き方に一つの風格のある字で書かれてあった。なるほど風流気を出したものであると源氏は入道を思い、返事を書かぬ娘には軽い反感が起こった。使いはたいした贈り物を得て来たのである。翌日また源氏は書いた。

代筆のお返事などは必要がありません。

 と書いて、

 いぶせくも心に物を思ふかなやよやいかにと問ふ人もなみ

 言うことを許されないのですから。

 今度のは柔らかい薄様《うすよう》へはなやかに書いてやった。若い女がこれを不感覚に見てしまったと思われるのは残念であるが、その人は尊敬してもつりあわぬ女であることを痛切に覚える自分を、さも相手らしく認めて手紙の送られることに涙ぐまれて返事を書く気に娘はならないのを、入道に責められて、香のにおいの沁《し》んだ紫の紙に、字を濃く淡《うす》くして紛らすようにして娘は書いた。

思ふらん心のほどややよいかにまだ見ぬ人の聞きか悩まん

 手も書き方も京の貴女《きじょ》にあまり劣らないほど上手《じょうず》であった。こんな女の手紙を見ていると京の生活が思い出されて源氏の心は楽しかったが、続いて毎日手紙をやることも人目がうるさかったから、二、三日置きくらいに、寂しい夕方とか、物哀れな気のする夜明けとかに書いてはそっと送っていた。あちらからも返事は来た。相手をするに不足のない思い上がった娘であることがわかってきて、源氏の心は自然|惹《ひ》かれていくのであるが、良清《よしきよ》が自身の縄張《なわば》りの中であるように言っていた女であったから、今眼前横取りする形になることは彼にかわいそうであるとなお躊躇《ちゅうちょ》はされた。あちらから積極的な態度をとってくれば良清への責任も少なくなるわけであるからと、そんなことも源氏は期待していたが女のほうは貴女と言われる階級の女以上に思い上がった性質であったから、自分を卑しくして源氏に接近しようなどとは夢にも思わないのである。結局どちらが負けるかわからない。何ほども遠くなってはいないのであるが、ともかくも須磨の関が中にあることになってからは、京の女王がいっそう恋しくて、どうすればいいことであろう、短期間の別れであるとも思って捨てて来たことが残念で、そっとここへ迎えることを実現させてみようかと時々は思うのではあるが、しかしもうこの境遇に置かれていることも先の長いことと思われない今になって、世間体のよろしくないことはやはり忍ぶほうがよいのであるとして、源氏はしいて恋しさをおさえていた。

 「明石の君とのめぐりあい 2/2(源氏物語 明石の巻)」の原文/現代語訳こちら



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須磨での天変 1/2(源氏物語 明石の巻) 問題

解答(解説)

問1 a長年 b幼い d仏道修行 e方法がない

   c完了(強意) ぬ 命令形


問2①来世往生のため仏道修行する

  ③極楽往生の願いを、それはそれとして

問3(1)高き本意 頼むところ

  (2)なんとかして都の高貴な人に差し上げたい(と結婚させたい)

問4 【解答例】縁談話があっても、断ってきたから

(ここでは、娘の結婚という文脈で考える。都の高貴な人と結婚させたいと願うことと対照となる現実。分相応の縁談があっても断ってきた。お高くとまっているという反発を受ける。)

問5 光源氏が流離しているのは、明石の入道の娘とむすばせようとする住吉の神の思し召しであること。


問6明石の入道が光源氏を娘の所に案内するつもりがおありになるのか

問7(1)⑧ 娘も結婚を望んでいる(10字。娘は寂しいひとり寝をしているということは、何を言おうとするものか?)

  (2)⑩ 私も結婚を望んでいる(10字。私は旅寝が寂しくて寝付けないと言うことは?)

「あかし」に「明石」と「思ひ明かし」とを、「うら」に「浦」と「うら(心)」との掛詞。(初句・二句と三・四・五句が倒置。)

  ⑩「旅ごろも」は「うら」を導く序詞、「ころも」と「うら(裏)」は縁語。「あかし」は「明石」と「明かし」の掛詞。

問8 「思ひたまへわたる」の「たまへ」は謙譲の補助動詞、明石の入道のへりくだる気持ちを表す言い方。「推しはからせたまへ」の「たまへ」は尊敬の補助動詞、明石の入道が光源氏に敬意を表す。

(「思ひたまへわたる」の「たまへ」は連用形、連用形が「たまへ」となる「給ふ」は下二段活用なので謙譲の補助動詞。「推しはからせたまへ」の「たまへ」は命令形、命令形が「たまへ」なるのは四段活用だから尊敬の「給ふ」。)

問9 平安 紫式部 彰子 藤原道長


須磨での天変 1/2(源氏物語 明石の巻) 問題


須磨での天変 2/2(源氏物語 明石の巻) 問題

解答(解説)

問1 a立派だ(こちらが恥ずかしくなるほど優れているということ。)   bなんとも言えないほどすばらしい(副詞「え」とラ行四段活用「なる」の未然形「なら」、そして打消の助動詞「ず」の終止形「ず」が一語になったもの。)   cほのめかす   dきまりが悪い はずかしい   e筆跡


問2 【解答例】給ふる 「見る」に謙譲の補助動詞「給ふ」が続いたもの。へりくだった言い方となり、明石の入道が光源氏に敬意を表す。

(文意から【解答例】のように考えられる。「給ふ」は下二段活用で謙譲の補助動詞で、会話・手紙で使われ、「思ふ」「見る」などの限られた語に続く。ここでは「なむ」の結びで連体形。)

問3 じょうず いかにも貴人らしく見える

問4【解答例】

  ①源氏の御身分と自分の身分とを思うと、この上もなく違いすぎて

  ③若い娘が感嘆しないとしたら、それはあまりに内気すぎるというものであろう

  ④(こちらが)じれったくなるように対応申し上げたので

  ⑤流謫(るたく)の地へこっそり妻を呼び寄せるなど、みっともないことを

問5 【解答例】 明石の入道の、光源氏が娘を訪れたいと言ってきてくれたことへの、この上もなく喜ぶ気持ち。

問6 A…   B…   C…   D…

は、旅先で入道が結婚させたいとほのめかした娘の住まいを訪問するという意味。あなたを思う心に負けてしまいましたという古今歌「思ふには」の引き歌を添えている。は、男女がお互いを思って同じ空を眺めるというパターン。娘も同じ空を眺めている=源氏のことを思っているということになる。は、自分を気遣ってくれる人がいないので心が晴れないと言う。まだ「見ぬ人」に恋しいとは言いにくいという引き歌を添えて、逢いたいと言う気持ちを訴える。は、源氏の歌の「やよやいかに」をうけて「やよいかに」とし、引き歌の「まだ見ぬ人」を引用し、男の懸想に対してその気持ちを疑うというお約束のパターン。贈答歌・唱和歌の読み方に慣れておきましょう。)

問7 平安 紫式部 彰子 藤原道長

須磨での天変 2/2(源氏物語 明石の巻) 問題


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