藤壺の入内 (源氏物語②)~「光る君」、「輝く日の宮」と称えられる二人 part 1

  

『源氏物語』とは

 源氏物語は、今から1000年余前(平安時代中期)、藤原道長の娘である中宮彰子(しようし)に仕える紫式部によって書かれた。先行する伝記物語(「竹取物語」など)・歌物語(「伊勢物語」など)・日記文学(「蜻蛉日記」など)の表現史的蓄積の上に、このような高度な表現を達成することができたといわれる物語文学。世界史上初めて書かれた長編小説です。

 四代の帝(みかど)の七十四年間にわたって、五百名にものぼる登場人物を見事に描き分けて壮麗な虚構の世界が展開されます。


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【源氏物語朗読13】【桐壺】藤壺の入内【与謝野晶子訳】

【源氏物語】 作:紫式部 訳:与謝野晶子

藤壺の入内 原文

 年月に添へて、御息所の御ことを思し忘るる折なし。慰むやと、さるべき人びと参らせ給へど、なづらひに思さるるだにいとかたき世かなと、疎ましうのみ、よろづに思しなりぬるに、先帝の四の宮の、御容貌すぐれ給へる聞こえ高くおはします、母后世になく かしづき聞こえ給ふを、上に侍ふ典侍は、先帝の御時の人にて、かの宮にも親しう参り馴れたりければ、いはけなくおはしましし時より見奉り、今もほの見奉りて、『亡せ給ひにしに御息所の御容貌に似たまへる人を、三代の宮仕へに伝はりぬるに、え見奉りつけぬを、后の宮の姫宮こそ、いとようおぼえて生ひ出でさせ給へりけれ。ありがたき御容貌人になむ』と奏しけるに、まことにやと、御心とまりて、ねむごろに聞こえさせ給ひけり。

 母后、あな恐ろしや。春宮の女御のいとさがなくて、桐壺の更衣のあらはにはかなくもてなされにし例もゆゆしうと、思しつつみて、すがすがしうも思し立たざりけるほどに、后も亡せ給ひぬ。

 心細きさまにておはしますに、『ただ、わが女皇女たちの同じ列に思ひ聞こえむ』と、いとねむごろに聞こえさせ給ふ。侍ふ人びと、御後見たち、御兄の兵部卿の親王など、かく心細くておはしまさむよりは、内裏住みせさせ給ひて、御心も慰むべくなど思しなりて、参らせ奉り給へり。


 藤壺と聞こゆ。 げに、御容貌ありさま、あやしきまでぞおぼえ給へる。これは、人の御際まさりて、思ひなしめでたく、人もえおとしめ聞こえ給はねば、うけばりて飽かぬことなし。かれは、人の許し聞こえざりしに、御心ざしあやにくなりしぞかし。思し紛るとはなけれど、おのづから御心移ろひて、こよなう思し慰むやうなるも、あはれなるわざなりけり。



藤壺の入内 現代語訳

 年月がたっても帝は桐壼の更衣との死別の悲しみをお忘れになることができなかった。慰み になるかと思召して美しい評判のある人などを後宮へ召されることもあったが、結果はこの世界には故更衣の美に準ずるだけの人もないのであるという失望をお味わいになっただけである。 そうしたころ、先帝-帝の従兄あるいは叔父君-の第四の内親王でお美しいことをだれも 言う方で、母君のお后が大事にしておいでになる方のことを、帝のおそばに奉仕している典 侍は先帝の宮廷にいた人で、后の宮へも親しく出入りしていて、内親王の御幼少時代をも知り、 現在でもほのかにお顔を拝見する機会を多く得ていたから、帝へお話しした。
 「お亡れになりました御息所の御容貌に似た方を、三代も宮廷におりました私すらまだ見た ことがございませんでしたのに、后の宮様の内親王様だけがあの方に似ていらっしゃいますこ とにはじめて気がつきました。非常にお美しい方でございます」

 もしそんなことがあったらと大御心が動いて、先帝の后の宮へ姫宮の御入内のことを懇切に お申し入れになった。お后は、そんな恐ろしいこと、東宮のお母様の女御が並みはずれな強い 性格で、桐壷の更衣が露骨ないじめ方をされた例もあるのに、と思召して話はそのままになっ ていた。そのうちお后もお崩れになった。姫宮がお一人で暮らしておいでになるのを帝はお聞 きになって、「女御というよりも自分の娘たちの内親王と同じように思って世話がしたい」となおも熱心に入内をお勧めになった。こうしておいでになって、母宮のことばかりを思っ ておいでになるよりは、宮中の御生活にお帰りになったら若いお心の慰みにもなろうと、お付 きの女房やお世話係の者が言い、兄君の兵部卿親王もその説に御賛成になって、それで先帝の 第四の内親王は当帝の女御におなりになった。御殿は藤壼である。典侍の話のとおりに、姫宮の容貌も身のおとりなしも不思議なまで、桐壼の更衣に似ておいでになった。この方は御身分 に批の打ち所がない。すべてごりっぱなものであって、だれも貶める言葉を知らなかった。桐 壼の更衣は身分と御愛寵とに比例の取れぬところがあった。お傷手が新女御の宮で癒されたと もいえないであろうが、自然に昔は昔として忘れられていくようになり、帝にまた楽しい御生 活がかえってきた。あれほどのこともやはり永久不変でありえない人間の恋であったのであろう。

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