源氏物語を読む(更級日記)~いにしえのオタク😟? やっと読めるよ ! ! !

 

 源氏物語を読む

「更級(さらしな)日記」

 ~いにしえのオタク😟

 やっと読めるよ ! ! 

  「源氏物語を読む」(『更級日記』)を現代語で

 慕っていた継母(ままはは)との別れや乳母の死去などが重なって、このようにずっとふさぎこんでいるので、心を慰めようと、心配して、母が物語などをさがして見せてくださると、ほんとうに気持ちが自然と晴れていく。

 『源氏物語』の紫上についての巻を読み、続きが読みたく思われるけれど、誰にも相談することもできず、家の者はだれもまだ都に慣れていない時だったので、それを見つけ出すこともできない。ひどくじれったく、読みたくてたまらなく思われるので、「この『源氏物語』を一の巻からみなお見せください」と心中で祈る。

 親が太秦(うずまさ。ここではそこにある広隆寺)に参籠なさった際も、他の事はお願いせず、ただこのことばかりをお願いして、寺から出てきたらすぐに、仏様のご利益(りやく)で手に入るこの物語を終わりまで読んでしまおうと思っていたが、かなえられない。

 とても残念で嘆かわしい気持ちでいると、おばに当たる人が田舎から上京してきたところに母が私を行かせたので、おばが
「たいそう立派に成長しましたね。」
などと懐かしがったり珍しがったりして、帰りがけに、
「何を差し上げよう。櫛(くし)や帯などのような実用的な物ではつまらないでしょう。欲しがっているとうかがっているものを差し上げましょう」
と言って、源氏の五十余巻を櫃に入ったまま全部と、在中将・とほぎみ・せり河・しらら・あさうづなどの物語を一袋に入れてくださった。それをいただいて帰るときのうれしさといったら、どう言い表したらよいか分からない。


 これまでは飛ばし飛ばし、少し見少し見して、話の筋も分からず、じれったく思っていた『源氏物語』を、最初の巻から読み始めて、だれにもじゃまされず几帳のうちで楽な姿勢で次々に読んでいく気持ちは、女性にとっては最高の幸運と思われている后の位も問題にならないほどだ。

 昼は一日中、夜は目が覚めている間じゅう、灯を近くにともして、これを読む以外何もしないので、自然に頭の中にそらでも文句が浮かんでくるようになったのをすばらしいことのように思っていると、夢の中に清浄な感じの僧侶で黄色い地の袈裟を着た人が現れて、
「法華経の五の巻を早く習いなさい。」
と言う夢を見たけれど、これを誰にも話さず、その法華経を習おうとも思わず、物語のことで頭がいっぱいで、私は今はまだ器量はよくない、でも盛りの年ごろになったら、顔立ちも限りなくよくなり、髪もすばらしく長くなるに違いなく、そして、あの光源氏の思われ人である夕顔、宇治の大将の恋人の浮舟の女君のようになるはずだわ、と思っていた私の心は、何とも他愛なく、とてもあきれ果てたものだった。

「源氏物語を読む」(更級日記)の原文+現代語訳はこちらから

           

『古のオタク「更級日記」』
#1推し-ICHIOSHI-】奥友沙絢

  源氏物語の世界に浸る

 慕っていた人が亡くなり、ふさぎこむ私に母は物語を求めてくれました。気はまぎれるが、やはり「源氏物語」が読みたい。そんなある日、太秦(うずまさ)の広隆寺こちらを)に参詣(さんけい)した時は、「源氏物語」全巻をお見せくださいと祈りましたが、その験(しるし)はない。ところが、ある日、作者は田舎から上京したおばの所につかわされました。おばは喜んでくれ、なんと、お土産(みやげ)に『源氏物語』五十余巻、その他の物語一袋をいただいたのでした。天にものぼる心地でした。

 第一巻から、他人を寄せつけず読みふけるのでした。「源氏物語」を読んでいる時の充実感は、「后の位もものの数ではない。」という心境で、人物や言葉がそらに浮かんでくるほどになり、それを我ながら感動するのでした。そのころ夢に僧が現れて「(女人に最重要の)『法華経』第五巻をはやく習え。」と言うが、気にしません。もっぱら、悲劇のヒロインの夕顔や浮舟になりたいと夢見るのでした。今思えば、あきれはてたことです。

 なんとしても『源氏物語』全巻を読んでみたいと渇望する作者の心については、「いみじく心もとなく、ゆかしく」とあり、広隆寺に参詣(さんけい)した時も、誰もが来世の往生を祈るのに、「源氏物語全巻をお見せください。」と祈るのでした。

 『源氏物語』を手に入れた後はすっかり物語の世界にのめりこみ空想の世界に酔いしれていた。作者が『更級日記』を執筆する晩年(50代前半)にそのころを「あさまし」ともあきれたこととも回想しています。抱いていた夢など夢でしかなく、家庭でも宮仕えでも現実は厳しかった。今は信仰にすがる晩年の作者には、少女時代の心は「あさまし(あさはかであきれる)」であったようです


 作者は菅原道真の子孫で学者の家柄に生まれた。兄の長能(ながとう)は著名な歌人で、母方の姪(めい)に『蜻蛉日記』の作者藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)がいます。学問と和歌に縁の深い家系です。

 作者は過保護な育てられ方をされたらしく、引込み思案な性格だったようで、結婚も遅れました。祐子内親王家(ゆうしないしんのうけ)に宮仕えに上がり、そのころ橘俊通(たちばなのとしみち)の後妻(ごさい)となるのですが、その夫も急死し孤独な生活となりました。宮仕えにも失望し 、夫の死後、宗教にも没入しきれぬまま自己の半生を回顧して、この日記の筆をとるようになったようです。

 今から960年ほど前に書かれた日記文学です。

「源氏物語を読む」(更級日記)の原文+現代語訳こちらから


更級日記 門出・憧れ/物語・源氏の五十余巻  

  更級(さらしな)日記とは

 平安時代日記文学。作者は菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)。女性は正式な名を持たなかったので、通称で呼ばれたり、ここでは父親の名にちなんで名づけられているわけです。作者は、その晩年(50代前半)に、少女時代の回想で始まり、成長して宮仕えをし、結婚し、親しい人との死別など女性としてたどってきたさまざまな経験を記しています。


 印刷技術はもちろんありませんでした。作者本人が書いたものか書写されたもの(綴じたものを草子〈ソウシ〉と言い、巻物を巻子〈カンス〉と呼んでいました)を読んでいました。富裕上流貴族は、書写する女房を抱えていたようです。そのようにして古い時代に書かれた作品を現代でも読むことができるわけです。

 今から960年ほど前に書かれた作品です。



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