💥解読💥志賀直哉『城の崎にて』

💥解読💥

志賀直哉『城の崎にて』



 全体を六段落でとらえ、各段落の形式段落を下のようにします。教科書やコピー本文に書き入れましょう。


第一段落

  a1… 山の手線の電車に

第二段落

  a2… 頭はまだなんだか

  a3… 一人きりでだれも

第三段落

  a4… 自分の部屋は

  a5… ある朝のこと

  a6… 夜の間にひどい

  a7… 「殺されたる范の妻」

第四段落

  a8… はちの死骸が流され

第五段落

  b1… そんなことがあって

  b2… だんだんと薄暗くなってきた。
第六段落

  b3… 三週間いて

 ※(〇.△)→ 〇は形式段落、△ は何文目。

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第一段落

💥設問💥

①「山の手線の電車に跳ね飛ばされてけがをした、その後養生に、一人で但馬の城崎温泉へ出かけた。」(a1.1)の主語を記しなさい。


②「そんなことはあるまい」(a1.2)の「そんなこと」が指すのは何か。



💥解読💥

① 「山の手線の電車に跳ね飛ばされてけがをした、その後養生に、一人で但馬の城崎温泉へ出かけた。」(a1.1)の主語を記しなさい。

 自分

 ↑  ↑  ↑  ↑

(a3.9)で初めて「自分」と書かれている。『城の崎にて』は白樺派の同人誌『白樺』に発表(1917年大正6年)、心境小説の趣が強い。心境小説とは、作者が日常生活で体験したものを描きながら、その中に自分の心境を表現した小説です作者である「私」を主人公として、その心境を掘り下げていくことが多い。冒頭から読者が自然とそんな小説として読み進めるように書かれています。


②「そんなことはあるまい」(a1.2)の「そんなこと」が指すのは何か。

 解答例 背中の傷が脊椎カリエスになること

 ↑  ↑  ↑  ↑

 指示語のその指示内容は、直前、その直前…とさかのぼり、「こと」などを補うなどして指示語に代入、文意が通るか確認。ただし、要約しなければならなかったり、指示内容が指示語の後にあることもあり、そのケースが出題されることも知っておいてください。

 ここでは直前「背中の傷が脊椎カリエスになれば致命傷になりかねない」(a1.2)とあり、指示語「そんなこと」に代入して意味が通じるような言い方で答える。


段落要点…山手線の電車に跳ねられてけがをした「自分」は、そのあと養生のため城崎温泉に滞在した。三週間以上、五週間くらい逗留する予定でいる。


第二段落

💥設問💥

①「山のすそを回っている」(a3.3)の主語は何か。


②「寂しい考え」(a3.7)とは具体的にはどういう考えなのか。



③「自分」(a3.9)という自称しているが、「私」と言うのとどう違うか。



④「そういうふうに」(a3.18)とは具体的にはどういうことか、60字以上65字以内で説明しなさい。

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💥解読💥

①「山のすそを回っている」(a3.3)の主語は何か。

 小さい流れ ←(a3.2)にある。


②「寂しい考え」(a3.7)とは具体的にはどういう考えなのか。

 けがをして、一つ間違えば、いまごろは青山の土の下で、青い顔をして、顔の傷も背中の傷もそのままで、お互い難の交渉もない祖父や母の死骸をわきにして、あおむけになって寝ていたのではないかという考え。

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 次次文の「自分はよくけがのことを考えた。一つ間違えば、今ごろは青山の土の下にあお向けになって寝ているところだったなど思う。青い冷たい堅い顔をして、顔の傷も背中の傷もそのままで。祖父や母の死骸がわきにある。それももうお互いに何の交渉もなく、――こんなことが思い浮かぶ。」(a3.9~13)に具体的に書いてある。これを手短にまとめることになります。


③「自分」(a3.9)と自称しているが、「私」と言うのとどう違うか。

解答例 「私」という一人称よりは、自己を客観視し対象化している印象を与えている。

 ↑  ↑  ↑  ↑

 「私」を客観的に観察して描いているように感じさせます。


④「そういうふうに」(a3.19)とは具体的にはどういうことか、60字以上65字以内で説明しなさい。

解答例 自分は死ぬはずだったのを助かったのは、何かが自分を殺さなかった、自分にはしなければならぬ仕事があるのだとクライムが思ったように。

 ↑  ↑  ↑  ↑

 64字。指示語のその指示内容は、直前、その直前…とさかのぼり、「こと」などを補うなどして指示語に代入、文意が通るか確認。ただし、要約しなければならなかったり、指示内容が指示語の後にあることもあり、そのケースが出題されることも知っておいてください。

 ここでは、直前に「中学で習った『ロード・クライブ』という本に、クライブがそう思うことによって激励されることが書いてあった。」(a3.18)とあり、この「そう思う」の「そう」の指示内容は、直前の「自分は死ぬはずだったのを助かった、何かが自分を殺さなかった、自分にはしなければならぬ仕事がある」になる。ただし、「自分」は必ずしもそう思ったわけではないとされている。


青山墓地(青山霊園)


段落要点…秋の城崎で「自分」は一人きりで療養している。そうした中で「自分」は、死のことを思った。恐怖としてそれを感じるのではなく、「自分」の心は静まり、何かしら死に対する親しみが起こっていた。


第三段落

💥設問💥

①「巣の出入りに忙しく イそのわきをはい回るが全く ロ拘泥する様子はなかった。」(a5.4)のイ「その」の指示内容とロ「拘泥」の意味を記しなさい。


 イ 


 ロ 


②「 イそれにしろ、 ロそれはいかにも静かであった。」(a6.8)のイとロの「それ」の指示内を記しなさい。


 イ 


 ロ 


③「自分は『范の犯罪』という短編小説をその少し前に書いた。」(a 6.11)とあるが、この話題はどのような効果があるのか。




💥解読💥

①「巣の出入りに忙しく イそのわきをはい回るが全く ロ拘泥する様子はなかった。」(a5.4)のイ「その」の指示内容とロ「拘泥」の意味を記しなさい。

 イ はちの死骸の

 ロ こだわる

②「 イそれにしろ、 ロそれはいかにも静かであった。」(a6.8)のイとロの「それ」のしじないようを記しなさい。

 イ はちの死骸がありに引かれていくこと。

 ロ はちの死骸 

 ↑  ↑  ↑  ↑

 第二段落④と同様。指示語のその指示内容は、直前、その直前…とさかのぼり、「こと」などを補うなどして指示語に代入、文意が通るか確認。


③「自分は『范の犯罪』という短編小説をその少し前に書いた。」(a 6.11)とあるが、この話題はどのような効果があるのか。

 死や死んだものの静かさに、現在の「自分」は共鳴し親しみを感じていることを示す効果。

 ↑  ↑  ↑  ↑

 直前に「それにしろ、それはいかにも静かであった。せわしく働いてばかりいたはちが全く動くことがなくなったのだから静かである。自分はその静かさ親しみを感じた。」(a 6.8&9&10)、さらに、「…しまいに殺されて墓の下にいる、その静かさを自分は書きたいと思った。」(a 6.13)と「死んだもの」への「静かさ」が繰り返されていることに着目できます。


段落要点…ある朝、「自分」は一匹のはちが玄関の屋根で死んでいるのを見つけた。「自分」はその死骸の静かさ親しみを持った。「自分」は范がその妻を殺す「范の犯罪」という短編小説を書いたが、今度は殺された妻の気持ち、妻の死の静かさについて書きたいと思った。


第四段落

💥設問💥

①「顔の表情は人間にわからなかったが動作の表情に、それが一生懸命であることがよくわかった。」(a8.17)の傍線部「それ」の指示内容を記しなさい。



②「わきの洗い場の前で餌をあさっていた二、三羽のあひるが石が飛んでくるのでびっくりし、首を伸ばしてきょろきょろとした。スポッ、スポッと石が水へ投げ込まれた。あひるは頓狂な顔をして首を伸ばしたまま、鳴きながら、せわしく足を動かして上流のほうへ泳いでいった。」(a 8.20&21)とあるが、ここでこの「あひる」の描写は、どのような表現効果があるか、「ねずみ」と関連させて説明しなさい。



③「自分はねずみの最期を見る気がしなかった。」(a 8.23)とは、なぜそうだと考えられるか。



④「それに近い自分」(a 8.31)とは、どういう自分なのか。



⑤「そう言われても」(a 8.47)とは、どう言われるというのか。



⑥「両方」(a8.49)とは、具体的には何と何か。



💥解読💥

①「顔の表情は人間にわからなかったが動作の表情に、それが一生懸命であることがよくわかった。」(a8.17)の傍線部「それ」の指示内容を記しなさい。

 どうにかして助かろうとしているねずみの動作。

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 直前の「ねずみはどうかして助かろうとしている」( a8.16)、その「表情」ととらえられる。


②「わきの洗い場の前で餌をあさっていた二、三羽のあひるが石が飛んでくるのでびっくりし、首を伸ばしてきょろきょろとした。スポッ、スポッと石が水へ投げ込まれた。あひるは頓狂な顔をして首を伸ばしたまま、鳴きながら、せわしく足を動かして上流のほうへ泳いでいった。」(a 8.20&21)とあるが、ここでこの「あひる」の描写は、どのような表現効果があるか、「ねずみ」と関連させて説明しなさい。

解答例…あひるの頓狂な顔やユーモラスな動きが、致命傷を負っているのにどうにか助かろうとしているねずみの悲劇的な状況をより際立たせる効果。
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(「あひる」は「首を伸ばしてきょろきょろ…頓狂な顔をして」(ユーモラス)とあり、「ねずね」は、「死ぬに決まった運命を担いながら、全力を尽くして逃げ回っている」(悲劇的)と対照させて書かれている。)

③「自分はねずみの最期を見る気がしなかった。」(a 8.23)とは、なぜそうだと考えられるか。
解答例…死んでいくねずみの苦しみを恐ろしいことだと思い、かつて事故にあった後あのねずみと近い自分になったことを重ね合わせて考えたから。
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 直後に「死ぬに決まった運命を担いながら、全力を尽くして逃げ回っている」(a 8.24)ことへの恐怖や嫌悪感が述べられ、同時に、事故直後の「それに近い自分」(a 8.31)が回想されている。

④「それに近い自分」(a 8.31)とは、どういう自分なのか。

解答例…瀕死の状態にあって、なんとか生き延びようと苦しみもがく自分。


⑤「そう言われても」(a 8.47)とは、どう言われるというのか。

解答例…「自分」の傷がフェータルなものと言われる。


⑥「両方」(a8.49)とは、具体的には何と何か。

解答例…死を目前にして、静かに死んで行くことと、それとは逆になんとか助かろうと無益な努力をすること

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 直前に「気分で願うところ」と「実際」(a8.49)を受けている。「気分で願うところ」とは「死の恐怖に自分は襲われなかった」と回想するそのあり方。「実際」とは、フェータルなものではないと聞いて元気づいたようにあのねずみに「近い自分」であったこと。


段落要点…ある午前、散歩に出た「自分」は、首に魚串を刺され、子供たちや車夫に石を投げられているねずみを見た。懸命に逃げるねずみを見て「自分」は、寂しい嫌な気持ちになった。そして「自分」は、事故にあった際はねずみに近い「自分」であったのだと思った。


第五段落

💥設問💥

①「多少怖い気もした。」(b1.9)とあるが、そう感じた理由を説明しなさい。



②「そのころいもりを見るとそれが思い浮かぶので、いもりを見ることを嫌った。」(b2.17)の傍線部「それ」の指示内容を記しなさい。



③「かわいそうに思うと同時に、生き物の寂しさをいっしょに感じた。」(b2.40)について、(イ)「生き物の寂しさ」とはどういうさびしさなのか。(ロ)「自分」が「いっしょに感じた」のなぜと考えられるか。



④「そういう気分」(b2.-1)とは、具体的にはどういう気分なのか。




💥解読💥

①「多少怖い気もした。」(b1.9)とあるが、そう感じた理由を説明しなさい。

 風もないのに桑のあるひとつの葉だけがヒラヒラヒラヒラととせわしなく動いていたから。

  ↑  ↑  ↑  ↑

 直前「向こうの、道へ差し出した桑の枝で、ある一つの葉だけがヒラヒラヒラヒラ、同じリズムで動いている。風もなく流れのほかはすべて静寂の中にその葉だけがいつまでもヒラヒラヒラヒラとせわしく動くのが見えた。」(b1.6&7)とあり、それを「不思議」(b1.8)に思ったと同時に「多少怖い気もした。」(b1.9)と書かれている。

②「そのころいもりを見るとそれが思い浮かぶので、いもりを見ることを嫌った。」(b2.17)の傍線部「それ」の指示内容を記しなさい。

 いもりにもし生まれ変わったら自分はどうするだろうという考え。

  ↑  ↑  ↑  ↑

 直前に「いもりにもし生まれ変わったら自分はどうするだろう、そんなことを考えた。」とある。「それ」に代入して意味が通るような形にして答える。

③「かわいそうに思うと同時に、生き物の寂しさをいっしょに感じた。」(b2.40)について、(イ)「生き物の寂しさ」とはどういうさびしさなのか。(ロ)「自分」が「いっしょに感じた」のなぜと考えられるか。

(イ)生と死が偶然に支配されているという寂しさ。

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  直後に「自分は偶然に死ななかった。いもりは偶然に死んだ。自分は寂しい気持ちになって」(b2.41)とある。

(ロ)生き残っているものと死んでしまったものとの違いはあるが、生死を偶然に支配されている同じ生き物と感じたから。
   ↑  ↑  ↑  ↑

 「生きていることと死んでしまっていることと、それは両極ではなかった。それほどに差はないような気がした。」(b2. -4)ともある。

④「そういう気分」(b2.-1)とは、具体的にはどういう気分なのか。

 生きていることと死んでしまっていることとは両極ではなくそれほどに差はないような気分。

   ↑  ↑  ↑  ↑

 「生きていることと死んでしまっていることと、それは両極ではなかった。それほどに差はないような気がした。」(b2. -4)を解答になる言い方にした。



段落要点…ねずみのことがあってしばらくして、今度は「自分」が投げた石で偶然にもいもりを殺してしまった。電車の事故で「自分」は偶然に死ななかっただけであって、死と生とはそれほど差がないことに「自分」は思い至った。


第六段落

💥設問💥

①「三週間いて、自分はここを去った。それから、もう三年以上になる。自分は脊椎カリエスになるだけは助かった。」(b3.1)について、

 (イ)「三週間いて、自分はここを去った」のはなぜか、わかりやすく説明しなさい。

 (ロ)「自分は脊椎カリエスになるだけは助かった。」で「だけ」を使うことでどういうことが暗に語られているのか、分かりやすく説明しなさい。



💥解読💥

①「三週間いて、自分はここを去った。それから、もう三年以上になる。自分は脊椎カリエスになるだけは助かった。」(b3.1)について、

 (イ)「三週間いて、自分はここを去った。」のはなぜか、わかりやすく説明しなさい。

  解答例…「生死」をめぐって修正を迫るような体験が次々に起こって心身ともに不安定になり、それ(三週間)以上滞在することに耐えられなかったこと。
   ↑  ↑  ↑  ↑

 この小説の冒頭に「三週間以上――我慢できたら五週間くらいいたいものだと考えて来た。」とありました。結果的には「三週間以上」は「我慢でき」なかったことになります。それはなぜ…? 前段落末「足の踏む感覚も視覚を離れて、いかにも不確かだった。ただ頭だけが勝手にはたらく。それがいっそうそういう気分に自分を誘っていった。」に着目して考えることになります。この小説全体の内容把握、テーマに関わる問です。


 (ロ)「自分は脊椎カリエスになるだけは助かった。」で「だけ」を使うことでどういうことが暗に語られているのか、分かりやすく説明しなさい。

 解答例1… 脊椎カリエスは発症しないですんだが、今は、生き物の生死が偶然に支配されている以上、いつどんな事態が降りかかってくるか分からないという認識を積極的に受け止めているということ。


 解答例2…三年が経過して脊椎カリエスに罹(かか)り死ぬようなことは逃れられた。しかし、いつなん時死ぬような事態が訪れてもおかしくないのだと今は思っていること。


 「だけ」は限定の助詞。ここでは、脊椎カリエスに罹ることに限定することとなる。一方、この小説の冒頭に「背中の傷が脊椎カリエスになれば致命傷になりかねない(脊椎カリエスが死に至る病気だと語られています)…二、三年で出なければ後は心配はいらない」とありました。そして「それから、もう三年以上になる。自分は脊椎カリエスになるだけは助かった」が結末となっています。脊椎カリエスに罹り死ぬことは免れられた、でも…のパターンと考える。「…」の内容を生と死をめぐる「自分」の認識は結局どういうものだったかをまとめることになります。難しいですが、この小説の結論となります。


 『城の崎にて(志賀直哉)もっと深くへ ! 』でテーマに迫りましょう。こちらです。



段落要点…三週間いて「自分」は城崎を去った。それから三年以上経つが、脊椎カリエスになるだけは助かった


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