久しく隔たりて会ひたる人の
『徒然草』56段
~兼好の考える話し方の作法
『徒然草』とは
兼好法師によって鎌倉時代終わりころに書かれました。『枕草子』(清少納言)・『方丈記』(鴨長明)と併せて日本三大随筆と言われています。
自然、社会、人間のありように対する思いを述べた随筆で、さまざまな角度から斬新(ざんしん)な感覚で切り込んだ作品。王朝文化へのあこがれ、有職故実(ユウソクコジツ。礼式・官職・制度などの由来など)に関する心構え、処世訓、自然美の新しい見方など、素材・対象は多彩を極めています。
仏教的無常観・老荘的虚無思想・儒教的倫理観が基盤にあるとされ、また、作者兼好法師は和歌四天王の一人に数えらたように、美的感受性にも優れています。
『徒然草』は、「ある人、弓射ること習ふに」や「高名の木のぼり」を読むと人生上の教訓集と見えますが、「神無月のころ」や「花はさかりに」は兼好の趣味論にも見えます。さらに、この「五月五日、賀茂の競べ馬を」や「大事を思ひ立たん人は」は死生観や無常観を論じるものにも見えます。
加藤周一さんは、『「心に移りゆくよしなしごと」を次々と書きとめることで、多面的でしばしば相反する思想を一冊の小著にまとめあげた』と言っています。
久しく隔たりて会ひたる人の(『徒然草』56段)原文/現代語訳はこちらへ
「久しく隔たりて会ひたる人の」(『徒然草』56段)を現代語で
長い間離れていて、久しぶりに会った人が、自分のほうにあったことを、あれもこれもと残るところなくすっかり語り続けるのこそ、まことに興ざめなことである。 なんの隔てなく慣れ親しんでしまった人でも、しばらく離れていて時がたって会うのは、気がひけないのであろうか。
教養が一段劣っている人は、ほんのちょっと外出して帰って来た場合も、今日あったことだと言って、息を継ぐこともできないくらいに語って自分でおもしろがるものである。
これに比べて教養のある人が話をする様子は、人が大勢いても、その中の一人に向かって話す、それを、自然とほかの人も傾聴するというものである。
だが、身分も低く教養のない人は、だれと話しているともなく、大勢の人の中に身を乗り出して、目の前に見ていることのように話を作って語るので、みなが一斉に大声を立てて笑うのは、実に騒々しい。
実際、おもしろいことを言ってもあまりおもしろがらないのと、おもしろくないことを言ってもよく笑うことによって、きっとその人の人柄の程度を推し測ることができるであろう。
他人の噂をして人の容姿のよしあしのこととか、学問のある人の場合はその学問に関することなどを批評し合っている時に、自分自身のことを引き合いに出して話し出したのは、実に不愉快なものだ。(第五十六段)
兼好の考える話し方の作法
人に向かって話をする際の作法と言っていいことを、4つのケースによって論じています。
・久しぶりに会った際、自分の方のことばかりを語るのはつまらない。
・大勢の中で話す際、身分教養のある人は一人に向かって語るが、そうでない者は相手かまわず語り面白がる。
・話を聞く際、おかしい話にもほどよくおもしろがるのが上品で、つまらぬ話に笑うのは下品だ。
・人を評する際、自分を引き合いに出すのは不快だ。
兼好法師が憧憬(しょうけい)する平安時代の貴族の作法によった論と言えよう。
みんなにうけることを言いたい、面白いことを聞きたい、みんなで笑いたい、みんなに視線を向けながら話すべきなどとする現代の風潮とは対極にある作法とも美意識ともいえます。また、明治維新後と第二次大戦敗戦後に流入して定着したアメリカ流ヨーロッパ流がよしとしている作法ともかなり異質。
大陸と温帯島国の作法の違いか?しかし、兼好の主張、よく考えてみると、なるほどと感じる点があるのなら、こんな感覚が島国に住む私たちの文化伝統の源流の一つになっているからでしょうか?一言でいうと、日本で伝統的に「品位」とされていることと言ってもいいことでしょうか。
久しく隔たりて会ひたる人の(『徒然草』56段)原文/現代語訳はこちらへ
徒然草「久しく隔たりて会ひたる人の」
(1:22から現代語訳)
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