「名を聞くより」(『徒然草』七十一段)~想像と現実の不思議

 「名を聞くより」 

 『徒然草』七十一段 

 ~想像と現実の不思議 


   『徒然草』とは

 兼好法師によって鎌倉時代終わりころに書かれた枕草子』(清少納言)・『方丈記』(鴨長明)と併せて日本三大随筆と言われている

 自然、社会、人間のありように対する思いを述べた随筆で、さまざまな角度から斬新(ざんしん)な感覚で切り込んだ作品。王朝文化へのあこがれ、有職故実(ユウソクコジツ。礼式・官職・制度などの由来など)に関する心構え、処世訓自然美の新しい見方など、素材・対象は多彩を極めている。
 仏教的無常観・老荘的虚無思想・儒教的倫理観が基盤にあるとされ、また、作者兼好法師和歌四天王の一人に数えらたように、美的感受性にも優れている。


   「名を聞くより」(『徒然草』七十一段)を現代語で

 人の名前を聞くやいなや、すぐに顔つきが自然と想像される気持ちがするのに、実際に会ってみる時はまた、前に想像していたとおりの顔をしている人はいないものだ。

 昔の物語を聞いても、物語の中に出てくる場所が現在のあの人の家の、そこらあたりにあったのではないかと思われ、その物語に登場する人物についても、今見ている人の中に自然と思い比べてしまうのは、だれもこのように感じるのであろうか。

 また、何かの折に、今人が言っていることも、目に見えているものも、自分の心の中に思っていることも、こういうことがいつだったかあったなあと思われて、それがいつのこととは思い出せないけれども、確かにあった気持ちがするのは、自分だけがこのように感じるのであろうか。

「名を聞くより」(『徒然草』七十一段)原文+口語訳はこちら



   想像・現実の不思議

 この「名を聞くより」全文では、筆者は2つのことをメッセージとして発信していることになります。

 1つは、「言葉で聞いてイメージしていたもの(名)と実際(実)とでは違うことがよくある」ということ。

 そしてもう1つは、「今人がしゃべっていること、目に見えている物、自分の心の中で思うことは、初めてなはずなのに、昔こんな光景があった気がするなぁと思ってしまう」、つまり、既視感を覚えることが多々あるということ。既視感はフランス語のデジャヴで日本語として通用しています。


  現代の私たちが感じていること、感じているが気にとめないでやりすごしていることが、660年前、兼好によってすくい上げられているように思います。また同時に、人の心理が何百年たってもかわらないことがあるんだと感じさせられます。皆さんはどう思いましたか?


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『徒然草』 「名を聞くより」
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