藤原道長は娘を4人も入内さ(天皇に嫁が)せ、天皇の外祖父(母方の祖父)として摂政になるなど権勢を誇りました。「この世をば我が世とぞ思ふもち月のかけたることのなきと思へば(この世は自分のためにあるようなものだ。望月(満月)のように足りないものは何もないと思えるから)」という歌を残しています。
まず、長女の彰子を一条天皇に入内させ、のちに後一条天皇として即位することになる敦成親王が生まれます。問題本文はその誕生一か月後の記事。道長は、時間もかまわず乳児を抱きにやって来る。たかーい・たかーいをしておしっこをかけられ、「この濡れた衣服を乾かすのは最高の気分だ」と喜んでいる。道長絶頂期の一齣(ひとこま)である。だが、うとうとしている懐を探られる乳母が気の毒だと、紫式部はその様子をどこか冷めたような視線で描写しているように見えます。
この後、天皇の御幸を控え、土御門邸はますます磨き立てられ、前栽(せんざい 庭の植え込み)には色とりどりの菊が植えられ見事である。しかし、作者はそれを見ても心浮き立たない。憂鬱で嘆かわしいことが多くなるのは辛いことだとも、池に遊ぶ白鳥を見ても、実は必死に足掻きをして苦しいのだろうと思ったりもする。地方官に就くチャンスを待ち続ける、不安定な受領階級(中流貴族)の悲哀を味わってきた作者は、国母(こくぼ)ともてはやされる中宮に仕えていても、心が晴れることはないのだろうか。最高の上流貴族の栄華と権勢の裏面には、見たくも聞きたくも知りたくもない醜悪な陰謀・術策が存在するのを知っているからだろうか。
1000年も経た今日、この二人の作品を読むことができるのは幸運なことだと思う。古典・伝統を批判することが良心的進歩的としてきた、自虐的歴史観に基づく言説が長年大手を振るってきたが、こんな体験ができるのは世界でも日本だけの特権と言っていいと誇ってもいい。
この後、天皇の御幸を控え、土御門邸はますます磨き立てられ、前栽(せんざい 庭の植え込み)には色とりどりの菊が植えられ見事である。しかし、作者はそれを見ても心浮き立たない。憂鬱で嘆かわしいことが多くなるのは辛いことだとも、池に遊ぶ白鳥を見ても、実は必死に足掻きをして苦しいのだろうと思ったりもする。地方官に就くチャンスを待ち続ける、不安定な受領階級(中流貴族)の悲哀を味わってきた作者は、国母(こくぼ)ともてはやされる中宮に仕えていても、心が晴れることはないのだろうか。最高の上流貴族の栄華と権勢の裏面には、見たくも聞きたくも知りたくもない醜悪な陰謀・術策が存在するのを知っているからだろうか。
紫式部と清少納言
この世の女性最高位といえる后に仕え、優れた作品を残した、同時代のライバルに清少納言がいる。この二人の出自は中流貴族で中宮に仕えている女房という共通の境遇であるが、残された作品からその資質・感受性が対照的なのが興味深い。例えば、「枕草子」の、道隆を祖とする中の関白家の絶頂の時期の一齣を描いたといえる「清涼殿の丑寅のすみの」では、その兄弟たちを畏敬称賛のまなざしを持って描き、菩薩様であるかのように尊崇の念を抱いている定子からおほめいただいた幸福を率直に語っている。現状肯定的で、ポジティブ・オプティズムな感性と言ってもいい。それに対して、紫式部はネガティブ・ペシミズムにものごとを感受し構成し描く傾向が強い。一方では、紫式部はネガティブ・ペシミズムな資質感受性ゆえに「源氏物語」という長編(原稿用紙2000枚)の物語を書き得たとも言えるのか。
まんが日本史 第14話 「花ひらく王朝文化 ~清少納言と紫式部~」
解答(解説)
問1 植ゑ
(3段落2文目。「植う・飢う・据う」はワ行下二段活用とinput! また、問題を解くときは、まず「問題」を読み何が問われているのか予め分かったうえで「本文」を読んでいくのが定石。)
問2 aおまし bめのと dみきちょう(「御」は本来はオオンと言い、他に、「御衣」はオンゾ・ミゾ、「御髪」はミグシなどと言っていた。さらに、調度品(インテリアグッズ)については「御格子」はミコーシ、「御几帳」はミキチョーなどのようにミと言っていました。)
問3cねぼけて目を覚ます(「おぼほる」は現代では使われない語。2系統。【溺ほる】=(水に)おぼれる/涙にむせぶ。【惚ほる】=ぼんやりする・正気(しようき)を失う/知らないふりをする・とぼける。ここでは後者。)
e世間並の人間であったとしたら(「ましかば」が反実仮想の条件節、問5と関連する。)
問4 解答例…若宮が道長におしっこをかけること
(「わりなきわざをしかけ」の主語は若宮。直後に「御しとにぬるる」とあり、道長が濡れた着物をあぶってかわかしているともある。「しと」は尿、「しし」ともいい、現代ではオシッコという。)
問5 強意の助動詞「つ」の未然形「て」+反実仮想の助動詞「まし」の終止形「まし」
問6 解答例…水面下で懸命に足掻きしているから
(16字。作者は華やかな宮廷生活にあって、それに溶けこむことができず深い憂愁にとらわれているという。そんな作者は、水鳥は「思ふことなげに遊び合うへる」ように見えるが、実は水面下で懸命に足掻きして辛いのだととらえている。表層=明と深部=暗の二項対立とアナロジー。1000年以上前の文章、現代人以上の自己省察の深さと濃密な表現!そして、同時代のライバル清少納言との感受性の違い!)
advanced Q
1 若宮をかわいがるため(一〇字) 〔別解〕若宮を見るため(七字)
(「ひき探す」は、探るの意。「ひき」は強めの接頭語。「乳母(めのと)」とは、かつて、現在のような良質の代用乳が得られない時代には母乳の出の悪さは乳児の成育に直接悪影響を及ぼし、その命にも関わった。そのため、皇族、王族、貴族、武家、あるいは豊かな家の場合、母親に変わって乳を与える女性を召し使った。)
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