若宮誕生
『紫式部日記』
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Wikipediaから引用⇒【寛弘5年(1008年)11月1日に土御門殿で催された敦成親王(後の後一条天皇)誕生後の「五十日の祝い」の宴席場面。左衛門督・藤原公任(画面右、室内を眺めやる人物)が「あなかしこ、此のわたりにわかむらさきやさふらふ(恐れ入りますが、この辺りに若紫は居られませんか)」と酔態で戯れに尋ねる。『紫式部日記絵巻』より(五島美術館蔵)】
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皇子誕生の一月後
藤原道長(ふじわらのみちなが)は娘を4人も入内(じゅだい。天皇の后となること)させ、天皇の外祖父(がいそふ。母方の祖父)として摂政(せっしょう 幼い天皇に代わって政治を行う役職)になるなど権勢(けんせい)を誇りました。「この世をば我が世とぞ思ふもち月のかけたることのなきと思へば(この世は自分のためにあるようなものだ。望月(=満月)のように足りないものは何もないと思えるから)」という歌は有名ですね。
この後、一条天皇の御子の若宮対面の御幸(ぎょうこう)を控え、自邸の土御門(つちみかど)邸はますます磨き立てられ、前栽(せんざい 庭の植え込み)には色とりどりの菊が植えられ見事である。しかし、作者はそんなようすを見ても心浮き立ちません。憂鬱で嘆かわしいことが多くなるのは辛いことだとも、池に遊ぶ白鳥を見ても、実は必死に足掻きをして苦しいのだろうと思ったりもします。地方官に就くチャンスを待ち続ける、不安定な受領(ずりょう)階級(=中流貴族)の悲哀を味わってきた作者は、国母(こくぼ)ともてはやされる中宮に仕えていても、心が晴れることはないのだろうか。
栄華と権勢の裏面
道長の父兼家は次男の道兼を使って、寵愛していた女御(にょうご 天皇の后)を亡くして悲嘆に暮れている花山天皇を詐欺的なやり口で出家退位させ、自分の娘・詮子(あきこ)の子の東宮を即位させました。これが一条天皇です。道長は兼家の五男であり、はじめ道隆・道兼という有力な兄に隠れてさほど目立たない存在でした。しかし、父兼家の死後に摂政を継いだ兄たちが相次いで病没すると、内大臣の伊周(これちか 道長の甥)と政権争いをし、ついには、伊周・隆家兄弟を左遷することに成功し、道長は左大臣となります。道長は娘の彰子を一条天皇に入内させます。そして彰子は敦成(あつひら)親王を出産。ここは一条天皇の御幸の日に備えているある日の場面です。
一条天皇が若宮に対面のため御幸になる晴れの日が近づいているのに、作者は浮き立たず物思い勝ちのようです。道長の栄華と権勢の裏面には、見たくも聞きたくも知りたくもない醜悪な陰謀・術策と悲劇が存在するのを知っているからだろうかなどと考えるのは、考えすぎでしょうか ? 道長は長男頼通(よりみち)と中務の宮(具平親王)の姫君との結婚をすすめたいと思っていて、中務の宮(具平親王)と縁のあるものと思って作者に相談を持ち掛けるのですが、「まことに心のうちは、思ひゐたること多いかり(ほんとうに心の中は、思案に暮れることが多い)」とも記しています。
紫式部と清少納言
この世の女性最高位といえる后に仕え、優れた作品を残した、同時代のライバルに清少納言がいる。この二人の出自は中流貴族で中宮に仕えている女房という共通の境遇であるが、残された作品からその資質・感受性が対照的なのが興味深い。 例えば、「枕草子」の清少納言は、道隆を祖とする中の関白家の絶頂の時期の一齣(ひとこま)を描いたといえる「清涼殿の丑寅のすみの」では、その兄弟たちを畏敬称賛(いけいしょうさん)のまなざしを持って描き、菩薩様であるかのように尊崇の念を抱いている定子からおほめいただいた幸福を率直に語っている(こちらを)。現状肯定的で、ポジティブ・オプティズムな感性と言ってもいい。それに対して、紫式部はネガティブ・ペシミズムにものごとを感受し構成し描く傾向が強い。一方では、紫式部はネガティブ・ペシミズムな資質・感受性ゆえに「源氏物語」という長編(原稿用紙2000枚)の物語を書き得たとも言えるのでしょうか。
1000年も経た今日、こんな二人の作品を読むことができるのは幸運なことだと思う。我が国の古典・伝統・歴史を批判的に批評することを良心的進歩的としてきた、自虐的歴史観に基づく言説が長年大手を振るってきたが、こんな体験ができるのは世界中でも日本だけの特権と言っていいと誇ってもいい。もっとも、狭量なナショナリズムに陥るのは愚かしいのは言うまでもありません。
【参考】 ラジオドラマ
↓ 紫式部「紫式部日記」 ↓
投稿者の説明⇒「1010年(寛弘7年)頃成立。 慣れない宮廷生活や藤原道長との思い出、 清少納言についての批評などを綴る。
【出演】 ・紫式部:大島由莉子 ・藤原道長:呉圭崇 ・清少納言:五十嵐由佳 ・女房:内海祐紀、尼子真理、山川琴美 ※劇中、使用している音楽・効果音、画像は全て著作権フリーの素材です。」
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