古典を読むとは
このお話は今から800年ほど昔(鎌倉時代)に、言い伝えられてきた話を書きとめられたものですが、当時の人たちがおもしろく興味深いと思っていたから言い伝えられ、しかも、書きとめられたわけですね。800年前の日本人がどういう点を面白いと思ったんでしょう。
知識を得て、想像力を働かせて、できうる限り800年前の日本人を追体験してみましょう。
ここで話題にしている「良秀がよじり不動」が、当時の人たちにはありがたい仏画というだけではなく、ずば抜けて迫力がありすばらしい絵であると広く知れ渡っていたと考えられます。でも、「良秀がよじり不動」て、現在残っていません。「不動明王」の絵であることは間違いないようです。
「不動明王(こちらを)」とは、仏法を守護する五大明王の一つ。燃え盛る火炎を背負い悪魔を寄せ付けまいと立ちはだかる降魔〈ごうま⇒こちら〉の相を表現するもののようです。火炎のよじれ燃えるさまが超写実的に描かれていたのでしょうね。当時の誰もが知っているような評判高い仏画であることを、このお話の前提としてし理解する必要があります。
わが家が燃えているのを、笑って見ていた…?
我が家が燃えているのにうなずき笑っている良秀を見て、人々がいぶかしがる。すると良秀が言うーーー我が家が火事になったことで、火炎の描写法を悟ることができた。そして、優れた絵を描くことが出れば冨を得ることができ、家一軒燃えたことなどなんでもない。さらに、高い職能を持つ自分と凡人とは違うのだーーーと。ここに見られるのは、絵仏師として仏画に対する並外れた執心の強さと自負心=職人魂といってよいでしょう。
当時の人々が、あの「良秀がよぢり不動」は、やはり常人とはかけ離れた良秀という職人だからこそ描くことができたのだろうと、感心もし納得もしたのでしょう。この常人とはかけ離れた良秀の言動が素朴だけど生き生きと語られているんですね。
現代では職業による文化の違いはさほどなくなったが、でも、多くの人たちがサービス業やデスクワークに従事する現在でも、職人は独特の価値観や考え方や美意識を持っていることも事実。良秀はそんな職人の典型ともいえるんじゃないでしょうか。
家の中に取り残された「妻子」はどうなるの…人命軽視ではないか…冷たい人だ…というような現代のパラダイムや関心の持ち方からでは語られていない。800年ほど前の人々が興味深く思うよう話が組み立てられているのでしょう。
芥川龍之介がこの話を元ネタにして「地獄変(こちらを)」という小説を書いたことは教わりましたよね。生活の現実や倫理や教訓などにとらわれず、純粋に美を追求するものが芸術だという芸術至上主義(こちらを)を語るのにぴったりのお話。
もとの良秀はちょっと違って、仏画を描いて生計を立てる職人。ただ、生活のために仕事をするというのではなく、仏画に対して常人には理解できない並外れた執心を持つ職人ぶりと職人の論理に当時の人々は感心したとも言えるのでしょう。
絵仏師師良秀(宇治拾遺物語) 問題解答(解説)
問1a…きぬ b…めこ
問2d…たいへんな
f…あきれた(「あさまし」は、現代語とは違った意味で使われていた。思いがけない事態について、驚きあきれるばかりだ、というのが原意。)
h…悟る、理解する
i…賞賛しあう、みんなが賞賛する(「めづ+あふ」。「めづ」は、ほめる・賛美する・賞賛する。現代語にもある〈「めでる」〉が違った意味で使われていた語の意味が出題されます。)
問3c…ウ e…オ
g…こそ(古い日本語には、強調したり疑問・反語の意味を持たせたりするため、特定の助詞を用いて、文末を連体形・已然形で結ぶ=係り結びの用法がありました。ここでは、「燃えけれ。と」に着目。「けれ」は詠嘆の助動詞「けり」の已然形。その「係り」は「こそ」と考える。入門期ではまだ難しい。)
問4 絵仏師としてこの世で生きていくからには 〈仏画を描くことを専門として世間をわたるからには〉
(「世にあり」は熟語、生きている、この世にいるの意。)
a.Q 解答例(解説)
(自分の家が焼けているのをうなずき笑いながら見ている良秀を見て、人々は理解できないことだ訝(いぶか)しんだ。それに対して、優れた仏画を描けば高い収入を得られるので、家一軒を失うことくらい何でもないと良秀は言っているよね。人々の訝(いぶか)しむ気持ち、良秀の自負心に裏づけされた人々を見下す気持ち、その双方の性格が書かれているのを、ここでは正解としています。「1文で簡潔に」説明するのは難しい。筋力アップ!)
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