筒井筒(伊勢物語)もっと深くへ !

  「伊勢物語」への道

 日本語は文字を持たない言葉でしたが、平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情表現や情景描写の文字表現ができるようになっていったのです(万葉仮名の時代を除きます)。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。

 文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした作り物語(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した歌物語伊勢物語)の二つが成立したとされています。


  「伊勢物語」の主人公は業平

 「伊勢物語」は現在残っている最古の歌物語です。初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々しく抒情的な文章で書かれています。

 初め在原業平(ありわらのなりひら)の家集を母体として原型ができ、その後増補を重ねて、今日の形になったようです。

 在原業平になぞえられる主人公「昔男(むかしおとこ)」の生涯が、一代記風にまとめられています。高貴な出自で、容貌美しく、色好みの評判高く、歌の才能に恵まれた人物の元服から死までのエピソード集です。ただし、業平とは考えられない男性が主人公の段もあります。


【参考動画】伊勢物語
 第二十三段「筒井筒(つついづつ)」

      筒井筒(伊勢物語)原文/現代語訳はこちら

   ある男と女の愛の顛末(てんまつ)

 ここでは「田舎わたらひしけるひとの子(田舎回りの行商をしていた人の子供)」としてあり、出自から在原業平(ありわらのなりひら)とは別人物のようです。
 幼馴染がようやく結ばれたが、幸福な日ばかりが続くわけではない。他に女ができた男を心中では嫉妬しながらも、それを顔には出さず、じっと男を信頼し続ける女のもとに再び幸福が返ってくる。これに、男から愛想をつかされた河内の女の結末が対照されています


  みやび

 『みやび』は、平安貴族が尊(とうと)んだとされる美的理念で、上品で優雅で風雅なさまのこと。この「筒井筒(つついづつ)」を読むと身支度(みじたく)や作法という見た目だけではなく、心の持ちようや働かせ方まで含んでいたようです。

 妻問い婚(ツマドイコン。通い婚、招婿婚ショウセイコンとも言います。こちらを)一夫多妻が一般的であり、また、和歌が特別の意味や力を持っていた、そんに1100年前の時代にできるだけ身を置いて物語を追体験してみることに古典を読み鑑賞することの意味があると思います。今現在の自分とはかなり異質な思考法感受性を体験できます。


 ここでも、初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々(ういうい)しく抒情(じょじょう)的な文章で書かれています。また、和歌が物語の中核となっているのも特徴です。


  平安に生きる人を追体験してみる

 「伊勢物語」はみやびの文学だと授業で教わったと思います。みやびは、平安貴族が尊んだ美的理念で、上品で優雅で風雅なさまのこと。この「筒井筒」を読むと身支度や作法という見た目だけではなく、心の働かせ方や持ちようまで含んでいたようです。

 このような古典作品を、たとえばフェミニズムのような現代のイデオロギーから読み解いても意味がないと思います。作品を読みながら妻問い婚(通い婚、招婿婚とも言います)や一夫多妻が一般的だった、かつ、和歌が特別の意味や力を持っていた、そんに時代にできるだけ身を置いて物語を追体験してみることに意味があると思います。今現在の自分とはかなり異質な思考法や感受性を体験できます。

 ちなみに、高安の女と同じような立場に置かれて書かれたのが、同じ平安時代の「蜻蛉日記」(こちらを) ととらえてもいいでしょう。当時の男女の関係や繊細複雑で高度な心理のひだがリアルに描かれています。

 世界には、現在でも一夫多妻制が普通の国など、私たちたとは異質な伝統・価値観・美的理念や思考法・感受性・行動原理を持つ人々が多く存在します。そして、民族や宗教や利権集団や国家をめぐる軋轢(あつれき)・対立・紛争・武力衝突・戦闘が日々続き、混沌に向っているように感じます。少し飛躍しますが、そんな現代を我々が生き抜いていく上でも、日本の古典文学だけではなく、時代や国や民族を超えて文学・映画・絵画・音楽を追体験することは有益なのではないでしょうか。


     筒井筒(伊勢物語)原文/現代語訳はこちら




筒井筒 問題解答(解説)

問1 a こそ(←「女を( a )」は「得め。」にかかり(連用修飾)、「め」は意志の助動詞「む」の已然形なので係り結びと考える。   b  (← 前後の文意から「聞き入れないで」ということになるので、打消し接続の「で」となる。打消の意味を持つ助詞は「で」のみ。)


問2 (1) せんざい (2) 庭先の植え込み (→ 7字。頻出の基本古語、インプット)

問3 ナ行変格活用の動詞「いぬ」の連体形「いぬる」の一部。 (ナ変動詞は「死ぬ」「往ぬ」の2語のみ。「いぬる」だったら連体形、「ぬる」だったら活用語尾と答える。あいまいな人、インプット。)

問4 e ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形の語。    f 奥ゆかしい 上品だ (← こちらがねたましくなるほど相手が優れているケースを評価する語。日本人が伝統的に重視してきたあり方。)

問5  解答例…幼なじみの男と女が、結婚することをお互いに望んでいたこと。

(29字。「本意」はホンイと読むのは現代語と同じ。歴史的仮名遣いでは、撥音〈ん〉が成立していない中古に倣い「ほい」と表記。もともとからの目的や望みの意。本文1・2文に、子供時代と大人になってからのことについて書かれています。字数制限内でまとめるトレーニングも。)

問6 ② (このまま女と)いっしょにみじめな生活をしていられようか。いや、そうはありたくない。(← 「いふかひなし」は、言っても何にもならない/言うほどのの価値がないー幼稚だ・つまらない・卑しい・みじめだ、などーの意。「あり」は生きる・生活するの意。「やは」は反語。)
   ③ 雲よ、隠してくれるな (← 「雲」は呼びかけ。「」は、後に終助詞「」と呼応して、…シテクレルナという禁止の意となる呼応の副詞。「…な」という言い方よりソフトで、誂えのニュアンス。)

問7(1) 髪上げ (← 女子が子供の髪型から大人の髪型にする儀式。「裳着(もぎ)」とともに現代の成人式に当たる。結婚適齢期となったことの告知ともなる。古典教養としてインプット!)
  (2) 解答例…「男」の求愛に対して、私にはあなた以外に結婚する人は考えられませんと応えること。 (←「君ならずして誰かあぐべき」は、髪上げをしてくれるのが「男」とも、「男」のために髪上げをするともとれるが、いずれにしても、前後のコンテクストから積極的に「男」の求婚に応じる意思表示と理解できます。)

問8(1) 「風吹けば沖つ白波」が「たつ」を導く序詞。「たつ」が、白波が「立つ」と「たつた山」の「たつ」の二つの意となる掛詞。
(2) 不安
( ← 月明かり・星明りを頼りに「たつた山」を越えている夫が、道に迷ったり、足を踏み外して大事に至ったり、野盗(山賊や追いはぎの類)に襲われたりしまいかと心配し無事を祈る思いが歌に詠まれている。よって、選択肢の中では「不安」を選ぶ。ちなみに、「白波」が盗賊の異名なので、盗賊に襲われることを心配していると解釈する人もいます。)

a.Q

A.解答例…夫はほかの女の所にいったのに、その夫のために身づくろいを忘れず、夜の山道を行く夫の無事を祈る姿に、妻のひたむきで純粋な愛に心打たれたから。

(「かなし」には 胸が詰まるようになる感情で、「愛し」と「悲し」の2系列ある。)

B.解答例…高安の女がしだいにはしたない振る舞いを見せるようになったことに男は失望し、さらに、女の自己中心的で恨みがましい心根が嫌になったから。

(河内の女は裕福な女、食事は侍女がよそおうもの。「君来むと」歌、男の身をあくまで思う妻とは対照的に自分中心ととらえた。)
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