【『源氏物語』とは】
源氏物語は、今から1000年余前(平安時代中期)に、藤原道長の娘である中宮彰子(しょうし)に仕える紫式部によって書かれました。先行する伝記物語(「竹取物語」など)・歌物語(「伊勢物語」など)・日記文学(「蜻蛉日記」など)の表現史的蓄積の上に、このような高度な表現を達成することができたといわれる物語文学です。
四代の帝(みかど)の七十四年間にわたって、五百名にものぼる登場人物を見事に描き分けて壮麗な虚構の世界を展開しています。
世界史上女流の文学者は、ギリシャ時代にサッポーという詩人が知られますが(こちらを)、以降「古代・中世を通してみるべき女流作家詩人は出現せず」、19世紀になって、イギリスでブロンテ姉妹や G.エリオットらの小説家が登場することになります。『ブルタニカ国際大百科事典』で「日本の平安時代に『源氏物語』の紫式部をはじめ,清少納言,和泉式部そのほかの偉大な才女が輩出したことは特筆すべき文学現象である。」とされていること、すなわち、わが国は世界史上で古代に女流がすぐれた文学作品を書き残している唯一の国であることを、当の日本人がよく知らない人がいるようで残念です。古典文学など、文化伝統に影響して日本人のアイデンティティの一部をなしていることの軽視は、教育、メディアに根がある問題です。さらに、若い人たちに人気のあるいわゆるユーチューバとかインフルエンサーが、そんなの(歴史や古典など)必要ネーなどと発信していること、この人たち ! 影響力強大で、心配だなあと思ったりします。
小柴垣のもと/日もいと長きに(若紫巻)1/2 原文/現代語訳は
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小柴垣のもと/日もいと長きに(若紫巻)2/2 原文/現代語訳は
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【高度な組みたて】
北山で可憐(かれん」な少女を垣間見(かいまみ)して心惹かれるというのは、『
伊勢物語』初冠(ういこうぶり)の段(
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春日野で元服したばかりの男が美しい姉妹を垣間見して心乱れるという型で書かれているとされています。ただここでは
、その少女が心寄せる義母藤壺によく似ているという設定で、後にこの少女を源氏のもとに引き取り、理想的な育て方をして、正妻格の妻(後の
紫の上)とするという展開になっていくのが独創的な組み立てになっています。
少女を見出したのが、読経(どきょう)をしている夕方の浄土方角にあたる西向きの部屋。源氏からは差し込む夕日によって中をよく見渡すことができ、中からは逆光のため源氏の姿は気づかれにくいなどのように、近代小説の優れた小説に比肩(ひけん)する、よく計算された設定となっています。
源氏は、まず短めの髪型の「尼君」に目を引かれる。そこへ子供たちが登場し、その中に並外れてかわいい女の子がべそをかいている。飼っていた雀が逃げたと言っている。「尼君」はその幼稚さを嘆くが、その言葉で女の子の母親(「故姫君」)が亡くなっていることが分かるように書かれています。若い女房が「あの子が(雀を』逃がしてしまって私が叱られることになったわ」と嘆きます。
つづいて、「尼君」はこの少女の将来を心配する歌を口にする。それに対して年配の女房が「尼君」を励ます歌を返します。
1000年前当時の上流のいかにもありそうな日常がリアルに、また、画面が思い浮かぶように巧みに、しかも。テンポよく書かれていて、自然と読み進んでしまうように書かれているといえます。
小柴垣のもと/日もいと長きに(若紫巻)1/2 原文/現代語訳は
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小柴垣のもと/日もいと長きに(若紫巻)2/2 原文/現代語訳は
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問1 aにしおもて cよそじよ
問2 据ゑ
(← ワ行下二は「飢う」「植う」「据う」の三語、必暗記。文意から「据う」を選び、「奉り」に接続するから連用形とします。)
問3 e犬君(← 困ったあの子が、そんなことをしでかして、という文脈。少女の遊び相手の女の子の名。)
問4 るる
(← 「さいなま」は「さいなむ」の未然形、ここでは「叱る」の意。あげられている助動詞で未然形接続は「さす・ず・む・る」となり、文意は「しかられる」という受身のフレーズ、よって、「る」を選ぶことになり、「こそ」に続くから連体形「るる」と確定。)
問5
① 見つくれ (← 「見つく」はカ行下二段活用、「こそ」の結びとなり已然形。一学年前期の知識です。)
② 烏なんかが見つけたら大変だわ (← 「もぞ」「もこそ」は危惧・懸念の気持ちを表す。~スルトイケナイ・シタラ大変ダ。)
問6
① なんとまあ、幼稚なことよ(← 「をさな」は「幼し」の語幹。〈いで〉+形・形動の語幹+〈や〉=感動・詠嘆表現 )
② 飼っていた雀が逃げたと言って泣いているから(← 直後にも「雀慕ひ給ふほどよ」ともある。)
問7 成長していく様子を見届けたい人よ
(← 「ゆかし」は現代語「奥ゆかしい」などと意味が異なり、見たい・聞きたい・知りたいの意。二段落目にも、光源氏の視点から「いみじく生ひ先見えて、うつくしげなるかたちなり」と描写している。)
問8 謙譲語で、光源氏から藤壺への敬意を表す。
(← 直後に「と、思ふにも」から光源氏の心中語。光源氏が少女にひきつけられている本当の理由に気づく、という展開。謙譲語だから「似る」の受け手=藤壺に敬意を表すことに注意。)
問9 平安時代・紫式部・彰子
a.Q
1 光源氏が「女子」を「尼」の顔に似ているところがあるので
(②直前「尼君の見上げたる(その顔に)に、(「女子」の顔が)少し
おぼえたる(似ている)ところあれば」とある。「
おぼゆ」は、思われる・思い出される・似るの意の重要古語。ここは光源氏の垣間見の場面、将来正妻となる人紫上を初めて見出す。少女は尼君の子であるようだと推測しているが、後に、孫であることがわかる。)
2 「西面」とは西向きの(西に開口部ある)部屋のことで、「夕暮れ」時なので外からは中がよく見えることになる。一方、「小柴垣」は東側にありそこから覗き見をしている光源氏の姿は部屋からは気づかれにくいことになる。
小柴垣のもと2/2 問題解答(解説)
問1A成長していく先のようすを見届けたい人よ
(←「ゆかし」は現代語では上品で優れているの意だが、古くは、見たい・聞きたい・知りたいの意。前に、光源氏の視点から「いみじく生ひ先見えて、うつくしげなるかたちなり」とも描写している。)
C先立たれなさった頃は
(← 「おくる」は、後に残される・先立たれるの意。「し」は過去の助動詞「き」の連体。)
問2①幼稚 ②分別
(← 「かからぬ人」とは、コンナ風デハナイ人の意。①は2文前の「はかなう」ではない人であり、前段の「をさな」くではない人と考える。②は1文後の「いみじうものは思ひ知り給へりし」=たいそう物事を理解なさっていた、&「(幼稚ではなく)、○○がある人」、&漢字2字の熟語…と考えます。読解力・思考力そして語彙力の筋トレです。)
問3 女子、尼
(← 季節が春なので「若草」が題材に使われている、「若草」は若い女性や少女の比喩として頻用され、ここでは「女子」を比喩。「若草」の縁語として「露」が使われていて、「露」は涙や命の比喩としてこれもまた頻用されました。ここでは、「今日明日にもおぼゆる命」と言っている尼君自身の比喩。)
問4 気弱なことはおっしゃらないでと、尼君をはげます気持ち。
(←27字。Dの嘆きの歌とEの励ましの歌、こういうふうに会話のようにやり取りする歌を贈答歌(3名以上だと「唱和歌」)と呼びます。季節やシチュエーションにふさわしい題材を詠み込むとか、答歌は贈歌の語句を取り入れるなどの作法があったようです。日常会話として、こんなにすごく高度で洗練された歌を本当やり取りしていたのでしょうか…?多分、日本人は現代でもそうだが、歴史上で最も言葉への物神崇拝が篤かったから…?)
問5 平安時代 紫式部 54
a.Q こなたはあらはにやあらむ。今日しも、端にありけるかな。この上の聖の方に、源氏の中将の、わらはやみまじなひにものしけるを、ただ今なむ聞きつくる。いみじう忍びければ、知らで、ここにありながら、とぶらひにも行かざりける。
( まず、
敬語の種類・敬意の方向は分かりましたか?「こなたはあらはにや
侍ら(丁・尼へ)む。今日しも、端に
おはしまし(尊・尼へ)けるかな。この上の聖の方に、源氏の中将の、わらはやみまじなひにものし
給ひ(尊・源へ)けるを、ただ今なむ聞きつけ
侍る(丁・尼へ)。いみじう忍び
給ひ(尊・源へ)ければ、知り
侍ら(丁・尼へ)で、ここに
侍り(丁・尼へ)ながら
まうで(謙・源へ)ざりける。」敬意はすべて
会話の話し手「僧都」から。
常体、次の青文字で確認。「こなたはあらはにやあらむ。今日しも、端にありけるかな。この上の聖の方に、源氏の中将のわらはやみまじないにものし○○けるを、ただ今なむ聞きつくる○○る。いみじう忍び○○ければ、知ら○○で、○○とぶらひにも行かざりる。」。敬体の接頭語、補助動詞は不要になり、「○○」で表記しています。この[応用問]は、動詞・補助動詞の区別、「なむ」の結びは連体形、接続による活用形の変化など総合力トレーニングになっています。)
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