初冠(ういこうぶり)
(伊勢物語)
~古代の😎おとな😎のかっこよさ
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『伊勢物語』は在原業平の一代記とされます。惟喬親王は天皇の第一子でありながら、母が藤原氏出なかったため帝位につけませんでした。業平とは親しい関係。高子は藤原長良の娘、のちに清和天皇の女御となりました。一時、業平と恋愛関係にあったが、身分の違いからその恋は許されないものでした。
初冠(伊勢物語)を現代語で
昔、ある男が、元服して、平城(へいじょう)の旧都、春日(かすが)の里に、そこを領有している縁(えん)で、狩りに行った。その里に、とても上品で優美な姉妹が住んでいた。この男は、その姉妹をのぞき見してしまった。思いがけず、こんなさびれた旧都にいかにも不似合いなさまで住んでいたので、男は心が乱れてしまった。男は、着ていた狩衣の裾を切って、それに歌を書いて贈る。その男は、しのぶずりの狩衣(かりぎぬ=貴族の普段着)を着ていたのだった。〈春日野に生いいでた若々しい紫草(むらさきぐさ)のようなあなた方を見て、この紫色のしのぶずりの狩衣(かりぎぬ)の乱れ模様のように、あなた方を恋いしのぶ心の乱れは限りも知られないほどです。〉
と、すぐに歌をよんで贈った。そうしたのは、男は折に合った風流なこととでも思ったのであろうか。
〈陸奥(みちのく)の国のしのぶずりの乱れ模様のように、あなた以外のだれかのせいで心が乱れ始めたのでしょうか、私ではないのに(このように心乱れ始めたのは、あなたのせいなのです)。〉
という古歌の趣向をふまえたものである。昔の人は、このように熱烈な風流事をしたのであった。
※ 初冠(伊勢物語) 原文+現代語訳はこちらを ※
古代の大人のかっこよさ
「初冠」では、色好みとしての業平の人生の出発として、元服(初冠)直後の美しい姉妹への行為が物語の冒頭としておかれていると考えられます。色好みは古代の大人のかっこよさの一つであり、物語の男主人公の不可欠の属性でした。
業平(なりひら)として理解されてきた男は、元服直後、ひっそりと静かな春日の里で、思いがけず、若く美しい姉妹をかいま見ます。激しく心を動かされた男は、すぐに着ていた信夫摺(しのぶずり)の狩衣(かりぎぬ)の裾(すそ)を切り取り、それに歌を書いて贈ります。まだあどけない少年の面影を残しながら、即座にませてしゃれた和歌を詠んで美しい姉妹の心を惹(ひ)こうとしたのです。背伸びをして、かっこいい大人としてふるまおうとしているわけです。業平(なりひら)の元服直後の色好みとしての行動です。
春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ限り知られず
(春日野に生いいでた若々しい紫草のようなあなた方を見て、この紫色のしのぶずりの狩衣の乱れ模様のように、あなた方を恋いしのぶ心の 乱れは限りも知られないほどです。)地名(春日野)・景物(春日野の若い紫草)・着物(春日野の若い紫草で染めたこの狩衣のしのぶずりの乱れ模様)を詠みこみ、その上、序詞(「しのぶの乱れ」を導く「春日野の若紫のすり衣」)、掛詞(「しのぶ」は〈しのぶずり〉と〈(恋を)しのぶ〉の、「乱れ」は〈心〉と〈狩衣〉)仕立ての、当意即妙で秀逸、いかにも風雅な歌でした。
「みやび」は大人のかっこよさ
男の初恋を語り終えた作者は、最後にこの男の色好みの行為を「いちはやきみやび(熱烈な風流事)」だと称賛します。「みやび」は「かっこよさ」という現代語に言い換えてもよいと思います。「伊勢物語」はこの〈みやび〉の心が形に現れた姿を物語にしたものだと言われています。色好みは〈みやび〉の一つでした。〈みやび〉とは、都会風に洗練され、上品で優雅な動作や状態を言うもので、平安貴族の理想でもあったといわれます。
なんと、1100年前の日本人が、その〈みやび〉が現在では廃(すた)れてしまったと嘆いている ! のです。「昔はよかった」という普遍的な言い方ともいえますが…。
現代の男女のあり方とはかなり異なる古代日本人の価値観ですが、初期の物語らしく、何とも初々しく抒情的な語り口だと思いませんか。
「伊勢物語」への道
日本語は文字を持たない言葉でしたが、平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文字表現ができるようになっていったのです(万葉仮名は除きます)。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。
文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした〈作り物語〉(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した〈歌物語〉(伊勢物語)の二つが成立したとされています。
「伊勢物語」の主人公は業平
「伊勢物語」は現在残っている最古の歌物語です。初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々しく抒情的な文章で書かれています。
初め在原業平の家集を母体として原型ができ、その後増補を重ねて、今日の形になったようです。
在原業平になぞえられる主人公「昔男(むかしおとこ)」の生涯が、一代記風にまとめられています。高貴な出自で、容貌美しく、色好みの評判高く、歌の才能に恵まれた人物の元服から死までのエピソード集です。ただし、業平とは考えられない男性が主人公の段もあります。
「業平と高子(伊勢物語)~后候補の姫君とのはげしい恋の顛末 /通ひ路の関守」はこちらから。
【参考動画 筒井筒(伊勢物語)】
投稿者のコメントです⇨「高校の古文の教科書にも採られ、有名な『伊勢物語』二十三段「筒井筒」をスライドショーにしてみました。 井戸の周りで遊んでいた幼馴染のカップルが、大人になったら・・・? ちょっとビターな恋物語です。 音楽は、TAM Music Factory http://www.tam-music.com/ 和風の中の曲を使わせて...」
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