初冠(伊勢物語)~古代の😎大人😎のかっこよさ

 初冠(ういこうぶり) 

 (伊勢物語) 

 古代の😎おとな😎かっこよさ  


【動画】超訳マンガ百人一首物語
第十七首(在原業平朝臣)

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『伊勢物語』は在原業平の一代記とされます。惟喬親王は天皇の第一子でありながら、母が藤原氏出なかったため帝位につけませんでした。業平とは親しい関係。高子は藤原長良の娘、のちに清和天皇の女御となりました。一時、業平と恋愛関係にあったが、身分の違いからその恋は許されないものでした。


  初冠(伊勢物語)を現代語で

 昔、ある男が、元服して、平城(へいじょう)の旧都、春日(かすが)の里に、そこを領有している縁(えん)で、狩りに行った。その里に、とても上品で優美な姉妹が住んでいた。この男は、その姉妹をのぞき見してしまった。思いがけず、こんなさびれた旧都にいかにも不似合いなさまで住んでいたので、男は心が乱れてしまった。男は、着ていた狩衣の裾を切って、それに歌を書いて贈る。その男は、しのぶずりの狩衣(かりぎぬ=貴族の普段着)を着ていたのだった。

 春日野の 若紫(わかむらさき)の すり衣(ごろも) しのぶの乱れ 限り知られず
 〈春日野に生いいでた若々しい紫草(むらさきぐさ)のようなあなた方を見て、この紫色のしのぶずりの狩衣(かりぎぬ)
の乱れ模様のように、あなた方を恋いしのぶ心の乱れは限りも知られないほどです。〉

と、すぐに歌をよんで贈った。そうしたのは、男は折に合った風流なこととでも思ったのであろうか。

 みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに 乱れそめにし 我(われ)ならなくに
 〈陸奥(みちのく)の国のしのぶずりの乱れ模様のように、あなた以外のだれかのせいで心が乱れ始めたのでしょうか、私ではないのに(このように心乱れ始めたのは、あなたのせいなのです)。〉

という古歌の趣向をふまえたものである。昔の人は、このように熱烈な風流事をしたのであった。


※ 初冠(伊勢物語) 原文+現代語訳はこちらを 

  古代の大人のかっこよさ

 この「初冠(ういこうぶり)」を高1の時初めて読んで、成人式を挙げた直後の男が、よその家をのぞき見して、その家にたまたまきれいな女性が二人いたので、いきなりラブレターを送るなんて、衝動的で迷惑至極なことなんだろうと思いました。しかし、現代の私たちの感覚・常識から見るとその通りだけど、1000年以上前の平安貴族の社会や習慣を理解して読み返してみると、私たちとはかなり異なる世界を経験できることになると気づくのでした。

 初冠とは元服(げんぷく)の別名。貴族社会で男子の成人式で、子供の髪型を成人男子の髪型に改め冠(烏帽子=えぼうし)をかぶることを言います。12歳前後に行われることが多かったといいます。
 現代の成人式にあたるものですが、年齢をはじめ儀式の内容も現代と異なりますが、意識的に大人にふさわしい言動をとろうとするのは現代と同じだったのではないでしょうか。
 そして「大人」とか、さらに、「かっこいい大人」とはどういうものと古代人は考えていたのか、その典型がこの「初冠」からうかがえるようです。

 「初冠」では、色好みとしての業平の人生の出発として、元服(初冠)直後の美しい姉妹への行為が物語の冒頭としておかれていると考えられます。色好みは古代の大人のかっこよさの一つであり、物語の男主人公の不可欠の属性でした。



 業平(なりひら)として理解されてきたは、元服直後、ひっそりと静かな春日の里で、思いがけず、若く美しい姉妹をかいま見ます。激しく心を動かされたは、すぐに着ていた信夫摺(しのぶずり)の狩衣(かりぎぬ)の裾(すそ)を切り取り、それにを書いて贈ります。まだあどけない少年の面影を残しながら、即座にませてしゃれた和歌を詠んで美しい姉妹の心を惹(ひ)こうとしたのです。背伸びをして、かっこいい大人としてふるまおうとしているわけです。業平(なりひら)の元服直後の色好みとしての行動です。

春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ限り知られず

(春日野に生いいでた若々しい紫草のようなあなた方を見て、この紫色のしのぶずりの狩衣の乱れ模様のように、あなた方を恋いしのぶ心の 乱れは限りも知られないほどです。)

 地名春日野)・景物春日野の若い紫草)・着物(春日野の若い紫草で染めたこの狩衣のしのぶずりの乱れ模様)を詠みこみ、その上、序詞(「しのぶの乱れ」を導く「春日野の若紫のすり衣」)掛詞(「しのぶ」は〈しのぶずり〉と〈(恋を)しのぶ〉の、「乱れ」は〈心〉と〈狩衣〉)仕立ての、当意即妙で秀逸、いかにも風雅な歌でした。


  「みやび」は大人のかっこよさ 

 の初恋を語り終えた作者は、最後にこの色好みの行為を「いちはやきみやび(熱烈な風流事)」だと称賛します。「みやび」は「かっこよさ」という現代語に言い換えてもよいと思います。「伊勢物語」はこの〈みやび〉の心が形に現れた姿を物語にしたものだと言われています。色好みは〈みやび〉の一つでした。〈みやび〉とは、都会風に洗練され、上品で優雅な動作や状態を言うもので、平安貴族の理想でもあったといわれます。

 なんと、1100年前の日本人が、その〈みやび〉が現在では廃(すた)れてしまったと嘆いている ! のです。「昔はよかった」という普遍的な言い方ともいえますが…。

 現代の男女のあり方とはかなり異なる古代日本人の価値観ですが、初期の物語らしく、何とも初々しく抒情的な語り口だと思いませんか。

※ 初冠(伊勢物語) 原文+現代語訳はこちらを 

  「伊勢物語」への道

 日本語は文字を持たない言葉でしたが、平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文字表現ができるようになっていったのです(万葉仮名は除きます)。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。

 文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした作り物語(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した歌物語(伊勢物語)の二つが成立したとされています。


  「伊勢物語」の主人公は業平

 「伊勢物語」は現在残っている最古の歌物語です。初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々しく抒情的な文章で書かれています。

 初め在原業平の家集を母体として原型ができ、その後増補を重ねて、今日の形になったようです。

 在原業平になぞえられる主人公「昔男(むかしおとこ)」の生涯が、一代記風にまとめられています。高貴な出自で、容貌美しく、色好みの評判高く、歌の才能に恵まれた人物の元服から死までのエピソード集です。ただし、業平とは考えられない男性が主人公の段もあります。


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