「枕草子」とは
現在、私たちが小説や評論とよんでいるものが、昔から存在していたわけではない事情は、『かぐや姫のおいたち(竹取物語) もっと深くへ! 』で少し詳しく書きました(こちらを)。
平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文字表現ができるようになっていったのです。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした〈作り物語〉(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した〈歌物語〉(伊勢物語)の二つが成立したとされています。
さらに、見聞きしたことや、自然・人事についての感想・考え・評価などを自在に記す〈随筆〉として、千余年ほど前清少納言によって『枕草子』が書かれた。中宮定子(ちゅうぐうていし)に仕えた宮中生活の体験や、感性光る「ものづくし」を自在に著わした「をかし」の文学と言われている。『枕草子』も、日本人独自の感受性、ものの見方、思考の組み立て方の原型の一つとなっているといえます。
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中宮(定子)の心遣い
「枕草子」では読み取りが難しいほうの章段です。ごく短く要約すると、
きれいな紙を手に入れると落ち込んでいても気が晴れると、中宮様や女房たちの前で語っていた。その後、思い悩むことがあり実家に下がっていた時、中宮様が上質の紙二十包み送ってくださった。私ごとき一使用人が言ったことを覚えて下さっていたなんて、感激で心が震えた。その紙で草子など作っていたら気持ちが晴れてきた。
と言うことになります。
しかし、この要約を読んで分かった気になるのは変。
作者が語る世界を映像・音声、さらに、香りなど五感を働かせるようにして、1000年前の後宮(こうきゅう)に入り込み追体験するつもりで読んでみてください。
清少納言のような女房にとっては雲の上の存在に等しい気高くも美しい中宮定子(ちゅうぐうていし)をイメージすること、大和と唐国(もろこし)の文化教養の裏づけ、高度で洗練された言葉や振る舞いの理解が必要とされます。
時代は今から1000年ほど前、一般庶民と貴族たちの生活の違い、「二月つごもりころに」(ここからは~)」で述べています(こちらを)。この列島の人々は多くは竪穴(たてあな)式住居と変わらないようなところで雨露をしのぐような生活をしていたのに、後宮では浮世離れそのものといえる生活をしていたのですね。でも、高度な文化は、ベルサイユ宮廷の文化と同じように、冨と力と時間が産み出すもの。また、その文化が次第に下降してサブ・カルチャーとなり、普遍的なものとなっていくのは世界史的な真実でもあるのです。また、それは現代でも先進国と途上国の文化の問題でもあるのです。
紙・莚(むしろ)について。そんなもので、なんで心が晴れたりするの…?と思いませんでしたか。紙も莚も高価な貴重品、ましてや、上質なものはごく一部の例外的な人が利用できるもの。紙、現代でも高価で利用できない地域の人々が大勢います。莚(むしろ)や畳など今では私たちにとって平凡極まりないけど、畳を部屋に敷き詰めるなどは室町時代ころから、高位の僧や一部の支配者のみができるようになった…庶民ができるようになって100年も経ていないのでは?
1000年前、後宮で中宮定子と女房たちがどんな会話を交わしていたのか、とても興味をひかれます。中宮定子の、身近に仕える女房たちへの心遣い、周りを和やかな雰囲気にしようとする 、堅苦しくはないが繊細高度なことばやふるまいに感嘆します。また、清少納言ーかわいがっていたとはいえ、一使用人ごとき者が言ったことを覚えてくださっただけではなく、病気をした折は、気のきいた言葉をそえて慰安の贈り物まで下さった…清少納言は心底感激しているのです。
「枕草子」では、気高く、美しく、優美で、教養があるだけではなく、とても繊細で心優しい人であったと中宮定子をまるで菩薩様か何かのように尊敬・崇拝し、自慢するように書かれているのです。
問1 a 願望の終助詞 b みちのくにがみ d ひとえ c ちょっとした
問2
①(中宮様が)お聞きあそばしたことがあったから下さるのです
(主語は「御前(中宮定子)」、「賜はする」などが省略されている。)
②書けそうにもないようすです
(「え(副詞)/書く(動四終)/まじげに(形動まじげなり用)/こそ(係助詞)」、「あらめ」などが省略と考えます。)
問3 鶴のように長生きできそうだとはあまりに大げさでしょうか
(直後に「侍らむ」などが省略。直前のお礼の歌につけたことば。鶴は千年生きるとされている。)
問4 清少納言 随筆 平安時代中期
a.Q
1 姨捨山の月/姨捨山の月は、いったいどんな人が見たのだろうか。
2 わろかめれ/(この紙は)上等ではなさそうなので、寿命経も書けそうもないようだが。
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