檸檬(梶井基次郎)2/2  もっと、深くへ !

 

「檸檬(れもん)」 本文は こちら から

「檸檬(れもん)」 本文 窪田等による朗読は こちら から


「檸檬」2/2 要約

  寺町通りの果物屋で、ふと私は檸檬(レモン)を見つけて買う。その一顆(いっか)の檸檬(レモン)が幸福と充実感をもたらした。しかし、丸善(こちらを)に入った私からその幸福感が消えてゆく。そこで積み重ねた画集の山の上に檸檬を置くと、緊張と調和がよみがえってくる。そして、丸善を出た私は、檸檬爆弾で丸善こちらを)が爆発する空想を楽しんだ。



誰も提示したことのない美を夢見る

  この小説、どんなタイプの小説か理解するため、次の『「檸檬」1/2』で書いたこと、もう一度読んでみてください。


 『この小説、ここから人生の指針や生きる励ましや教訓などを読み取ろうとしても無意味、そんなタイプの作品だと考えたほうがよいと思います。そういう読み方をしていくと意味不明 に陥ることになるでしょう。この作品、もともとそのようなものを書こうというモチベーションは皆無といえます。もっとも、どんなことからも教訓を得ることができるといえば、それ まで否定しませんが…。

   ふつう、人生上の教訓や指針を得るためにモーツアルトを聴いているのではないでしょう。それではなんのため聴くの…?

   死に至る可能性の強い病を得、借金返済を迫られ、そのこととは別に、鉛そのもののようにずーんと重い気持ちから逃れられない、それまで好きだった、洗練され技巧が尽くされた音楽も詩も我慢がならなくってしまう。いたたまらなくて、放浪することとなる。そんな現実の私を忘れさせてくれるものは… と書かれている心理、境遇、行動、風景、イマジネーションを受け入れ、自分も「私」に付き合い、「私」を可能な限り追体験することに意味があります。モーツアルトを聴くように、じっくりと読み味わってみてください…最後に「檸檬爆弾」の爽快さを感じながら、「活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩っている京極を下って行」くことができたら、この小説を本当に読んだことになります

 


 この小説、《既製の美しい音楽・詩=華麗で、洗練されていて、過剰で、権威性を持つ 》と対峙することができ、等価値となり、そして、今まで誰も示したことがないオリジナルの《美》を描き出そうとしていると考えていいでしょう。それは《みすぼらしくて美しいもの》とされ、その具体的なイメージとして、裏通り・花火・檸檬・画本の上に据えられた檸檬・檸檬爆弾の爆発があげられてるのです。それを楽しめるかどうか…です。太宰治「富岳百景」を読んでいる人は、太宰が、《富士》に《月見草》を対峙させたのとアナロジー(こちらを)になると考えればよいでしょう。ここでも二項対立こちらを)のパラダイムこちらを)、有効なんです



【長江春芳さんのチャンネル】梶井基次郎「檸檬」2021/02/15

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檸檬2/2 問題/ exercise へ


檸檬 2/2 問題解答(解説)

問1 乾物

(現在でも、酒屋、八百屋、魚屋、豆腐屋などなどと専門店がありますよね。それぞれが看板・陳列法・接客・値札など独特の味わいを持っています。ここでは乾物屋です。瑣末な知識のようだけど、作品の世界を理解するためには必須、スーパーの商品棚ではだめなのです。)



問2 解答例…夜の暗さの中で電燈の光を浴びて絢爛となっていたこと。

梶井が描き出そうとしているオリジナルな”美 ”のひとつです。イメージできましたか?)



問3 解答例…あんなにしつこかった「憂鬱」が、レモンという果実のたった一顆で紛らわされるなどとは、いぶかしいことであり普通ではありえないと思えるが、この場合は真実であったということ。

(85字。「檸檬」の持つ魔力を印象付けながら、次に、その檸檬を画集の城壁の上に据えつけるという話題にもっていくのです。)



問4 解答例…檸檬を手に入れて幸福だったから。(16字)


問5 解答例…画集の魅力を取り戻せるかどうか(ということ)を。


問6 私は手当た ~  据えつけた

(画集を積み上げ「その城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけ」という話題になります。)

檸檬2/2  問題a.Q 解答例

a.Q1 解答例…電灯の光が周囲が暗いためいっそう明るく見え、その暗さの中、店頭を絢爛と照らし出している眺めの美しさ。


a.Q2 解答例…病身で憂鬱な生活の中で心が大きく変化することはあり得ないと思っていた「わたし」が、ただ一個の檸檬によって全身が希求していたものを発見した驚きと喜び。
( ヒント〈こちらへ〉から⇒「始終私の心を圧えつけていた不吉な塊がそれを握った瞬間からいくらか弛んで来たとみえて、私は街の上で非常に幸福であった。あんなに執拗かった憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる――あるいは不審なことが、逆説的なほんとうであった。それにしても心というやつはなんという不可思議なやつだろう。その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。その頃私は肺尖を悪くしていていつも身体に熱が出た。…私の身体や顔には温い血のほとぼりが昇って来てなんだか身内に元気が目覚めて来たのだった。…実際あんな単純な冷覚や触覚や嗅覚や視覚が、ずっと昔からこればかり探していたのだと言いたくなったほど私にしっくりしたなんて私は不思議に思える」。キーフレーズ、キーワードに着目してまとめます。筋力が要求される問。)


a.Q3 解答例…以前から檸檬の色や形が好きであり、その日、その店に珍しく檸檬が出ていたから。
(読者としての解釈や主観を書く問ではありません。「その日私はいつになくその店で買物をしたというのはその店には珍しい檸檬が出ていたのだ。檸檬などごくありふれている。がその店というのも見すぼらしくはないまでもただあたりまえの八百屋に過ぎなかったので、それまであまり見かけたことはなかったいったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。――結局私はそれを一つだけ買うことにした。」から、簡潔にまとめます。)



a.Q4 解答例…埃っぽく、気詰まりな丸善における変にそぐわない気持ちがすっきりとし、澄んだ精神状態になった様子。
(画集を次々抜き出して見ることが、今は憂鬱な気持ちにさせる。が、積み上げた画集の上に檸檬を据えることで、無秩序な色彩を緊密に統一できたように感じた。直後にある「埃っぽい丸善の中の空気」と「檸檬の周囲だけ変に緊張している」の二項対立に着目して考えます。「冴えかえる」とは、光や音が澄み切ること、「わたしの」の心理表現としては…?と考えます。)


a.Q5 解答例…丸善の棚へ爆弾を仕掛けて大爆発させるという大胆不敵なアイディアだったから。
(「たくらみ」とは、辞書的には良くない計画の意。文脈上は、この後の「それをそのままにしておいて私は、何喰はぬ顏をして外へ出る」、「爆彈を仕掛て來た奇妙な惡漢」、「十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆發をする」とたどってとらえます。気詰まり・憂鬱の象徴的存在の丸善を爆破壊滅させることを想像し、「現実のわたし自身を見失う楽しむ解放感幸福感を手にするということになります。)


a.Q6 解答例…「私」には「丸善」が美の正統や知の権威の象徴と映り、「私」を「憂鬱」にさせるものであったから。

a.Q7 ア=想像  イ=大爆発  ウ=活動写真  エ=看板画
(「活動写真の看板画」についての一文。)



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