「舞姫」(森鷗外)3/5 もっと深くへ ! 

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意表突く書き出し

 「石炭をばはや積み果てつ。」という意表を突く書き出し。「五年前」と「こたび」を文章を書くという観点で対照させ、「こたび」文章が書けない理由を「ニル・アドミラリの気象」でとモダンな外来語をまずあげてそれを否定、次に、「我と我が心さえ変わりやすき」とありえそうなことをあげてそれを否定、最後に「人知らぬ恨み」とする運び方。また、「この恨み」を語りながらスイスからイタリアと訪れ、イタリアの港から出航しセイゴン港に停泊し帰国の途上にあることを同時に語ることとなっている。このように、心境と旅程と時間の経過を複層的に重ねて巧みに書かれています


どう読めるのか?

 重く深刻そうな印象が強い。国家や組織や家族制度といった封建思想に膝を屈するしかない個人主義・近代的自我の宿命という近代日本の課題というふうに読まれてきました。ここでは、もっと、深くへ !

 明治20年代の人々にとっては未知の、最先端の文化咲き誇る欧州大都とそこの風景・人・生活・文化を描こうとしたのでは、また、読者はその異国趣味を楽しんでいたのでしょう。「女優と交はる」ことを口実に免官されるが、実は、国家や官僚組織にとって豊太郎のような独立の思想を持つ者は危険分子とみなされたのだという展開で豊太郎とエリスの悲劇を描き、読者もエンターテイメントとしてそのドラマを楽しんでいたのではとも考えられます(当時は画像も普及していず、もちろん映画やテレビなどもありませんした)。
 今から120年以上前の日本人とその生き方や感情、そしてヨーロッパのようすを、文明開化の時代の読者の立場になって、さらに、豊太郎の境遇や体験を追体験するようにして、悲劇を楽しんでみるという読み方もあるのではないでしょうか。


豊太郎、許せない !…?⁇

 豊太郎は自分の出世のためエリスも二人の間にできた子供も捨てて帰国するなんて許せない ! という反発、現代の倫理観から当然の反応だと思います。しかし、豊太郎本人が「我が弱き心」「我が恥」「我が鈍き心」「特操なき心」と繰り返していて、この小説はその内実を描いているのですから、そのこと自体を非難しても意味はないのではと思います。
 なぜなら、犯した罪の告白を許せないと目を背け耳をふさぐのなら、告白そのものを否定することになるからです。告白された罪については深く考察することで、その告白が〈罪〉から〈救済〉に至ることだってあることを知るべきです。


 「色眼鏡(いろめがね)で見る」という慣用表現があります。偏(かたよ)った物の見方。先入観にとらわれた物の見方という意です。でも、「色眼鏡で見」ないことは不可能なことともいえます。この「舞姫」だって、現代日本パラダイムの「色眼鏡」を通して読むことから逃れられないわけですから。

 この小説は今から130年ほど前に書かれたものです。
 読者は、大学に進学するなど例外中の例外の時代、スパーエリート太田豊太郎とプロシヤの舞姫=踊り子の恋愛を巡る同時代小説として読んでいました。当時の人にとって未知の、ヨーロッパ随一の首都ベルリンという都市の景観、街路の様子、人々の生活、文化など興味深いものでした。また、19.20世紀は白人キリスト教国家が、アフリカ・中東・アジアの侵略収奪を競うあう世紀でもあり、日本や清(チャイナ)などには武力で脅しつけて不平等条約(こちらを)を結ばせ理不尽な利益を得ていました。

 日本は中央集権的国家の建設、憲法の制定の準備とともに、不平等条約の改訂〈治外法権の撤廃・関税自主権の回復〉も重要な外交課題でした。当時の読者はそんな明治20年代という時代を生きる人々でした。だから、可能な限りその時代に戻り、その時代の雰囲気や人々の感覚や常識や思考に近づき、さらに、エリート太田豊太郎と経験を共有するよう読む必要があるのです。(2018.10記)


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舞姫 Die Tanzerin #2
2009/09/20
ykazssチャンネル


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 舞姫 3/5 問題 解答(解説) 

問1 a憐憫 b  c 

問2 初めは全体的な印象から「年は十六、七なるべし」ととらえ、「かむりし巾を洩れたる髪の色」「着たる衣」「顧みたる面」「目」と次第にディテール(細部)をクローズアップしていること。

問31.ビクトリア座の座頭シヤウムベルヒのことで、父親の葬儀をあげる費用を出してあげるのと引き換えに客の相手をしろと迫ること。
(後に「いやしき限りなる業」とあり、娼婦として客をとれということです。)

  2.シヤウムベルヒのいうことを受け入れないエリスをたたいた。

問4 戸を激しくたて切りつ
(入口のドアを勢いよく閉めたということ。)

問5 
(直前に「十五のとき舞の師の募りに応じて」とある。現在では考えにくいが、舞姫(踊り子)など芸能にかかわる職業は当時は卑しいとされていた。)

問6 不時の免官

問7 苦境から抜け出せる機会。

問8 昔の法令の枯れ葉・旧業

問9 活発々たる政界の運動、文学、美術にかかはる新現象の批評(など)
(問8・問9は、アカデミズムとジャーナリズムの二項対立と考えればわかりやすい。「学問」によって名誉回復を図りたいという願望を果たすことができない焦燥と、同時に、「民間学」への自負心というアンビバレントな心理が語られているカ所。)

 舞姫 3/5 問題 a.Q 

1 豊太郎は少女に心奪われながらも、自分を客観的に観察するだけの冷静さを保っていたということ。

2 いやしき限りなる業

3 エリスは貧窮に身を堕としがちな舞姫の身でありながら、そのおとなしい性質と父の守護とによって身を堕とさずに済んできたのであり、幼いころからの読書への関心から、あくまで本の読み方を学びに豊太郎の部屋に通ってきていたので。

4 豊太郎がエリスと離れられない仲となったこと。

5 若い失業者や、無聊(ぶりょう)に時間をつぶす老人、仕事の合間に油を売っている商人たちが一日中たむろしてる喫茶店。 


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