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果たすべき使命

 結婚は現代でも家族婚が主流です(夫婦別姓がよいという人たちもいます)。同じ東アジアの中国や韓国などの宗族社会の結婚(結婚しても父親のファミリーネームである点は、夫婦別姓論者と共通することになりますが)とは相違すると考えてもよいでしょう。

 しかし、家族婚といっても、男女両者の合意に基づいて婚姻が成立し、幸せな家庭を築いていくものといのは戦後七十余年の、歴史的には例外的なあり方です。戦前は婚姻には家長の許可が必要で、特に格式の高い家柄では、血統存続を目的として、親が婚姻相手を決めてしまうことも多かった。幼いころに結婚相手を決めてしまう許嫁(いいなずけ)という習俗も珍しくなかった。結婚とは〈家〉の維持、継続、発展を第一義的な目的とするものでもあったわけです。


 そんな時代、父を早く失った豊太郎は
太田家の再興こそが最重要の使命であり、母親の悲願でもあった。幸い豊太郎は超優秀な能力の持ち主であるうえに努力も怠ることなく、学校では常に主席を飾り、大学では創立以来の秀才と讃えられ、キャリアの国家公務員となった。つまりスーパーエリートである。国家の安定・発展に身命を賭して尽くすという重い責任を課せられた存在である。さらに、豊太郎は政治家になる野心も抱いていました。
 そんな意味で、豊太郎が恋愛をし結婚する、しかもその相手が、外国の、しかも、踊り子とというのは、常識的には考え難いことであったわけです。



選択

 「舞姫」とは踊り子の雅語的言い方。現代の先進国では考えにくいが、踊り子の多くが娼婦を副業としていると考えるのは常識であった。日本では「遊女」「芸妓」「芸子」「芸者」と呼ばれるものもその一種であったと考えればよい。売買春は日本では1957年になって、人としての尊厳を害し,性道徳に反し,社会の善良の風俗を乱すものであるとの観点から法的に禁止された。つまり、それまでは合法だったわけです。

 先に述べたように現在では考えにくいが、当時は踊り子は娼婦も兼ねる者もいる、卑しい職業とされていた(本文で「恥ずかしき業(わざ)」と言われています)。そんな踊り子と豊太郎のようなエリートが、恋に落ちて結婚するなど常識的には考えにくいものでした
 豊太郎はエリスとの関係を理由に免職されたのです。さらに豊太郎は帰国することも断ったのです。
 
 結局、豊太郎はベルリンの貧民街でその日その日の生活費を得るためにあくせくと働かざるをえなくなり、さらにまた、そのずば抜けた能力を生かして国家のために力を尽くすこともできず、そしてさらに、豊太郎の悲願であった太田家の再興もできないまま、海の藻屑と終わってしまう道を選んだことになる親友相沢がいなかったらそうなっただろう。




 「ああ、相沢謙吉がごとき良友は世にまた得難かるべし。されど我が脳裏に一点の彼を憎む心今日までも残れりけり。」という結末、この小説を読んだ者に同調も批判もできない結語として、喉に刺さった小骨のように残り続けるのではないでしょうか。


 「色眼鏡」外せましたか? (2018.10記)


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舞姫 Die Tanzerin #2

2009/09/20

ykazssチャンネル



 舞姫 4/5 問題 解答(解説) 

問1 a 謁  b 罵  c 覆  d 鈍  e 


問2 妊娠の兆候をうかがわせるようなエリスの身体の変調が起こったのではなくても (「さらぬ」はソウデナイの意、直前にエリスの悪阻〈つわり〉について述べられている。「さへ」は副助詞、ある事物・状態を取り立てて強調し、他を当然のこととして暗示、または類推させる…ダッテ。…デサエ。)


問3 解答例…天方伯が豊太郎のことを、女性関係の問題で免官されるような志の低い人物であるという先入観を持っていること。
(「成心」とは先入観・思い込み。「己もまた伯が当時の免官の理由を知れるが故に、強ひてその成心を動かさんとはせず」の文脈で考える。)


問4 解答例…軽率にもエリスとの関係清算を相沢に口約束した、自らの背信の心に覚えず戦慄したから
(ここは、少し複雑。ホテルの「大いなる陶炉」と豊太郎の「薄き外套」の対比によって、解答例プラス、再び戻っていくエリスとの、前途不安でおぼつかない日常への荒涼とした思いが入り混じっていることも書けてればなお可。)


問5 どうして命令に従わないことがありましょうか、もちろん従います。
反語は強調表現の一種。)


問6 エリスが妊娠していることを
(「心づかでありけむ」は、気づかずにいたのであろうの意。)


問7 解答例…豊太郎の帰国の際には、エリスも後を追っていくという強い思いに対して、母のそれを思いとどまらせようとする思いが衝突して、エリス親子はひどく争ったこと。

問8 解答例…天方伯が帰国に際し、豊太郎をともに連れて帰ろうということ
(直前の「本国に帰りて後もともにかくてあらば」という相沢の言葉、本国でこのように一緒に仕事ができればいいねと、天方伯の意向を明言することを避けて暗示的に語っている。)


問9 解答例…エリスを捨てて帰国するのか、それとも名誉回復と出世をあきらめてこのままドイツに残るのかということ
(つまり、「やむなく愛情を捨て、立身出世への道をえらんだ」というこの小説のテーマとなっていくもの。)

 舞姫 4/5 a.Q

1 解答例…
 ① 豊太郎が大臣の前で恥をかいてはならないという気配りと、自分たちの前途が開けるのではという期待感。
(←「かはゆき独り子を出だしやる母もかくは心を用ゐじ。大臣にまみえもやせんと思へばならん、エリスは病をつとめて起ち、上襦袢もきはめて白きを選び、丁寧にしまひ置きしゲエロツクといふ二列ぼたんの服を出だして着せ、襟飾りさへ余がために手づから結びつ。」)

 ② 正装の豊太郎を目にして、自分との出自の違いを思い知らされる。
(←「否、かく衣を改めたまふを見れば、なにとなく我が豊太郎の君とは見えず。」出身階級・学歴・本来の社会的地位の違いと距離感。)

 ③ 豊太郎は富貴を手に入れるべき人であり、そのうち別離の運命にあるのではという一抹の不安。
(←「よしや富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ。」)

 2 女性問題で免職されたこと。
(←「失行」とはあやまちの意。この後の相沢の「意を決して断て」から明らか。)

 
  3 解答例
 ① エリスには座頭の言うことを聞いて客を取る気持ちがないと思っているから。(「エリスが座頭の言葉に従わなかったから」でも。)

 ② 妊婦の身でほどなく踊れなくなるから。
(「妊娠したから」でも。「踊り子」候補はいくらでもいた時代。)

 
 4 解答例…エリスが豊太郎とともに日本に行くこと。
(「よしやいかなることありとも、我をばゆめ捨てたまひ。母とはいたく争ひぬ。…我が東に行かん日には…大臣の君に重く用ゐられたまは」から、豊太郎が大臣から重用され帰国する際はエリスもともに行くことがと理解される。)

 
 5 解答例…年長者の言うがままに動く所動的な自分ではなく、独立した思想をもって自らの好尚に忠実に生きること。
(「時来たれば包みても包み難きは人の好尚なるらん…ただ所動的、器械的の人物になりて自ら悟らざりしが」「人のたどらせたる道を、ただ一筋にたどりしのみ」などが思い浮かべられる。)
              舞姫 4/5 問題/exercise 

              舞姫 5/5 問題/exercise 

 舞姫 5/5 問題 解答例(解説) 

問1 a    b    c ねんご   d ののし   e はか

問2 あなたが大事にしている学問の深い内実を自分は量りようもないが
(「」は「こそ」の結びで、打消しの助動詞 ず 已然。)

問3 解答例…相沢が大臣に、豊太郎には帰国に不都合となる人間関係はないとこたえたこと。 (直接には直前の「滞留のあまりに久しければ、さまざまの係累もやあらんと、相沢に問ひしに、さることなしと聞きて落ちゐたりとのたまふ」に対応。「係累」があったら大臣は豊太郎を日本に帯同する話はしないことになる。)

問4 解答例…自分の名誉や出世のためエリスを捨てようとしているから。
(二段に「ああ、なんらの特操なき心ぞ」ともある。四段後に、「余が相沢に与へし約束を聞き、またかの夕べ大臣に聞こえ上げし一諾を知り」「我が豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺きたまひしか」というエリスの言葉もある。これまでのあらすじも考慮して簡潔にまとめます。)

問5 「承りはべり」 (第一段の大臣の「我とともに東に帰る心なきか」という誘いに、豊太郎が「承知しました」と答えた個所。)

問6 エリスが豊太郎の病床を離れなかったこと。
(ここでは直前「余が病床をば離れね」。)

問7 生ける
(「生ける屍〈シカバネ〉」とは、肉体的に生きているだけで、精神的には死んだも同然の人の意。)


 舞姫5/5 a.Q  
 
1 解答例…私はこの広く果てしないヨーロッパの大都市(ベルリン)で無為のまま終わってしまうのかという思いが、衝動的に沸(わ)き起こってきた。
(「海に葬られ」るは、「海の藻屑〈とるに足らないもの〉となる」に類する表現と考えられる。)

 2  解答例…豊太郎が自分を捨てて日本に帰るという約束を大臣にしたことを知って、豊太郎に裏切られたと分かったことによるショック。

 3 解答例…相沢が豊太郎の知らない間にエリスに帰国の事実を告げ、彼女を精神的に混乱させて発狂させたこと。
 
  解答例…相沢が友情からすすめてくれたことが、心ならずもエリスを見捨てる事態を導くものであったこと。


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