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「伊勢物語」への道

 日本語は文字を持たない言葉でしたが、平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文字表現ができるようになっていったのです(万葉仮名は除きます)。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。

 文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした作り物語(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した歌物語(伊勢物語)の二つが成立したとされています。


「伊勢物語」の主人公は業平



 「伊勢物語」は現在残っている最古の歌物語(うたものがたり)です。初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々しく抒情的な文章で書かれています。

 初め在原業平(ありわらのなりひら)の家集(かしゅう)を母体として原型ができ、その後増補を重ねて、今日の形になったようです。

 在原業平(ありわらのなりひら)になぞえられる主人公「昔男(むかしおとこ)」の生涯が、一代記風にまとめられています。高貴な出自(しゅつじ)で、容貌美しく、色好みの評判高く、歌の才能に恵まれた人物の元服から死までのエピソード集。ただし、業平(なりひら)とは考えられない男性が主人公の段もあります。


伊勢物語「初冠」朗読|原文・現代語訳
2020/08/04


初冠(伊勢物語) 原文/現代語訳はこちら


元服したての雅(みやび)の行為

 この「初冠(ういこうぶり)」を高1の時初めて読んで、成人式を挙げた直後の男が、よその家をのぞき見して、その家にたまたまきれいな女性が二人いたので、いきなりラブレターを送るなんて、衝動的で迷惑至極なことなんだろうと思いました。しかし、現代の私たちの感覚・常識から見るとその通りだけど、1000年以上前の平安貴族の社会や習慣を理解して読み返してみると、私たちとはかなり異なる世界を経験できることになると気づくのでした。

 初冠とは元服(げんぷく)の別名。貴族社会で男子の成人式で、子供の髪型を成人男子の髪型に改め冠(烏帽子=えぼうし)をかぶることを言います。12歳前後に行われることが多かったといいます。
 現代の成人式にあたるものですが、年齢をはじめ儀式の内容も現代と異なりますが、意識的に大人にふさわしい言動をとろうとするのは現代と同じだったのではないでしょうか。
 そして「大人」とか、さらに、「かっこいい大人」とはどういうものと古代人は考えていたのか、その典型がこの「初冠」からうかがえるようです。

 「初冠」では、色好みとしての業平の人生の出発として、元服(初冠)直後の美しい姉妹への行為が物語の冒頭としておかれていると考えられます。色好みは古代の大人のかっこよさの一つであり、物語の男主人公の不可欠の属性でした。


「昔男(むかしおとこ)」のそんな〈色好み〉の人生の出発として、元服(=初冠)直後の美しい姉妹への行為が物語の冒頭としておかれていると考えられます。

 は、ひっそりと静かな春日の里で、思いがけず、若く美しい姉妹をかいま見る。激しく心を動かされたは、すぐに着ていた信夫摺(しのぶずり)の狩衣(かりぎぬ)の裾(すそ)を切り取り、それに歌を書いて贈る。まだあどけない少年の面影を残しながら、即座にませたしゃれた和歌を詠んで美しい姉妹の心を惹(ひ)こうとしました


春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ限り知られず

(春日野に生いいでた若々しい紫草のようなあなた方を見て、この紫色のしのぶずりの狩衣の乱れ模様のように、あなた方を恋いしのぶ心の 乱れは限りも知られないほどです。)


 地名春日野)・景物春日野の若い紫草)・着物(春日野の若い紫草で染めたこの狩衣のしのぶずりの乱れ模様)を詠みこみ、その上、序詞(「しのぶの乱れ」を導く「春日野の若紫のすり衣」)掛詞(「しのぶ」は〈しのぶずり〉と〈(恋を)しのぶ〉の、「乱れ」は〈心〉と〈狩衣〉)仕立ての、当意即妙で秀逸、いかにも風雅な歌であった。

 

 の初恋を語り終えた作者は、最後に「いちはやきみやび」だと称賛する。「伊勢物語」はこのみやび〉の心が形に現れた姿を物語にしたものだと言われています。〈みやび〉とは、都会風に洗練され、上品で優雅な動作や状態を言うもので、平安貴族の理想でもあったようです。

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超訳マンガ百人一首物語
第十七番(在原業平朝臣)

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『伊勢物語』は在原業平(ありわらのなりひら)の一代記とされます。惟喬親王(これたかのみこ)は天皇の第一子でありながら、母が藤原氏でなかったため帝位につけませんでした。業平とは親しい関係。★高子(たかいこ)は藤原長良の娘、のちに清和天皇の女御となりました。一時、業平と恋愛関係にあったが、身分の違いからその恋は許されないものでした。


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初冠 問題解答例(解説)

問1①ういこうぶり(「ういかぶり・ういかむり・ういこうむり」とも読みます。男子の成人式、12から16歳にかけて行われていた。元服のこと。)
  ② 裳着(モギと読みます。)

問2 思いがけず、(さびれた)旧都にいかにも不似合いなさまで住んでいたので(「ふるさと」「はしたなし」は現代語とは意味が異なり頻出する重要古語。、「ければ」は確定条件であることに注意してください。魅力的な女性は都にいるものという常識・思い込み・前提が裏切られ、いっそう心が掻き立てられたと読み取れます。)

問3 「しのぶ」が布の染色の一種「忍ぶ摺り」の「忍ぶ」と、「恋い慕う」という意味の「偲ぶ」の両意に掛けられている。(「しのぶの乱れ」が「しのぶずりの乱れ模様」と「恋いしのび乱れる心」との掛詞。)

a.Q 解答例(解説)

(1)・場面にふさわしい古歌を踏まえた歌を送ったこと。(23字)      

   ・歌を送る際の手段が気が利いていたこと。(19字)

   ・時をおかず機敏に歌を送ったこと。(16字)

(2)「みやび」の心が衰えてしまった現状を残念だ思う〈思い〉。

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