通ひ路の関守(伊勢物語)もっと深くへ !

「伊勢物語」への道

 現在、私たちが小説や評論とよんでいるものが、昔から存在していたわけではない事情は、『かぐや姫のおいたち(竹取物語)~わが国で最も古い物語の誕生』で少し詳しく書きました(こちらを)。


 平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情表現や情景描写の文字表現ができるようになっていったのです。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。

 文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした作り物語(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した歌物語伊勢物語)の二つが成立したとされています。


「伊勢物語」の主人公は業平

 「伊勢物語」は現在残っている最古の歌物語です。初期の日本語散文らしさを感じさせる、飾り気がなく初々しく抒情的な文章で書かれています。

 初め在原業平の家集を母体として原型ができ、その後増補を重ねて、今日の形になったようです。

 在原業平になぞえられる主人公「昔男(むかしおとこ)」の生涯が、一代記風にまとめられています。高貴な出自で、容貌美しく、色好みの評判高く、歌の才能に恵まれた人物の元服から死までのエピソード集です。ただし、業平とは考えられない男性が主人公の段もあります。




超訳マンガ百人一首物語第十七首(在原業平朝臣) 2020/11/09


        通ひ路の関守(伊勢物語)原文/現代語訳はこちらへ。


業平と二条の后高子との恋

 この段に先立つ第三段で、「二条のきさき(高子)」がまだ入内(じゅだい)していない時期に、「をとこ」が「おもひあらばむぐらのやどにねもしなんひしきものにはそでをしつつも」(訳はこちらを)と恋歌を贈ったとあった。続く第四段では、先の「をとこ」と想定できる者が、「二条のきさき(高子)」が入内(じゅだい)していない時期通っていたが、睦月(むつき 1月の異名)の十日頃(初春です)に突然姿を消してしまった。入内(じゅだい)したとほのめかすように書かれている。翌年も同じ時期に男は同じ場所を訪れ、「月やあらぬ春は昔の春ならむ我が身一つはもとの身にして」(訳はこちらを)と詠んだとあります。

 

 関守(せきもり)」とは関所の番人の意。比喩的に男女の恋の通い路をはばむものを言う。二条の后高子(たかいこ)は、入内する前、在原業平(ありはらのなりひら)と恋仲にあったと思われていたようだ。高子(たかいこ)の兄藤原国経・基経は業平を警戒していたことになる。

 この段では、高子(たかいこ)の兄二人は、后がね(后候補)の高子(たかいこ)と業平の仲を阻もうとしたが、業平からの歌に心を痛め悲しむ高子(たかいこ)をかわいそうに思って、ある時期二人の仲を許していたということになる。

 業平歌の「人知れぬ…」と業平と高子(たかいこ)が入内(じゅだい)する前恋仲にあったといううわさの二つによってこの段は語られていることになるが、業平が色好みだと思われていたことと、「人知れぬ…」の歌が物語を喚起し紡がせる力を持つていることがこの段を書かせ、説得力あるものにしていると言えよう。

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通ひ路の関守 問題解答例(解説)

問1 据う ワ行下二段活用の動詞は「植(う)う」「飢(う)う」「据(す)う」の3語のみと覚えておく必要あり。)

問2 解答例…人目につかないように通う所なので、門から入ることもできないで

(「みそかなる」は、人目につかないようにするさま、ここでは女の家へ通う様子を言う。「なれ(断定の助動詞「なり」の已然)+「ば」→確定条件で~ノデ・カラ。「え入らで」は、「(副詞)……で(打消接続の接続助詞)」から、入ることができないで。必出題。)

問3①「うち」は接頭語。「も」は強意の係助詞。「寝(ね)」はナ行下二段活用の動詞「寝(ぬ)」の連用形。「な」は強意・確述の助動詞「ぬ」の未然形。「なむ」は他への希望・誂えの終助詞。

 ②どうかぐっすり寝てしまってほしいものだ

(「なむ」は、他者が何かすることを望む気持ちを表す終助詞、…テホシイ・テモライタイ、未然形に接続する。必出題。)

問4 解答例…男の「人知れぬ」の歌を知って、男の自分を思う気持ちの深さを身にしみて感じ、自分も深く男を愛していることを実感して、逢えなくなったことがつらく悲しかったから。

(本文には、男と女の心情そのものについては書かれていません。「人知れぬ」の歌と女の反応がそれらを語っているといえますし、元々よくに知られていた「人知れぬ」の歌がこの男と女の物語を作らせたともいえます。)

a.Q

1 ア イ

アの「いと忍びて」=「ひどく人目を避けて」と、イの「みそかなる」=「ひそかに通うところ」が正解となります。

2 イ キ

「寝(ね)」はナ行下二段活用の動詞「(ぬ)」の連用形。「な」は強意・確述の助動詞「ぬ」の未然形。「なむ」は他への希望・誂えの終助詞

 ア…ナ変動詞の「往(い)ぬ」未然の活用語尾「な」+推の助動「む」

 イ…「知ら」は四段動詞の未然形。未然形に接続する「なむ」は他への希望・誂えの終助詞 

 ウ…「ける」=結び係りとなる係助詞の「なむ」。

 エ…「まかり」はラ行四段動詞「まかる」の連用形。連用形に接続する「なむ」は、強意・確述の助動詞「ぬ」の未然形「な」+推量・意志「む」

 オ 「なり」がラ行四段動詞「なる」の連用形。エと同じ。

 カ 結びの省略のケース。「ある」「はべる」などが省略されている、係助詞。

 キ 「寄せ」はサ行下ニ動詞なので、未然形も連用形も「寄せ」。文意から識別します。「打ち寄せる波よ」と「恋しく思う人を忘れることができるという忘れ貝を、岸辺に降りて拾おうと思うので」の間に入るもの。「なむ」がイのケースなら「(忘れ貝を)打ち寄せて欲しい」、エのケースなら「(忘れ貝を)打ち寄せるだろう」となり、イの用法となる。よって、この問の正解となる。

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