木の花は(枕草子 三十七段)もっと深くへ !

 

「枕草子」とは

 現在、私たちが小説や評論とよんでいるものが、昔から存在していたわけではない事情は、『かぐや姫のおいたち(竹取物語) もっと深くへ! 』(こちらを)で少し詳しく書きました。

 平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文章表現ができるようになっていった(万葉仮名時代は別にします)です。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした〈作り物語〉(「竹取物語」など)と、当時の貴族社会で語られていた歌の詠まれた背景についての話を文字化した〈歌物語〉(「伊勢物語」など)の二つが成立したとされています。

 さらに、見聞きしたことや、自然・人事についての感想・考え・評価などを自在に記す随筆として、千余年ほど前清少納言によって『枕草子』が書かれた。中宮定子(ちゅうぐうていし)に仕えた宮中生活の体験や、感性光る「ものづくし」を自在に著わした「をかし」の文学と言われている。『枕草子』も、日本人独自の感受性、ものの見方、思考の組み立て方の原型の一つとなっているといえます。


三種の章段

 内容から三種の章段で分類されています。

類集(るいしゅう)的章段…「山は」「市は」や「すさまじきもの」「にくきもの」などの形で始まるもの。ものづくし

日記的章段…特定の場所・時に清少納言が見聞きしたことなどを記録したもの。(回想的・実録的)章段とも。

随想的章段…自然や人事についての感想を書いたもの。


 「木の花は」は、類集的章段になります。

花橘

順序

 大まかにとらえると、初春から初夏にかけて咲く順番にあげてある
 最初の紅梅(チャイナ産)、(日本産)の対比を含めて、梅・桜・藤・橘は、完全に花開く順。はチャイナの故事をふまえた対比で、宮中の御殿の対比も念頭にあるのかもしれない。(おうち。「せんだん」の古名)の紫の花の色との関連。


批評のことば

 本文中で多くの批評のことばが使われています。「ほめことば」と「けなしことば」に分類できます。

ほめことば=めでたし(すばらしい)・をかし(趣がある)・おぼろけならじ(なみなみではない)・心ことなり(格別だ)

けなしことば=すさまじ(興ざめだ、つまらない)・にくげなり(不格好だ、みっともない)

 平安時代の人は、現代のように数え上げられないほどの娯楽などなかったので、美しく変化する自然に深い関心を持ち、注目して、楽しんでいたのでしょう。ここでは、とくに、清少納言の観察力、対象をとらえる能力、長文・短文を効果的に織り交ぜることなどにみられる表現力が存分に発揮されていると言えるでしょう。

 1000年前の人の文章、特に古代の女性の文章が残されているのは世界史上この日本だけです。その幸運を味わいながら読み味わいましょう(こちら)。


【参考】『枕草子』
春はあけぼの(第一段)
枕草子 水野ぷりん
               
【参考】『枕草子』
香炉峰の雪(第二百八十四段)
枕草子』第284段
香炉峰の雪(こうろほうのゆき)~
 
木の花は 問題解答/解説

問1aうづき

  bほんのちょっとした ぎょうぎょうしい 大仰過ぎる

  c白楽天

(cは白居易も可。楽天は字〈あざな〉。『楊貴妃の帝の御使にあひて泣きける顔に似せて、「梨花一枝、春、雨を帯びたり」などいひたる』は白楽天作『長恨歌』(こちらを)の一節について述べた箇所。『長恨歌』も出題される。)


問2解答例…①(その上、)ほととぎすにとってゆかりの深いもの(で、古歌などに詠まれている)とまで思うからであろうか、あらためて言うまでもな(くすばらし)い。

(ほととぎす〈名〉+の〈格助〉+よすが〈名〉+と〈格助・引用〉+さヘ〈副助・添加〉〉+おもヘ〈動・ハ四・おもふ・已然〉+ば〈接助〉+〈助動詞・断定・なり・連用〉+〈係助詞・疑問〉+、なほ〈副〉+さらに〈副〉+いふ〈動・ハ四〉+ベう〈助動詞・当然・べし・連用「べく」のウ音便〉+も〈係助詞〉+あら〈動・ラ変・あり・未然〉+ず〈助動詞・打消・ず・終〉)

  解答例…③とくに選んでこの桐の木にだけとまるというのが、本当に格別な気がする

(えり〈動・ラ四・える・用〉+て〈接助〉+これ〈代名〉+に〈格所・場所〉+のみ〈副助・限定〉+ゐる〈動・ワ上一・ゐる・終〉+らん〈助動詞・伝聞・らん・連体〉+、いみじう〈形・シク・いみじ・「いみじく」のウ音便〉+心ことなり〈形動・ナリ・心ことなり・終〉)


問3(イ)解答例…おもしろみのないもの(10字)/興ざめなもの(6字。「よにすさまじきものにして…たとひにいふ」が、当時の日本人の「梨の花」観。それを要約する。)

  (ロ)解答例…この上もなくすばらしいもの(14字。「もろこしには限りなきものにて、文にもつくる」がもろこしの「梨の花」観。それを要約する。当時、鮮卑族の建国した唐は世界最先端の文明・文化を誇り、日本人はそれを模範としていました。)

  (ハ)解答例…他に例がないくらいすばらしいもの(17字。「いみじうめでたき」に着目。)


問4解答例…④「あふち」という名の「あふ」という言葉どおりに、五月五日(端午の節句の日)にタイミングが「あふ」ように開花するから

(五月五日は、楝(栴檀)の葉でちまきをくるんで楚の大臣であった屈原を供養する日であった。もう一つ、「かれがれ」が「離れ離れ」の掛詞となっていて、「五月五日にあふ」との対照もきかしていると考えても良い。「かれがれ」の掛詞は和歌で頻用される修辞。言葉の上での遊びであり、しゃれを楽しむように書かれています。)



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