弓争い(大鏡)~道長と伊周、ライバル意識の火花💥💥

弓争い

「大鏡」

~道長と伊周、ライバル意識の火花💥💥

【参考画像】都良香邸で弓を引く道真
北野天満宮縁起絵巻(承久本)

【参考動画】弓道は、永遠に、求道。
Kyudo, an endless search for the truth.

  道隆・伊周父子と道長 

 藤原氏の関白の地位をゆるぎないものとした兼家に、道隆(みちたか)道兼道長という子息がいました。まず、道隆が関白の地位を継ぎ、その子息伊周(これちか)道隆を後ろ盾にしてとんとん拍子に出世し叔父の道長をしり目に内大臣となりました。しかし、道隆の病死後、道長との権力闘争の末、道隆の一家は瞬(またた)く間に衰退してしまうことになりました(こちらを)。



  弓争ひ(大鏡)現代語による縮約 

弓争ひ/競射/道長と伊周(大鏡)の原文・現代語訳こちら

 伊周(これちか)公が、父道隆(みちたか)公邸の南院で弓の競射(きょうしゃ)をなさった時、道長(みちなが)公が思いがけずおいでになりました。道隆公はいぶかしんでいらっしゃいましたがもてなしなさり、道長公は伊周公より身分は下級ですが先に射させることになさいました。結果は伊周公が二本だけお負けになりました。すると、道隆公と近習(きんじゅう)の者たちは延長戦をおさせなさることにしました。道長公は心中面白くないことだとお思いになりながらも、射る際、「この道長の家から、帝·后がお立ちになるはずのものならば、この矢よ当たれ。」と仰せになって射ると、的(まと)のど真ん中を射通しておしまいになりました。次に伊周公は、気後れして手が震えたせいか、とんでもない方向に飛んでいきました。父道隆公は青ざめなさいました。再び道長公は「この私が、摂政や関白をするはずのものであるならば、この矢よ当たれ。」とおっしゃって射なさったところ、的が壊(こわ)れるかと思われるほどど真ん中に突き刺さったのです。道長公をちやほやおとりもちなさっていた興もすっかりさめ、気まずくなりました。続いて射ようとしていた伊周公に、父道隆公は「どうして射るのか、射るな、頼む、頼む」とお止めになり、座もすっかり白けてしまいました。(「道長伝」より)


  道長の豪胆 

 道長は、いかに実兄とはいえ、面前にいるのは今を時めく関白道隆(みちたか)であり、競射の相手は甥(おい)にあたる人物ではあるが、自分より上位の内大臣伊周(これちか)。しかも、場所はいわば敵の本拠地ともいうべき南院。そうした不利な条件のなかで、いっこう臆することなく終始優勢を保持した道長豪胆さ。そして、延長戦にあたっては、「この道長の家から、帝·后がお立ちになるはずのものならば、この矢よ当たれ。」と、また続いて「この私が、摂政や関白をするはずのものであるならば、この矢よ当たれ。」と、あらゆるものを自己の昇運に向かってなびかせずにはおかない気の強さを漲(みなぎ)らせています。

 このエピソードは、道長の権勢が確立されてからの作り話でしょうが(…?)、そうであると承知していても、話の作り方の巧みさに魅せられて読まされてしまいます。

 道長の若き日の気概の大きさについては「面をや踏まむ」(こちらを)でも語られています。


 「大鏡」とは 

 摂関政治こちらを)の絶頂期を過ぎたころ、過去を振り返る動きが起こり、〈歴史物語〉(こちらを)という新しい文学ジャンルが産まれました。

 それまで歴史は「日本書紀こちらを)」のように漢文で書かれましたが、十一世紀中頃かなで「栄華物語こちらを)」が書かれ、続いて、十二世紀に「大鏡」がまたかなで書かれました

 「栄花物語』は藤原道長賛美に終始していますが、「大鏡」は批判精神を交えながら、歴史の裏面まで迫る視点をも持ち、歴史物語の最高の傑作といえます。

 「大鏡」は、約百九十年の摂関政治の裏面史を批判的に描きだしていて、「枕草子」などの女流文学者が表の世界を描いたのに対し、「大鏡」は裏の世界を描いたともいえます。作者は未詳(みしょう)でいろいろと推測されているようです。権力中枢やその周辺にある人であることは間違いないのでは(…?)。藤原氏を中心とした権力闘争の実相を冷静に、しかも、いきいきと描きだしています。秀逸なストリー・テーラーだったようです。


「肝試し/道長の豪胆(大鏡)~新しい理想の男性像」もご覧ください、こちらです。


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