「枕草子」とは
日本語は文字を持たない言葉でしたが、平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文章表現ができるようになっていった(★)のです。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした〈作り物語〉(「竹取物語」など)と、当時の貴族社会で語られていた歌の詠まれた背景についての話を文字化した〈歌物語〉(伊勢物語)の二つが成立したとされています。
(★)万葉仮名など、漢字で日本語音を表していたことはあります。
さらに、見聞きしたことや、自然・人事についての感想・考え・評価などを自在に記す〈随筆〉として、千余年ほど前清少納言によって『枕草子』が書かれた。中宮定子に仕えた宮中生活の体験や、感性光る「ものづくし」を自在に著わした「をかし」の文学と言われています。『枕草子』も、日本人独自の感受性、ものの見方、思考の組み立て方の原型の一つとなっているといえます。
三種の章段
内容から三種の章段で分類されています。
①類集(るいしゅう)的章段…「山は」「市は」や「すさまじきもの」「にくきもの」などの形で始まるもの。ものづくし。
②日記的(回想的・実録的)章段…特定の場所・時に清少納言が見聞きしたことなどを記録したもの。
③随想的章段…自然や人事についての感想を書いたもの。
「宮に初めて参りたるころ」は、②日記的(回想的・実録的)章段 になります。
中宮(定子)に仕えたばかりのころ
至上のお方を前に恥じ入ってどうしようもなかった。でも、中宮様の美しさには、これほどお美しいお方がこの世にいらっしゃっるのかと、思わず見とれてしまった。明け方になると早くおいとましようと思うが、なかなかお許しがなく、恥ずかしがる私を見て格子(こうし)をあげるのをおとめ下さったりなさる。やっと「夜は早く出仕しなさい。」という仰せを受けておいとまし、私の局(つぼね)に戻って格子(こうし)を上げると雪が降っていた。
中宮(定子)の容姿
「かかる人こそは世におはしましけれ」という驚きの気持ちでじっとみつめてしまうほど、「かぎりなくめでたし」と描かれている。容姿全体ではなく、「御手のはつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅色」と、部分のみがとらえられているのだが、光り輝くような美しさとして、ひたすら賛嘆の気持ちでながめられている。
中宮(定子)の性格
中宮は、恥ずかしがっている清少納言に、絵などを取り出して見せて緊張を解こうとしたり、姿を見られて恥ずかしがらないように格子(こうし)を上げるのをとめさせたり、「夜は早く参上しなさい。」と言ったりいろいろと気を配っている。新参(しんざん)の清少納言をかばっているのである。
そんな中宮に対する賛嘆や感謝や尊敬がこの文章を書かせているようです。
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宮に初めて1/3 問題 解答(解説)
問1 aみきちょう bたかつき cたてじとみ
問2 ②かえって昼間よりもあらわではっきり見えてはずかしいけれども、我慢して拝見したりする。
(「なかなか」は、かえって・むしろの意の副詞。「顕証に」は形容動詞「 顕証なり」の連用形、はっきりしているさまの意。「まばゆけれ」は形容詞「まばゆし」の已然形、恥ずかしいの意。「念じ」はサ変動詞「念ず」の連用形、我慢するの意。重要基本古語です。)
問3 ③それでは、早く下がれ。夜分は、すぐおいで。
(「さらば」それではという意味の接続詞。「はや」の後に「下りよ」などが省略、「夜さり」は、夜になる頃・夜分の意の名詞。「とく」のあとに「参れ」などが補える。)
問4(1)あっけないほど容易にお目通りが許されたのは、(中宮様が)そうお思いになるわけがあるのでしょう。
(「こそ」--「め〈推量の助動詞 む 已然〉」に留意。中宮様はあなたをお気に召されているのでしょうと言っていると考えてよいでしょう。)
(2)「おぼしめす」は尊敬語で「局の主」が中宮に敬意を表し、「思ふ」は一般的な意味での「思う」の意で使われているから。
問5 清少納言・随筆・平安時代中期・定子
宮に初めて 1/3 advanced Q.
1
中宮という至上の方と対座し、緊張して固くなり、遠慮する気持ちから
(この場面から推定する。中宮が新参の少納言の緊張を解きほぐそうと心遣いをお見せになっている場面でもある。ちなみに、少納言の能力を試していると解釈する人もいるようです。〉
2自発の場合→
私は思わず目が覚めるほどの気持ちで、じっとお見つめ申し上げる。 尊敬の場合→
中宮様がそうとお気づきになるほど、私はじっとお見つめ申し上げる。
【参考】清少納言と紫式部の関係は?
「清少納言と紫式部・ベストセラー誕生の秘密」
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