『徒然草』とは
兼好法師によって鎌倉時代終わりころに書かれた。『枕草子』（清少納言）・『方丈記』（鴨長明）と併せて日本三大随筆と言われています。
自然、社会、人間のありように対する思いを述べた随筆で、さまざまな角度から斬新（ざんしん）な感覚で切り込んだ作品。王朝文化へのあこがれ、有職故実（ユウソクコジツ。礼式・官職・制度などの由来など）に関する心構え、処世訓、自然美の新しい見方など、素材・対象は多彩を極めています。
仏教的無常観・老荘的虚無思想・儒教的倫理観が基盤にあるとされ、また、作者兼好法師は和歌四天王の一人に数えらたように、美的感受性にも優れている。
『徒然草』は、「ある人、弓射ること習ふに」や「高名の木のぼり」を読むと人生上の教訓集と見えますが、「神無月のころ」や「花はさかりに」は兼好の趣味論にも見えます。さらに、この「五月五日、賀茂の競べ馬を」や「大事を思ひ立たん人は」は死生観や無常観を論じる評論集にも見えます。
加藤周一さんの『「心に移りゆくよしなしごと」を次々と書きとめることで、多面的でしばしば相反する思想を一冊の小著にまとめあげた』という見方が、私には最も納得されます。
刹那（せつな）にベストを尽くせ
師匠（ししょう）の前で、一対（いっつい）二本の矢（早矢=ハヤと乙矢=オトヤ）を持って弓をひく。師匠が言う。「初心の人は、二本の矢を持ってはいけない。二本持つと、もう一本を当てにして、おろそかにする気持ちがある。この一本で決しようと思うことだ。」 師匠の前で後の矢を頼みにするなどと思うはずはないと思うが、その瞬間の後の一本をあてにするゆるんだ心を見抜いてそう言っているようです。
弓の道に限らず何事を修行するのに、今の一瞬の意識において、すぐに専念実行することは難しいことだという結論となっているわけです。（問５も参考に）
巧みなたとえ話とそれに基づく主張が、なるほどと思わせる力がある。
【三大随筆】徒然草｜兼好法師 今すぐ心を整えたいあなたへ ～ 未来への不安、過去への後悔を消す最強古典 ～
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ある人弓習ふに 問題解答（解説）
問１ ヤ行上一段活用 連体形（「射る」と「鋳る」はヤ行上一、「居る」と「率る」はワ行上一。ヒ・イ・キ・ニ・ミ・ヰる、曖昧な人はインプット。）
問２ 成功と失敗 （ 「得ることと失うこと、利と不利、損得、利害」などの意もある。）
問３ ｃ ヘ （意志） ｄ ロ （当然）
（イ 長く（生きたとし）ても、四十歳に足りないくらいで死ぬようなのが、見た目によいだろう。→推量
ロ 人はもし死を憎むなら、生を愛さなければならない。→当然
ハ 家の作り方は、夏を中心にするのが良い。→適当
ニ （形見の品を）決しておろそかには扱わないつもりだ。お疑いにならないようになさい。→命令
ホ 羽が無いので、空を飛ぶことができない。→可能
へ 宮仕えにさしだしたら死ぬつもりだと申し上げる→意志
当然 適当 推量 命令などこれしかないとは確定できないこともあり、この問も同じ。）
問４ どうしていい加減に扱うと思うであろうか（いや、思いはしないだろう）。（「おろかに」は、おろそかに、いい加減にの意の副詞。「せむ」の「む」は意志、「思はむ」の「む」は推量の助動詞。「や」は反語の係助詞。）
問５ 世の一般の人々が、修行・学習などをそのすべき瞬間に直ちに処理すること。（学芸・仏道を修行する人だけではなく、何事につけ、なすべきことをなすべき瞬間に間髪入れずなすことの困難さを指摘している。）
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