源氏物語「めぐりあい(玉鬘)」もっと、深くへ !





  玉鬘(たまかずら)とは

 源氏はすでに35歳。太政大臣の地位まで上りつめている。広大な邸宅六条院を造営し、紫の上・秋好む中宮(六条御息所の遺児)・明石の上を邸内各所に住まわせています。ここで登場するのは、愛人であった夕顔の遺児玉鬘(たまかずら)。

 玉鬘は、光源氏の親友である左大臣頭中将(とうのちゅうじょう)と側室の夕顔(ゆうがお)との間に生まれた女性です。夕顔頭中将の正妻から嫌がらせを受けており、夕顔頭中将のもとを去ってひとりで玉鬘を育てていましたが、源氏と付き合うこととなり、河原の院で源氏と夜を共にしていた時、六条御息所の生霊に襲われて突然死んでしまいます。玉鬘は混乱の中、遺児として取り残されました。玉鬘は母夕顔の死を知らず、乳母に庇護されて九州で暮らしていましたが、そこでは求婚してくる若者たちが後を絶たず、辛酸の末に逃れるように上京しました。

 源氏夕顔を河原の院へ連れ出す時に、ただ一人ついていったのが侍女の右近です。夕顔の急死後はそのまま源氏に仕え、今は紫の上づきの女房になっています。


  初瀬寺での思いがけないめぐりあい(「玉鬘~めぐりあい」縮約)

 ここは、右近の一行と玉鬘の一行が初瀬詣でたまたまめぐり合う場面です。初瀬寺(はつせでら)は長谷寺の古称です。(源氏物語「玉鬘」(玉鬘)本文+現代語訳へ


 京を出発して四日目の朝、玉鬘一行は椿市に疲れ果てて到着しました。足が動かなくなり、どうしようもなくお休みなさる。一行には豊後の介、弓矢を持つ男二人、下働きの者や子供たち、そして三人の女性が含まれており、彼らは目立たないように行動していました。宿で仏前のお燈明(とうみょう)の用意をしていると、宿の主人である法師が、お目にかなう客ではないらしく、文句を言いに来ました。その後、別の一行が到着し、その中には身分の高い女性二人と十数人と見えました。彼らもまた、目立たないように質素な装いをしていました。宿の主人は彼らを宿に泊めたがっていましたが、玉鬘の一行は宿を変えるのが面倒で、みっともないことと感じたため、自分たち一行は部屋の隅に身を寄せ、軟障を使って境界を作りました。新しく来た人々も控えめで、お互いに遠慮しあっていました。実は、新しく来た人々の中には、亡き主人夕顔の忘れ形見である姫君玉鬘をずっと恋い慕っていた右近も含まれていました。



「右近は年月が経つにつれて、(主人が誰だかはっきりしないような)中途半端な現在の奉公がどうもしっくりしなくなってきた。初瀬詣はいつものように馴れているので、軽い気持ちで参詣したが、徒歩での疲労に耐えられず、物に寄りかかって座っていると、豊後の介が近づいてきた。折敷を持ってきて、「これは姫君に差し上げてください。ちゃんとした脚付きの御膳もそろっていず、恐縮千万なことですよ。」と言う。隙間から覗くと、この男の顔を見たような気がするが、正体は思い出せない。豊後の介は以前若かったが、今は太って色が黒くなり、みすぼらしい身なりだ。主人と思われる人は見えない場所にいて、のぞき見できない。どうしていいか考えあぐねて、下働きの三条に尋ねることにするが、三条は食べ物に夢中でなかなか来ない。」



 「思い出すことができませんわ、筑紫の国で二十年ばかり過ごしてきたこの卑しい身を、ご存じでいらっしゃる都の人とは。人違いではございませんか。」と言って寄ってきた三条は、田舎くさい掻練の小袖に絹の薄い上着を着て、太っていた。彼女は顔を差し出し、「もっとよくのぞいてごらん。私を知っていますか。」と言った。年取った乳母は感慨にふけりながら、三人とも涙ながらに泣いた。

乳母は「ご主人様はどうなさいましたのですか。長年の間、夢の中ででもお元気なご様子を見たいものだと大願を立てましたが、遠い田舎に住んでいるせいで、風の噂にもお聞き伝えすることができないでいたことを、たいそう悲しいことと思っていたのですが、年老いた身でこうして生き残っているのもまことに情けないことですけれど、ご主人様がお見捨て申してしまわれた若君が、いじらしくおかわいそうなご様子でこの世にいらっしゃるのを(おいて死んでいくわけにもいかず、それを)死出の旅の妨げとして、お取扱いに困りながら、こうしてまだ目もつぶらずに生きております。」と語った。

 案内の者が「日が暮れますよ。」と騒ぎ始め、右近と乳母は家の外へ下り立った。右近は、後ろ姿でひどく粗末な身なりの姫君を見て、彼女の美しさに感嘆した。少し歩き馴れている右近は、はやくも御堂に行き着いたのである。

源氏物語「玉鬘」(玉鬘)本文+現代語訳へ


  源氏、玉鬘を迎え入れる

 右近は帰京して、玉鬘の一行とめぐりあったことを源氏に伝えた。源氏は喜び、歌を交わすなどして、六条院に迎え入れることになる。一旦ハッピーエンドとなります。
 その後は玉鬘の独自の魅力とそれに惹かれる源氏の懊悩が物語の中心になっていきます。慕い寄る貴公子たちに交じって、源氏も悶々の情を抑えられず、養父としての立場との板ばさみで、複雑な悩みを味わうさまが描かれていきます。
 玉鬘は結局、髭黒(ひげくろ)の大将と呼ばれる人物と、幸福とは言えない結婚をした後、物語から姿を消しますが、ずっと後の「竹河」の巻で、娘の幸福を案じる母親として描かれることになります。


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源氏物語「玉鬘」解答(解説)

〔一〕

問1 c げす e かち

問2 可能の助動詞「る」の未然形

問3 b それから その他に

   d 心外だ 気にくわない

   f 悪くはない(身分) まあまあ(の身分)だ

   g 目立たないようにする みすぼらしくする

   h 気の毒だ

   i 実は

   j 常々 いつも

問4 ① 午前10時ごろ。また、その前後の2時間。(「子」から始まる十二支、2(N-1) nキ1 、「巳」は6番目、2(6-1)=10、「巳」は午前9時から11時の時間帯。)

問5 ぜひともここに宿泊させたくて(泊めたくて) 

問6 ② 歩くとは言えないような歩き方で歩く様子 疲れ果ててしっかりと歩けない様子

   ③ 女中たちが宿の主人の自分に相談せずに、玉鬘の一行を宿に迎え入れたことを

   ⑤ 作者が玉鬘に敬意を表す尊敬語

   ⑥ 後から来た一行が、気づかいしなければならない気の置ける気が引けるような一行ではない

問7 平安時代 紫式部 彰子 藤原道長

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〔二〕

問1(1) 参り物なるべし(独立した文を他の文中に挟み入れて、説明を付加している。)

  (2) あらめ(結末の一文にある。結びの省略「にや」「にこそ」の後、「あらむ」「あれめ」などが省略されることあり。) 

問2 a 中途半端だ どっちつかずだ b 不似合いだ ふさわしくない d 食べ物 e 恐縮だ 申し訳ない g 見たい h じれったい


問3 c かち f 完了の助動詞「り」の連用形 i 打消しの助動詞「ず」の連体形


問4 ①「まゐらせ」は豊後介が御前(先客の一行の主人)へ敬意を表す謙譲語。「たまへ」は三条に敬意を表す尊敬の補助動詞。

問5 ③ 先客の一行の主人に食べ物を差し上げようと取次の女性に依頼した人。(「これにこそあらめ」=きっとこの人にちがいない。食べ物を「御前」に差し上げている男、右近が見たことのある顔だなあと思ったとある。)

    ④  先客の一行の主人 は姫君ではないかと訊きたいが、呼んでも来ないこと。(こちらが気がせいているのに、相手方がゆっくり構えていることに対して、しゃくにさわる。「憎し」は現代の「憎い」より程度が軽い。)

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〔三〕

問1 aはたとせ bたが

問2 c自発の助動詞「らる」の連用形

   断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」

 (〈これまで住んでいたところが〉…デアッテの意。)

   g形容動詞「あはれなり」の連用形「あはれに」の活用語尾+接続助詞「て」 h当然の助動詞「べし」の已然形

  副助詞 類推

問3 d長年の間

   fかわいい(かわいいには「らうたし」「美し」という言い方をした。「らうたし」は自分より弱いものをかばってやりたい気持ちに通じ、「美し」は小さいものに対して愛情を注ぎたい気持ちに通じるものとされる。)

問4 思い出しませんわねえ(おぼえ〈ヤ下二動・おぼゆ・未然形、思い出す〉+ず〈打消し・ず・連用形〉+こそ〈係助詞・強意〉+〈はべれ〈ラ変の動・はべり・已然・結び〉)

問5②わが君 御方(ここで行き会った一行が仕えていた主人「夕顔」のこと。)

  ③あがおもと(「すこし足馴れたる人」も該当するが、5字以内ではない。)

  ④老い(ヤ行上二段活用の動詞は「老ゆ・悔ゆ・報ゆ」の3語のみ。文意から「老ゆ」。動詞の連用形が名詞化することあり。老人という漢語は和語では「老い人」。直後の会話文中に「老いの身」とある。)

問6 伝え聞き申し上げることができなかったことを(風のたよりにも聞くことができなかったの意。「奉ら」は一行の主人だった夕顔に敬意を表す謙譲語。)

問7 解答例…(姫君が)かわいらしい後ろ姿で、たいそうひどく粗末な身なりで、今は秋の八月というのに、初夏の四月に着る「のし単衣(ひとえ)」らしいものを着て、中に入れ込めていらっしゃる髪が単衣を通して透けて見えるさまが、なんとも服装に比してもったいなく、そして美しく豊かですばらしいものに見えるのを

(玉鬘は身分が高く、右近とすぐに対面するようなことはしない。「後ろ手の」の「の」は本来は格助詞だが、断定「であって」の意を表す。「やつる」=みすぼらしい身なりをする。「卯月ののし単衣めくもの」=物語の現在の季節は八月、秋。「のし単衣」は薄地で仲が透けて見えるような単衣、四月の衣更えころに着る。「着こむ」は、着物を着て、その背中のところへ、背に垂らした長髪を入れ込めること。「透き影」=中に着込めた髪が透けて見える。ここでは、そういう季節外れの着物を着なければならない玉鬘の困窮ぶりが語られ、と同時に、その透き影があらわに見えることに、玉鬘が髪の豊かな美人であることが暗に語られていることとなる、巧みな表現。

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