紫の上の死3/5
(源氏物語/御法)
~女性の死にざま part 3
古典 多読 聴くだけ古文
源氏物語 紫の上の死 その3 2020/11/03
『源氏物語』とは
源氏物語は、今から10こ00年余前、藤原道長の娘である中宮彰子(しょうし)に仕える紫式部によって書かれました。先行する伝記物語(「竹取物語」など)・歌物語(「伊勢物語」など)・日記文学(「蜻蛉日記」など)の表現史的蓄積の上に、このような高度な表現を達成することができたといわれる物語文学です。
四代の帝(みかど)の七十四年間にわたって、五百名にものぼる登場人物を見事に描き分けて壮麗な虚構の世界が展開されています。
世界史上女流の文学者は、ギリシャ時代にサッフォーという詩人が知られてますが、以降「古代・中世を通してみるべき女流作家は出現せず」、19世紀になって、イギリスでブロンテ姉妹や G.エリオットらの小説家が登場することになります。それに対して、『ブルタニカ国際大百科事典』では「日本の平安時代に『源氏物語』の紫式部をはじめ,清少納言,和泉式部そのほかの偉大な才女が輩出したことは特筆すべき文学現象である。」と、日本の文学の歴史が海外で特別視されていること、当の日本人で知らない人も結構いるようです。
登場人物
●光源氏 『源氏物語』の主人公。母親は特別な出自でなかったことなどから、他の女御・更衣たちから疎まれ、嫌がらせを受け、光源氏を出産するが、源氏3歳の時なくなってしまう。父帝から深い愛情を受けたが、右大臣などの勢力からの圧迫を逃れるため臣籍降下し「源氏」を賜った。
●紫の上 光源氏が北山に病気療養に出かけた時、偶然見い出した女の子で、ひそかに思慕していた藤壺によく似ていた。式部卿宮の娘、藤壺の姪 (めい) と分かる。光源氏は後に手元に引き取って理想の女性として育てた。葵(あおい)の上の没後、正妻格としてあつかわれた。
●明石の中宮 源氏が流離の身であった時結ばれた明石の君との間にできた姫君で、後に東宮妃となる。実母明石の上の出自を考え、源氏は手元に引き取り、正妻格の紫の上に育てられた。子ができなかった紫の上によって、美しく育つ。
与謝野晶子訳「紫の上の死(源氏物語/御法)~女性の死にざま」(youtube「きくてん」とは異なります。与謝野訳に少し手を加えています。)
「もうあちらへおいでなさいね。私は気分が悪くなってまいりました。病中と申してもあまり失礼ですから」
といって、女王(紫の上)は几帳(きちょう)を引き寄せて横になるのであったが、平生に超えて心細い様子であるために、どんな気持ちがするのかと不安に思召して、宮(中宮)は手をおとらえになって泣く泣く母君(紫の上)を見ておいでになったが、あの最後の歌の露が消えてゆくように終焉(しゅうえん)の迫ってきたことが明らかになったので、誦経(ずきょう)の使いが寺々へ数も知らずつかわされ、院(源氏のお屋敷)内は騒ぎ立った。以前も一度こんなふうになった夫人が蘇生例のあることによって、物怪(もののけ)のすることかと院(源氏)はお疑いになって、夜通しさまざまのことを試みさせられたが、かいもなくて翌朝の未明にまったくこと切れてしまった。
明石の中宮は、宮中に参内なさらないで、今はの際(きわ)までおそばにおられたことを、この上もなく因縁のあることと感慨深く思う。誰も誰も、生者必滅(しょうじゃひつめつ)、当然の別れで、おなじようなことがいくらでもあるのに、そうとは思われず、またとなく悲しくて、夜明け方の薄明りの中で見る夢のように、(夢か現かと)思いまどわれるほどに惑乱した気持ちであったと語られています。
「夜明け方の薄明りの中で見る夢のように」は、原文では「明けぐれの夢に」です。「明けぐれ」は「明け暗」、夜明け方のまだ薄暗いころの意。重大なことが起こった夢から覚めたようだが、あたりは薄暗く判然とせず、あれは夢だったのか、いや、もしや現実の出来事だったのか、そうだったらどうしようというような心持なのでしょうか。
『源氏物語』では、夕顔・葵上(あおいのうえ)をはじめ多くの女性の死が描かれています。源氏の愛人夕顔は源氏の年上の愛人六条御息所のものと思われる生霊に襲われた直後に、源氏の正妻葵上は源氏の薄情を恨みながらとか、穏やかでない死に方をしています。しかし、紫の上は源氏、明石の中宮、夕霧に看取られながら穏やかな死を遂げていきました。
紫式部は女性の死にざまに、並々ならないこだわりを持っていたようです。女性の死にざまは男性次第ということなのでしょうか。
この後、語り手は源氏から興味を亡くしてしまったかのように、源氏は物語から姿を消します。男性あっての女性、またその逆もしかりということなのでしょうか?主人公が突然語られなくなる…近代の小説とは発想が異なるようです。
この時、源氏は51歳、紫の上は43歳です。
「紫の上の死 4/5(源氏物語/御法)~死を悼む人たち part 2」はこちらから。
「紫の上の死 5/5(源氏物語/御法)~死を悼む人たち part 1」はこちらから。
「紫の上の死 2/5(源氏物語/御法)~女性の死にざま part 2」はこちらから。
「紫の上の死 1/5(源氏物語/御法)~女性の死にざま part 1」はこちらから。

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