「枕草子」とは
平安時代の初期(今から1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景の文字表現ができるようになっていったのです(万葉仮名時代は除きます)。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。文学史的には、こうして、架空の人物や事件を題材にした〈作り物語〉(「竹取物語」など)と、歌の詠まれた背景についての話を文字化した〈歌物語〉(伊勢物語)の二つが成立したとされています。
さらに、見聞きしたことや、自然・人事についての感想・考え・評価などを自在に記す〈随筆〉として、千余年ほど前清少納言によって『枕草子』が書かれました。中宮定子(ちゅうぐうていし)に仕えた宮中生活の体験や、感性光る「ものづくし」を自在に著わした「をかし」の文学と言われている。『枕草子』も、日本人独自の感受性、ものの見方、ふるまい方の原型の一つとなっているといえます。
三種の章段
内容から三種の章段で分類されています。
①類集(るいしゅう)的章段…「山は」「市は」や「すさまじきもの」「にくきもの」などの形で始まるもの。ものづくし。
②日記的(回想的・実録的)章段…特定の場所・時に清少納言が見聞きしたことなどを記録したもの。
③随想的章段…自然や人事についての感想を書いたもの。
「ふと心劣りとかするものは」は、①類集(るいしゅう)的章段 になります。
「ふと心劣りするものは」=保守的ことばづかい観
「ふと心劣りするものは」では、まず、男でも女でも、ことばづかいのいやしいのは幻滅を感じるという。つぎに、人と用語の関係を各方面から例示して、何の機知もない、あつかましいことばづかいを非難する。さらに、ことばのなまりを批判し、特に書き言葉に留意すべきだと言う。
由緒ある格式の高いことばを用いるべしという主張になっている。
1000年前の人の文章、特に古代に女性が文学作品を書き残しているのは世界史上この日本だけ。その幸運を味わいながら読み味わいましょう。
イレギュラーな言葉遣い
「ぬまっています(こちらへ)」と言われても、何のことかわからない人、大勢います。 近年、特にインターネットが普及してから、ことばづかいが急速に崩れ(イレギュラー化?)つつあると思います。「崩れる」と言ったが、メディアが変化し、発信者が増大し、人々の生活も変転はげしいのだから、ことばづかいが急変していくのも当然でしょう。特に、言葉遣いや表現について特に見識のない人たちがほぼ何の制限もなく、snsやyoutubeなどのネットメディアで発信出来ることの負の側面が増大しつつあると思います。
「友好国にはよく目くばせして、外交を行う必要がある」。インターネットの動画の番組で、新聞記者を経験した後、雑誌の編集長をしている人が何度も繰り返していた。念のために言うと、この人のスタンスには私はどちらかというと好感を持って視聴していますが、すこしがっかりさせられました。他にも、このように目配りと目くばせを取り違えている人が、それも、かなり教養のあるの立場の人と考えてよいはずだが、その主張なさっていることをどれくらい信頼すればよいのかと思ってしまう。NHKの「文研」というサイト(こちらへ)に次のようにあった。
ウェブ上でおこなったアンケートでは、「目くばせ」を「目くばり」の意味で使った用法(「現場の細かいところまで『目くばせ』をする」)はおかしいという意見が、圧倒的多数を占めていました。
私が思い違いをしていたのではないと分かり、ほっとした。しかし、「おかしくない」という意見が過半数を越えたら、目配りを目くばせと言ってもレギュラーな言い方となるわけです。言葉は生き物で、時代とともに変化してゆくものですから。
ネットは誰もが気軽に発信でき、放送法などの縛りがない分、かなり自由な発言が可能。その一方、これまでのメディアのように放送作家などの文章を書く専門家がいなかったり、校閲したりする部署の目を経ていないことが多く、イレギュラーな表現がまかり通ることになっているように思います。それで人によっては、不信感や誤解が生じさせたり、その主張することを理解しようとする前に、忌避したり嫌悪を覚えさせたりするおそれがあるのも否定できません。通じれば良いのではないか、ウルセーこと言うななどと言う人たちもいます。しかし、やはり逸脱しすぎたイレギュラー表現は、時として、伝える・理解することを妨げることがあると考えるべきでしょう。言葉への感受性は人それぞれだからです。
今、私がすぐに思いつくだけでも次のような例があります。すべていわゆる識者とかジャーナリストとかコメンテーターと言われている人たちのイレギュラーについてです。
「天気は雨です」と「天気は雨になります」は区別してほしい。
「ほぼとほぼほぼ、関係と関係性、スケジュールとスケジュール感の意味は違うので、正確に使い分けてもらいたい。」
「上意下達とか悪口雑言などは正しく読んでほしい。」
「すべからくは"すべて"の意味ではない !」
「『…と思っていて、なので…と思っていて、なので…』という言い方は、仲間内(うち)の言い方であって、公的な場面では聞きたくない。」
「重要なお知らせですと、お知らせになりますは混同しないで使ってもらいたい。」
「問題点が3
個あります。」なんて、日本語は他言語に比べて助数詞に富んだことば(
こちらへ)なので、大切にしてほしいと思う。「ぶた」は
一個ではなく一匹・一頭です(『赤ちゃんパンダは「匹」か「頭」か』は
こちらを)。
意図的にくずしているなと思わせる場合もありますが、TPOを考えるのも表現のキモ。
特に言葉遣いに神経質な方ではないと思うが、ネットのコンテンツを視聴する機会が多く、言葉は変化するものとは知りつつも、やはり気になってしまうことが多く、コンテンツの内容から気がそれることがある。
ことばづかいは時代を越えたテーマであり続けるようです。
ふと心劣りとかするものは 問題解答(解説)問1 Aの「あやしう」は「あてにもいやしうもなる」ことへの感想を表し、「不思議にも」の意。Cの「あやしき」は「まさなき」の並立語となっていて、「下品な」の意。
(Aは後の「いかなることにかあらむ」に連用修飾語としてかかっている。)
問2 田舎じみた言葉を使うはずのなさそうな
(「さ<副>/ある<ラ動 あり 体>/まじき<助動詞 打消し当然>→そうであるはずがなさそうな。指示語「さ」の指示内容は、直後の「わざとつくろひ、鄙びたるは」に着目して考える。下品な言葉遣いをするはずのない、なども可。)
問3 きまりが悪い
(「かたはらいたし」は、傍で見聞きしていていたたまれないような否定的な感情。「聞き苦しい」「みっともない」「苦々しい」なども可。)
問4 ロ
(「書きなし<サ四用>/つれ<助動詞 完 已然>/ば<接助 確定条件>」。「いとほし」は、気の毒だの意。「さへ」は添加の副助、作品だけでなく作者までも、の意となる。)
問5 清少納言・随筆・平安時代中期・定子
a.Q
イ・ロ・ニ
(各3点、全正解で10点としてください。選択肢の内容と本文とを細かく吟味してみる。「まいて、文に書いては言ふべきにもあらず」から
イが合致。全体から、また特に1段の「ふと心劣りとかするものは、男も女も、言葉の文字いやしう使ひたるこそ、よろづのことよりまさりてわろけれ」・「ただ文字一つに、あやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ」から、
ロが合致。3段の、「むとす」を「むず」「ひとつ車に」を「ひてつ車に」、「求む」を「みとむ」と言ったりする当時の傾向を批判していることから
ニと合致する。残る選択肢は一見もっともらしく思えるものもあるが、本文の趣旨と合致しない。)
【参考動画】枕草子/春はあけぼの(第一段)
【参考動画】はなとゆめ
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