「目に見える制度と見えない制度」2/2 もっと深くへ!




後半の段落、要約します。

 近代の恋愛において、その感情も感受性も制度化されているように、私たちには「目に見えない制度」が内面化されている。そうなるのは、私たち一人一人がそれとは意識せずにおのずとある目的に沿った合理的な秩序の形成に協力することになるからだ。


 また、前編・後編を合わせてごく短く要約すると、次のようになります。

 人間は目に見える制度や目に見えない制度を意識的無意識的に形作り、それらを仲立ちとして互いに結びつくことによって共同社会を形作っている。
 

 なーンだ、結局当たり前の事を言っているのじゃないか ! と思う人もいるかもしれません。でも、評論て、一般論として、難しげに書かれているけど、そんなに突飛なことが書かれているわけではないと思っていいでしょう。


 この後は蛇足ですが…
 この文章で、自然に働きかけて人間化してきたとか、人間が作ったものが人間自身に敵対すること(疎外)になるというのは、マルクス主義哲学に基づいています。共産主義者・社会主義者、そして、戦後の進歩主義者・リベラリストが好んで使うパラダイムです。

 そういう人たちが、「人民が主人公の共和国」「人民を軍国主義の支配から解放した」という看板を掲げ、異議を唱える人々を弾圧したり、「人民」を悲惨な目にあわせて当然としていることに寛容なだけではなく、そんな統治を陰に陽に擁護していることを知っていてもいいと思います。
 強国がますますその覇権を拡大しようとし、そうでない国は飲み込まれないように死活をかけた対峙がをせまられている激動の時代に、この国は、メディアも言論も教育もナイーブで無防備すぎます。

 マルクス主義資本主義という経済システムの理論的解明労働者階級の救済運動という二つの側面を持っています。私たちが生きている資本主義社会を理解する上ではきわめて有用ですが、これをスターリン毛沢東金日成などが、自らの専制独裁を正当化するために歪曲矮小化してきた歴史も知っていたほうが良いと思います。「マルクス主義」について『知恵蔵』(朝日新聞出版社)で次のように解説されています。問題本文をより深く理解できる内容となっています。

 マルクスとその協力者エンゲルスの思想にもとづいた理論や実践活動を意味する。近代の思想は自由で民主的な社会を求めてきた。しかし、産業革命以降に現れたのは、極度の貧富の格差と植民地争奪戦という過酷な現実だった。マルクスとエンゲルスは、この問題の原因を、資本の自立的な運動に見た。資本は絶えず拡大しようとし、その運動が社会を作り上げていく。これは人間の意志を離れた勝手な運動であり、人々を本来の労働のあり方から疎外する。マルクスとエンゲルスは、資本の自立的な運動が促進される背景には私的所有と市場経済があり、これらを廃止して経済を自らのコントロールのもとに置くことで、人々が互いに協力し合う自由で対等な社会が実現する、という大きな社会変革の見取り図を描いた。この思想は人々に大きな希望を与え、19世紀後半から20世紀を通じて資本主義批判と社会変革の可能性を担ってきた。しかし、戦後旧ソ連でのスターリニズムの問題が明らかになると、マルクス主義は厳しい批判にさらされることになる。だが、こうした批判の一方で、フランスのアルチュセールらによるマルクスの読み直しも行われた。マルクスは、社会意識や法や国家の制度(上部構造)は経済構造(下部構造)に規定されると考えた。それに対し、アルチュセールは「国家のイデオロギー装置」という概念で、イデオロギー(上部構造)は、経済構造に従属する虚偽の意識や観念ではなく、学校や家族や政治制度のなかで絶えず再生産され、見えにくいかたちで人間を調教する装置となっていると主張した。 (石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)

 中村雄二郎さんの文章は、マルクス主義アルチュセールの焼き直し、または、啓蒙版にも見えます。


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目に見える制度と見えない制度 2/2 問題解答(解説)

問1  内面化
(同段落にある。「習い性となる」「身につく」と同内容。問に「一語」&「2・3字で」とあるので「内面化」。)

問2(1)作法や儀式~であろう。

  (2)制度としての性格と仕組みとを立ち入って知っておくこと

(二六字。同段「しかしながら」で始まる最後の一文にある。)


問3 解答例…親が決めた家本位の男女の結びつきや、本人たちの意向を無視して推し進める結婚に対して、自由な意思による恋愛は、個人としての人間を解放するもの、人間の本来の男女関係の在り方であり人間の自然であると考えられている。しかし、両者とも「制度」が作り出したものであること(で共通していること)を説明しようとしている。
(【近代以前の見合い結婚】Vs.【近代以降の恋愛結婚】の二項対立と理解すれば読み取りやすい。【近代以降の恋愛結婚】によって、【人間本来の男女の結びつき】ができるようになったと考えるのは間違いであると主張されている。どちらも歴史や文化によって作られた【制度】の一種であるという点で共通したものだということです。)


問4 解答例… 意識的な制度における立案・検討・合意という作業
指示語の指示内容は、直前、その直前…とさかのぼり、「こと」などを補うなどして指示語に代入、文意が通るか確認。ただし、要約しなければならなかったり、指示内容が指示語の後にあることもあり、そのケースが出題されることも知っておく。
 ここでは、直前の「むろん無意識的な制度の場合には、そのような立案も検討も合意もあり得ない」に着目。複数ある。)

問5 解答例… 人間には、自分の所属する集団の一員として、成員全体の目的にかなった合理的な秩序の形成に、それと意識しないうちに協力する性質があること。
 (?⇒もう一度ヒントを見てください。)

問6 解答例… 人間の手ではコントロールできない自然界における諸現象。
 (「神話」「魔術」について述べられている。「神話」「魔術」は、日照りや落雷などの天変地異から解放されるための「一種の制度」ととらえられているようです。)


問7 解答例… 意識されてはいないものの、思い出すことが可能であること。 
(「無意識」に近い。意識されていないが、思い出す努力によって意識化できる精神の領域。「前意識」とも言う)。

問8 イ 合目的的な無意識のはたらき  ロ 形式  ハ  内面化  ニ 私たち人間の本来の在り方であり、人間の自然  ホ目に見えない制度
 (「 無意識的」「 目に見えない制度」など、繰り返されている語・語句、キーワードをマークしてみましょう。

 は、「の一例である」とあり、終わりから五つ目の段落冒頭に「たとえば」とあり、また、近代になってからの恋愛が「目に見えない制度」の例であると導くのはそんなに難しくないはず。
 は、「と錯覚している」から、常識的な近代の恋愛観と考えればよい。
 は、近代の恋愛も「それはほかならぬ歴史的な近代の産物、つまり作られたもの、制度的なものだったのである。人間の自然にのっとりながらもそれを秩序立て、それに形式を与えたもの、つまり文化だったのである」と主張されている。キーワードは「形式」であり、3度繰り返されているので、本文にマークしてみてください。「恋愛の手順や感情の表現についての」形式
 イ・ホは、「目に見えない制度」のキーワード「無意識」と「内面化」に着目する。「無意識」は何度も使われているが、イは問②となっている「合目的的な無意識のはたらき」とすれば文意が通じることになる。「内面化」は、「習い性となる」「身につく」とも言われている。本文にマークしてみてください。)

【何が言われているの💦💦💦】

 どういうことか、よく理解するのがむずかしい主張だと思いますので、スペインの闘牛の楽しみ方の例をあげます。

 スペインの闘牛は3部構成で行われます。①主役のマタドール、見習い闘牛士、騎馬闘牛士、闘牛士助手が登場。②騎馬闘牛士が槍(やり)で牛を攻撃。③ マタドールが赤い布(ムレータ)を華麗に操り、観客が盛り上がったところで剣でとどめをさします。
 歴史的に積み上げられた形式(スタイル)制度化された感受性にもとづいて人々は、各ステージでワクワクしたりヒヤヒヤしたり高揚したりカタルシスを感じたりする競技です。この独特の形式(スタイル)制度内面化されていない人には、理解できないし本当には楽しめない競技であるわけです。
 近代の恋愛も、感情や手順やふるまいなど、この例と同じように、人々は近代特有の恋愛の形式(スタイル)制度内面化され、それにのっとり、それをなぞっているのだとしているのです。アニメやテレビドラマがロール・モデルとなるのも同じこと。

漢字問題解答

a 典型   b 規範  c 疎通  d 束縛  e 




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