四面楚歌
「四面楚歌(しめんそか)」という熟語は、現在は、まわりは敵や反対者ばかりで孤立していること、孤立無援の意味で使われています。
秦末の項羽(こうう)と劉邦(りゅうほう)の戦いで、項羽が劉邦の軍に幾重にも取り囲まれて、夜になると四面から項羽の出身地楚の国の歌が聞こえてきました。項羽の出身地楚の国の人々まで寝返って項羽を打ち取ろうとしていたのです。項羽は敗北を覚悟しました。これが四面楚歌の典拠となります。
秦(しん)を滅ぼした後、〈西楚の覇王〉と称して天下第一の実力を誇った項羽(こうう)と、奥地の漢中(秦代からの郡名。陝西省センセイショウ南部~湖北省西部。)に封ぜられ(=諸侯に任じられること)ながらもあくまで天下を狙い続けた劉邦(りゅうほう)は、五年にわたって激闘を繰り返しました。項羽側は、初めは圧倒的に優勢でしたが、部下の諸将から劉邦側に寝返る者があいつぐなどして、しだいに旗色が悪くなり、ついに包囲されて窮地に陥(おちい)ったのです。紀元前二百二年のことでした。今から2200年以上前のことです。
鴻門の会(記事はこちらへ)から四年後、項羽(こうう)は漢軍に追われ、垓下(がいか)の城に立てこもることとなりました。漢軍(劉邦の軍)と諸侯の兵が幾重にも包囲していました。その中から、項羽の故郷の楚の歌を歌っているのが聞こえてきました。項羽はもはやこれまでと、愛する虞(ぐ)美人とともに最後の酒宴をひらき、辞世の歌をよんだのでした(「垓下の戦い」の動画はこちらから)。
力抜山兮気蓋世 力は山を抜き気は世を蓋(おほ)ふ
時不利兮騅不逝
時(とき)利あらず騅(すい)逝(ゆ)かず
騅不逝兮可奈何
騅(すい)逝(ゆ)かざる奈何(いかん)すべき
虞兮虞兮奈若何 虞(ぐ)や虞や若(なんぢ)を奈何(いかん)せん
(「騅」は項羽の愛馬の名、「虞」は愛妃の名。この歌を第一句より「抜山蓋世(ばつざんがいせい)の詩」と呼ばれます。)
項羽は「力抜山兮気蓋世(力は山を抜き気は世を蓋ふ)」と、最後の最後まで自負心にあふれていたようです。そんな自分が今はこれまでという状況に追い込まれたのは、時が自分に味方してくれなかったからだととらえています。しかし、司馬遷はそれとは別の評価をしています。司馬遷は、項羽が自負心が強すぎて独断的であったり、他者を信用できなかったり、残虐であったり、冷静な判断ができなかったりすることで、人心を失い、結局敗残の運命にあったととらえてえがいているようです。
そんな項羽も愛妃虞(ぐ)への断ちがたい思いを口にするような情愛深い面があったことも語られています。ここはそんな項羽の悲劇的で抒情的な場面です。
『史記』の項羽本記(こううほんぎ)に書かれ、わが国でも人気のある場面です。
項籍 - 四面楚歌
四面楚歌(史記) 原文/書き下し/現代語訳へ
(こちらへ) 『史記』とは
前漢の司馬遷(しばせん)によって書かれた史伝。今から2100年ほど前の紀元前90ころ成立。
宮廷に保存されていた資料や古くから伝わる文献や司馬遷(しばせん)自身が各地の古老から聞き取った話などをもとにして書かれたとされています。
帝王の記録である本紀(ほんぎ)、著名な個人の記録である列伝などから構成される紀伝体(きでんたい)と呼ばれるもので、司馬遷(しばせん)が創始した形式です。以降各王朝の正史の形式となりました。
『史記』の最大の特色は、単なる事実の集積ではなく、個人の生き方を凝視した人間中心の歴史書であるという点にあります。歴代の治乱興亡(ちらんこうぼう)の厳しい現実の中を生きた多くの個性的な人々の躍動感あふれる描写と場面転換のおもしろさなどから、文学作品としても人気を保ってきた史書でもあります。
今から2000年以上前、これほどの史書が書かれていたことに驚かされます。その頃はわが国は弥生時代であり、また、万葉仮名で書かれた我が国初めての歌集『万葉集』が編纂(へんさん)される約850年も前に書かれたことになります。
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四面楚歌 解答(解説)
問1a城壁に立てこもる・砦を作る b 寵愛される〈寵愛するでも〉
問2cつくり(て) dなみだ
問3 漢軍のいたる所から楚の歌が聞こえてきたので、楚国の人が自分からもう既に離れてしまったと思ったから。
問4②なんぞそひとのおおきや
④なんぢをいかんせん
問5 戦(いくさ)が項羽にとって有利に展開していないこと。
問6 仰ぎ見ることができる者はいなかった。
問7 七言古詩 (古体詩でも。)
問8 司馬遷 前漢 紀伝体
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