かぐや姫の昇天/ふじの山(竹取物語)もっと深くへ !

「物語の出できはじめの祖(おや)」 

 竹取物語」は今から1100年以上前(平安時代前期)に書かれました。この物語、「源氏物語」の中で「物語のいできはじめの祖(おや)」と書かれていますが、私たちが読むことのできるかなで書かれた最古の物語です。文学史上エポックメーキングとなるものです。
 
 そのころは、現在みたいに評論や小説などが自在に書かれていたわけでないことは言うまでもないでしょう。


かな文字で書かれる物語の誕生

 そもそも日本語は文字を持たない無文字言語(unwritten languageこちらへ)でした。もっとも、文字はなくても、神話や伝説や歌は口承(こうしょう)されていました。そういうものを語り伝える語り部こちらへ)という専門職もありました。

  漢字・ひらがな・カタカナを自在に使っている現在の私たちからは奇妙に感じるかもしれませんが、日本語を書き表す文字を持たなかったのです。現代でも文字を持つ言語こちらへ)は、世界中で6000以上あるとされる全言語の数%しかなく、大半が無文字言語といいます。

 日本語が文字を獲得する経緯については「かぐや姫の生ひ立ちこちらへ)」で、少し詳しく述べています。

 約(つず)めて言うと、平安時代の初期(1200年ほど前)に、漢字を元にしてひらがな・カタカナが発明され、そうして初めて、私たちが日常使っている言葉で、心情や情景が文字表現として自在にできるようになっていったのです。このようにして、かな文字で書かれる物語という新しい文学に発展していきました。「竹取物語」はそんな黎明期の作品なんです。

 
 さらにまた、印刷技術があったわけではなく、多くの人が、写し取ったもの(写本)を読んでいたことも知っていていいと思います。書写する人が誤写したり、付け足したりしたりすることもあったのです。
 

「竹取物語」~古代物語の世界

 「竹取物語」は、主に女性が使用していたといわれるひらがなによって書かれた、最初の物語。文字で書き残されたから、今でも私たちが読むことができるのです。

 当時伝承されていたいくつものお話を素材にして、かぐや姫の出生から始まり、五人の貴公子のプロポーズ、帝の召しに応じず月の都に帰っていく物語として書かれています。複数の伝承を咀嚼(そしゃく)解釈し独自の表現で構成していくという、才能あるストリー・テラーの存在なくしては書かれなかった作品といえます。



物語の類型こちらへ)

 竹取の翁が、竹の中に発見した女児を連れ帰り妻の嫗と自分たちの子供として大切に育てました。その後、竹の中に金(こがね)を見つける日が続き、翁夫婦は豊かになっていきました。翁が見つけた子供はどんどん大きくなり、三ヶ月ほどでこの世のものとは思えないほどの美しい娘になった。かぐや姫とよばれました。竹中生誕説話至富長者説話の型に拠ったともいわれます。
 〈〉は釣り竿・ざる・垣根・杖など日常に汎用(ハンヨウ〉されてきたもの、かつ、他の樹木とは違って中に空洞があったり、生育が著しく早かったり、神が憑依するものであったりして、霊性あるのもとして神聖視されていたようです。現在も、七夕や神社のお祭りなどの神事で使用されていますよね。


 そのかぐや姫は、実は月の世界という異郷の人で、期限が来たら帰らなければならないという宿命にあると告白します。
 〉は、世界史的にも各地域で月神として信仰されこちらへ)ていて、日本でもツクヨミこちらへ)が保食神を殺しその死体から穀物が生じたという神話があるように、〉は宗教性の強い存在でした
 月の世界はどういう所か、そこにいる天人とはどういう人たちなのか、月とこの地球をどうやって行き来するのか、1100年前の人々は興味深く読んだでしょう。

 
 かぐや姫の生い立ちに始まり昇天に至るまでには、5人の貴公子が求婚しますが、かぐや姫は難題を与えて退ける話が展開されています。求婚難題説話に拠(よ)ったと言われています。最後は帝からの求婚という帝求婚説話の型になっていると言えますが、この物語はそれを拒否し、地上権に対する天上権の優位の思想を語ることになっています。


 その他にも影響を与えたと考えられる説話の型があげられていますが、そもそも、物語全体の枠組みが、かぐや姫という貴種が地上に来て、最後に清浄な世界に戻っていく、貴種流離譚こちらへ)の型であるともいわれています。

 多くの物語の類型こちらへ) に拠ったにしろ、それらの単なる継ぎはぎではなく、様々な地位・境遇・個性を持つ人物を登場させ、発端から結末までを 物語の現実として言葉という形あるものに形象化し表現していったです。この後の物語文学の嚆矢(コウシ・さきがけ〉となるものです。作者は上流貴族の男性だと考えられていますが、特定されていません。超凡の才能であると考えるべきでしょう。

『竹取物語』劇場予告編
 配給:東宝  監督:市川崑


かぐや姫の昇天1/2  問題解答/解説   

問1 aかぐや姫・f地球

問2 b ケ  ・ c コ  ・ e キ  ・f 

問3 d 行く b ・ g 飲む(食ふ) a・ i 食ふ a

問4 ①どうして悲しいのにお見送り申しましょう。

   ②解答例…かぐや姫が翁たちが死ぬまでそばにいられないこと。(19字)

   ③ 解答例…かぐや姫の、悲しむ翁を残して昇天することが、心残りでとてもできそうにもないという気持ち。

問5 作り物語伝奇物語) 平安時代前期 源氏物語



かぐや姫の昇天2/2  問題解答/解説

問1(1)a差し上げる・b下さる・c尊敬・h謙譲

  (2)a ア → オ ・b イ → オ ・c イ → オ ・h ア → イ 

問2 d尊敬・e受身・f詠嘆・g使役

問3 翁を「気の毒だ、かわいそうだ」と思っていたこともなくなった

問4(1)待ち遠しがりなさる

  (2)解答例…天人は物思いをすることもないので、待ち遠しくていらいらすることもないこと。

問5(1)情けを知らないことをおっしゃいますな

  (2)解答例…地上の人間の情けを無視しようとする天人をたしなめようとする気持ち。

問6 仕うまつら(動詞)/ず(助動詞)/なり(動詞)/ぬる(助動詞)/も(助詞)

問7 解答例…期限がくれば天に帰らなければならない身。

問8 作り物語伝奇物語) 平安時代前期 源氏物語


ふじの山   問題解答(解説)は下方へスクロールしてください。


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 ふじの山   問題解答(解説)

問1 aおうな  bそのまま  c

問2 d尊敬・めしあがる・作者から帝へ  f丁寧・ございます・「或人」から帝へ  g謙譲・奏上する帝に申し上げる)・作者から帝へ

問3 解答例…昇天した姫君に帝の思いを届けるには、天に最も近い山で、手紙と今は不用となった不死の薬とを焼いて、その火のような胸中の思いを煙として届けようと考えたから。

問4 「なみ」に「無み」の「み」と「なみだ」の「み」をかけ、さらに、「浮かぶ」の「う」と「憂」を掛ける掛詞。

問5 ③は「添える」、⑤は「連れる」の意。(他動詞では、揃える/連れて行く/持参する/添える、英語takeに近い?)

問6 解答例…実現できなかった姫への愛を思うと、この世に不死のまま生きながらえることの方が、辛く思えたから。

問7 解答例…多くの兵士を引き連れて登山したので、「兵士に富む山」すなわち「富士山」としているが、「不死の薬」を燃やしたので「不死の山」すなわち「不死の山」とも解釈できる。

問8 作り物語伝奇物語) 平安時代前期 源氏物語




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